『9-ナイン』サイボーグ戦士外伝 ver.1.02   作:白神貴士

ナイン
父親
母親

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-石森章太郎に捧ぐ- 

【第一章:ブラックゴーストの起源】
以下は絵本や紙芝居の読み聴かせの様に
あるいは映像・アニメーション等で。

声(父親か母親)
「昔々のお話です。
 戦争で大層なお金を儲けた金貸しの男が考えました。
 『ああ、もったいない…
  もっと前から戦争が起きることが判って準備してたら
  この何倍もお金が入ってきたのになぁ…
  いっそ、自分の都合の良い時に戦争を起こせるよう
  王様になろうか?』
 しかし、男は直ぐに思い直しました。
 『いやいや王様になったりしたら、
  国民に一揆や革命を起こされたり
  戦争に負けて首を斬られたり、
  勝った国に賠償金を支払わなければならない…
  そんなのは、まっぴらごめんだ。
  その役目は誰かにやらせよう。
  王様になった誰かを操って戦争を起こさせるのが一番だ。
  しかし、王様が言うことを聞かなくなったら面倒だし
  分け前をやるのも勿体ない…何かもっと良い方法はないかな…』
 しばらく考え込んでいた男はポンと手を打ち、
 『そうだ!今までのように兵隊や領地を持った貴族が王位を争うのではなく
  身分制を無くして誰でも人気投票で”王様”になれるようにしよう!
  そうすれば、投票を操って都合の良い忠実な男を王様に出来る。
  言うことを聞かなくなれば次の投票で落とせば良いし、
  暗殺したって構わない…そいつが兵隊を持ってる訳じゃないしな♪』
 こうして男は王様のゴシップやスキャンダル、
 ご家族の浪費癖などあることないこと良くない噂を流す一方
 穀物を買い占めて値段を上げ、国民の不満を煽り
 大金をつぎ込んで革命を成し遂げました。
 …しかし…
 『いざ、"民主主義"を作ってみると戦争を起こすのは簡単じゃないな…
  国民は戦争には行きたがらないし…
  金を掛けて事件をでっち上げても怨みもない国と戦争を起こすのは手間が掛かる…
普段からいがみあって、いつ攻めてくるか判らない位の国があるとだといいな。
軍隊や武器に税金を使っても国民が文句を言わないくらい、
恐怖と不安を感じるような、とんでもない悪魔のような国があったり
この"民主主義"というデマカセに慣れた国民が理解できないような
別の思想原理で動いている国があったり…
逆に平和に暮らしている奴らの真ん中の土地を取り上げて
全く別の国を作ったり…
そうだ、あったらいいなじゃなくて、やってみよう!
これだけお金があれば大抵の事は出来るじゃないか…』
 こうして男は仲間を募り、世界中が望ましい形、
 男にとって都合のいい形になるように投資を始めました。
 各国に自分の秘密代理人を送り込み、戦争の種をせっせと育てて…
 種はやがてあちこちで芽を出し、天高く伸び、
 枝を増やし、不気味な葉を茂らせて
 平和な陽の光を遮るようになってきました。
 種を育てるためにはお金が沢山必要ですが、男にとっては簡単でした。
 男はあちこちの国からお金を作る権利を奪い取りました。
 全ての国や政府が自分でお札を印刷するのではなく
 男の作った銀行という制度が発行する銀行券を利子付きで借りるという
 なんとも不思議な仕組みをこしらえたのです。
 中身のない経済を風船のように膨らませ、
 株の値段を上げるだけ上げて置いて一気に金に換え破裂させる…
 紙くずのようになった株券を買い占めて自分の会社や銀行を増やす…
 そしてまた繰り返す…
 今やお金は男がいくらでも作り出す事が出来ました。
 やがて戦争の大木は花を開き、実を付け、丸々と太ったその実は
 砲弾や爆弾、ミサイルとなって人々の上に降り注ぎました。
 世界は戦争で満ち、男達に莫大な富をもたらしました。
 もう戦争はいやだという人々の気持ちを利用し、
 "冷たい戦争"という軍備拡大競争が仕組まれ、
 国民から吸い上げた膨大な税金が軍隊や新型兵器、
 核兵器という怖ろしい爆弾につぎ込まれ、更に恐怖を煽り、
 平和であっても不安と恐怖にせき立てられる世界…
 それでも男は満足していませんでした…
 『ようやく全ての国家を動かせるようにはなったが…
  こう、国家の数が多くては手間が掛かるな…
  ちゃんと目が行き届いているかも不安だし、
  国家はもっと数を減らそう…軍隊やお金を統一して
  段々とグループを作り、ゆくゆくは一つにしてしまってもいい…
  だが"敵"がいなくなるのは困る…』
 男はそのために、一時は本気で"宇宙人"をこさえようと考えましたが
 やがて無理があると気付くと、"国際テロ組織"というものを考え出しました。
 かつて東南アジアの国で随分長い間、男に富をもたらした対ゲリラ戦争を想い出して…
 国家ではない敵、日常に潜んでいる見えない敵…なんて素敵なアイデア!
 男は各国で様々なテロ組織やカルトによる大量殺人テロを起こして
 "対テロ戦争"という相手のいない=終わりのない戦争を発動しました。
 大した証拠もないのに攻め込み、
 あちこちで必要以上の爆弾を消費する事に成功したのです。
 世界は男の思惑通りに動き、
 各国は男の作ったロボット兵器を争うように購入しました。
 そうなると戦力のバランスを取り、
 姿のない敵=国際テロ組織の恐怖を膨らませるために
 人間が自分の身体に仕込んだ爆弾を破裂させる"自爆テロ"以上の
 効果的な兵器がテロ組織側に必要でした。
 そうして創り出されたのが…サイボーグ=改造人間…
 これは、そうしたサイボーグの一人、"9"の物語です。」

【第二章:9の帰還】

映像あるいはナレーターが消えて
闇の中、別の声だけが聞こえる。

声(ナイン)
「3歳の頃、村が襲われた。
 雷のような銃声、悲鳴、血しぶき、あまりの怖ろしさによく思い出せない…
 父も母も姉も目の前で殺され、
 僕は連れ去られて…
 改造人間になった。」


轟々と荒野を吹き抜ける風の音がする。
小屋のような作りに似合わない医療用のような電子機器のある室内、
椅子に座る父親の視線の先で
母親、扉の処で外を見ている。

父親
「閉めて、ここに座りなさい。 
 お茶でも入れるから…
 もう、あの子がここに帰って来る事はない。
 あきらめよう…しょうがない事だ。」

母親、そのまま動かない。

父親
「少し落ち着いたら…もう一度…ペアレントの申請をしてみるさ。
 大佐に子供を見つけてもらってな…可愛い子を…今度は男の子が良いんじゃないか。」
母親
「あの子は私の子供、あなたと私のたった一人の子供…代わりはいない」

母親動かぬまま。

父親
「…お前の気持ちは判るが、こんなことになったんだ…もうどうしようもない…
 新しくもらう子供だって、じきに可愛くなるさ…ナインの時もそうだった。」
母親
「その子も、大佐の手術を受けて…大きくなれば戦場に行くんでしょ…」
父親
「それは、そうだが…大佐に逆らったら生きて行けないじゃないか…
 子供が大きくなる前にこの戦争が終わる可能性だって…」
母親
「そんなこと、あるはずがない…一番良く知ってるくせに…あっ!…あんた!」
父親
「どうした?」
母親
「あの子が…帰って来た…!」

父親が電話を掛けようとするのを素早く駆け寄って押さえる母親、
見つめ合って首を振ると父親も静かに電話を仕舞う。
だが代わりにナイフを取り出して来てベルトに隠す。

母親
「…あんた」
父親
「いざという時は、この手で…それがただ一つ、私たちがナインに、してやれる事だ。」
ナイン
「たぁ…だぁ…いぃ…まぁ…」

ナインがどうと床に倒れ込む。
血と土に汚れた戦闘服のあちこちが裂けて肌に血がにじんでいる。
母親、父親を見る。
二人してナップザックを外し、戦闘服を脱がせ機器の中にナインを収納する。
ナインに繋がれるチューブやコード。
カバーを閉じスイッチを入れて、ディスプレイでモニターする。

父親
「長時間、加速状態で戦ったようだな…15分〜20分以上…限界ぎりぎりだ。
 バイタルスピードが25%に自動減速中、
 20まで下げて維持、体温と酸素をサポートする…
 なんでこんな無茶をしたんだ…
 神経系が焼き切れても不思議じゃない、下手すりゃ脳が溶ける。」
母親
「…何か言ってる…」

母親、しばらくヘッドフォンに集中する。

母親
「敵機甲師団を一人で全滅させたらしい…
 グァザの難民キャンプが攻撃されるのを防いだんだって。」
父親
「そぉれぇはぁ、めぇいぃれぇいぃぐぅあぁ、あぁったぁのぉくぁいぃ?」
母親
「…………鼓膜がやられてるのかしら?よく聴こえないみたい…」
父親
「…リアルタイムに話がしたい…プラグで脳にダイレクト入力しよう、打ってくれ。
 『それは、命令があって出撃したのかい?』」
母親
「『違う』って…」
父親
「『お前は攻撃しては…いや、発見してはいけない敵部隊を発見し攻撃した…
 中止命令を無視してだ、そう…本部から連絡があった』」
母親
「『父さんの言ってることは判らない、多くの難民が死ぬところだった』…そう言ってる」
父親
「…この戦争には色々裏がある…お前達は黙って言う通りに戦ってりゃあいい。
 さもないと、困った事になる。そもそも加速状態で15分も戦うなんて無茶だ…
 そんな計算外の事をすると…」
母親
『戦争のシナリオが変わってしまう…』

両親、顔を見合わせる。

父親
「この戦争を早く終わらせようと考えている人たちが両方の陣営にいて、
 こっそり手を繋ぎ動いて居る…それを…お前は、勘違いしてるんだ。」
母親
『嘘だ!奴らは戦争をいつまでも長引かせて甘い汁を吸うため、
 停戦中に難民キャンプを襲わせようとした…そして、僕らが、
 加速型サイボーグが作られたのも…』

カバーが開いて、白煙の中、ナインが首のプラグを抜きながらゆっくり身体を起こす。

母親
「何してるの!休んでないと死んでしまうのに!」
ナイン
「戦う前にリミッターを切ったから…いつでも加速状態に戻れる。」
父親
「一端、リミッターを切ると二度と戻せない…
 どれだけ寿命が縮むと思ってる…取り返しのつかない事を…!」
ナイン
「そうしなければキャンプを救えない。
 リミッターを切るのに0.5秒も考えなかった。
…父さん。読んだんだ。
 父さんが屋根裏に隠していたギルモア博士の日記を読んだんだ。」

ナイン、メンテナンス機器から降り、ナップザックから古びた日記を取り出す。
ページをめくって…

ナイン
『…12年前、私が脳の数カ所に電気刺激を与えて
 人間の時間感覚とボディ・イメージを制御し、
 神経系統、循環器と筋肉のそれぞれを活性化・強化する技術と併せる事で
 人間の活動を高速化出来ると発表した時に
 学会は荒唐無稽と笑い飛ばして相手にしてくれなかった。
 唯一、研究に投資しようと声を掛けてくれたのはザイオン・テクノロジー、
 ステーツ最大の受注を誇る軍事産業の研究部門だった。
 だが、彼らは研究の一切を秘密にする事を条件にし、
 私は24時間厳重な監視下に置かれた。
 ザイオンの背後に"ブラック・ゴースト"と呼ばれる秘密結社がいると知ったのは
 極秘研究がスタートして2年後だった。
 研究が成功し、完成した技術を彼らに渡してから5年、
 ようやくブラック・ゴースト=国際金融資本と軍事関連産業の集合体が
 何のために加速型サイボーグ技術を使ったかが判った。
 彼らは、この人体以外にさほどコストが掛からず
 ローテクな機器で管理できる技術を、政府軍ではなく、
 彼らが捏造した反体制ゲリラ、密かに支援しているテロ組織に与える事で
 ブラック・ゴーストの利益となる膨大な軍事予算を支える、
 "強大な油断のならない敵"を創り出す事に成功したのだ…
 彼らは"加速型サイボーグ兵器"を新時代の自爆テロ、核兵器並の危険な兵器と
 喧伝し、政府軍の被害を過大に発表することで
 これに唯一対抗できる"人道的な兵器=軍事ロボット"の高性能化を進める為の
 膨大な開発・購入予算を議会から、国民から勝ち取った。
 実際、ステーツの軍事予算はヴェトナム戦争以降で初めて
 総予算の5割を超えた。
 だが、全ては企まれた陰謀なのだ。
 ブラック・ゴーストは敵味方を問わず、このデッチアゲ戦争の全てを管理している。
 軍事ロボットの性能・配備数は加速型サイボーグのそれと絶妙にバランスされ
 この戦争が泥沼のようにいつまでも続くように計算されていた。
 私は厳しい戦闘で酷使される加速型サイボーグの
 あまりにも短すぎる兵器寿命を伸ばすための研究に再び起用され
 非戦闘時にスローダウンして脳のオーバーヒートと肉体の消耗を防ぐシステムを
 新たに開発する事になった。』
 
ナイン、ページをめくる。

ナイン
「ここには父さんの事が書いてある…
 『ジービーはゼミの優等生だった。
  或る意味、私の研究パートナーだったと言っても良い。
  私が、直接技術指導をするためにパラナの大学に送り込まれて以来、
  これくらい熱心な研究者には会った事がない。
  最前線で戦ったゲリラ出身だが、改造型サイボーグをメンテナンスする役目を担う
  "ペアレント"に選ばれた事をきっかけにゼミに通うようになった。
  正直、帰ってしまったのが惜しいくらい研究に情熱とセンスを持った男だ。
  加速型サイボーグGタイプの9号を担当しているが、
  マニュアル通りで済ませてしまうペアレントも多い中で
  今でも最新の研究成果について熱心に問い合わせてくる。
  9号はおそらく稼働しているサイボーグの中でも最高のチューニングを施され
  最良の健康状態を保ち、能力は未だに向上を続けている。
  当然9号の上げた戦果も驚くべき物で、政府軍からは"白い彗星"と恐れられている。
  ジービーは戦果により与えられた報償をまた9号のチューンナップにつぎ込み
  9号の戦闘力・耐久力は実に最新のHタイプの2倍以上(つまり最高)の数値だ!
  ジービーの送ってくれる9号の戦闘時のデータは私の研究にフィードバックされ
  Iタイプ設計のための最重要資料となっている…』(ナイン顔を上げて)
 …父さんが大佐からもらった戦果の報償金だって、
 元を正せばブラック・ゴーストの汚いお金だ…
 僕の上げた戦果で、この手がもたらした敵の死体の山で
 一体どのくらいボーナスを稼いだの?」
母親
「ナイン!…なんてこと言うの!
 父さんの想いも知らないで!」

父親、母親の肩を押さえる。
受話器が鳴る。
取る父親。

父親
「(間)…はい。…はい。判ってます。…はい。」

受話器を置く父親。

父親
「ナインの言う通りだ…ナイン、決着をつける時が来たんだよ…
 間もなく、他のゼロゼロナンバー達がここにやって来る。
 大佐に捕まったら、お前がどうなるか…
 それよりは楽に、殺してやろう。」
ナイン
「父さんは只の人間だ…僕の性能を知ってるくせに…」
父親
「ああ、良く知っている。
 お前の行動パターン、反応速度…長所も弱点も何もかもをな…
 加速戦闘の消耗からも復帰していない。そこに俺のチャンスがある。」
ナイン
「本気なの。」
父親
「お前に嘘はつかない。」

父親、ナイフを突き出す。
その瞬間、父親と母親はスローモーションになる。
ナイフをもぎとろうとするナイン、
だが、その動きが判っていたかのように先回りして動く父親。
スローモーションながら油断がならない…緊迫した時間が流れる。
ナイン、思い切ってナイフの正面に立つ。
ややあって父親の目が見開かれナイフの切っ先が止まる。
ギリギリでナイフをもぎ取り、首を振って父親を抱きしめるナイン。
しかし、父親はナインをがっちり抱きしめたまま、背後に廻り
その首を締め付ける…
顔面が紅潮するほど締められたナインが振りほどこうとすると、
父親は弾き飛ばされ、ムーンウォークで踊っているようにゆっくりと壁に激突する。
倒れ込みせき込んでいたナイン、振り返って

ナイン
「父さん!」

ナインの加速が解け、父親はどうと倒れる…母親呆然と立っている。
父親に駆け寄り抱き起こすナイン。
目を開ける父親…だが見えては無いようだ。

ナイン
「…父さん…」
父親
「…ナインか…
 俺は、お前が来てから、夜も寝ないで勉強した。
 お前が大きくなる前にと通信教育を受け、パラナの大学で学んだ…
 必死に資料も集めた…ギルモア博士の日記もお子さんから譲って戴いた。
 だが、それはお前に戦果を上げさせる為じゃあ無かったんだ…
 …俺は、俺とお母さんは、お前が可愛くて仕方がなかった。
 将来お前を戦場で失うという事に耐えられなかったから、
 お前の性能アップに心血を注いだのだよ…
 どんな戦場からでも、お前が必ず生きて帰って来るように…」

母親、声を上げる、ナイン涙ぐむ。

父親
「だがなぁ…ナイン、俺はお前に詫びなければならない事がある…
 ナイン、俺も…お前の村を襲ったゲリラたちの一人だったんだ。
 俺はあの時、お前の姉さんをレイプした。
 怖かったんだろう…抵抗もしないで細い足を広げた。
 だが、もう少しで俺が往くって時に大佐が入ってきて、
 お前の姉さんの鼻を削いだ。
 血が噴き出し目ン玉がひっくり返った鼻の無い顔を見ながら…
 俺は…快感も無いままダラダラとお前の姉さんの中に漏らした…
 あんな非道い射精は初めてだった…ありゃあ…非道かったなぁ…
 …だから、こうなる運命だったのさ。俺はこうなる…」

父親、動かなくなる。
ナイン、母親を振り返る。

母親
「いいんだよ…ナイン…それでいいんだよ。」
ナイン
「母さん…」
母親
「私も昔、お前と同じように、襲われた村から連れて来られて
 基地に居た男全員に犯された後に、この人と結婚させられたんだ。」

ナイン、母親の胸で泣く。
その頭を抱いて。

母親
「この人は、その時未だ童貞だったよ…
 みんなに犯された時、あそこを銃剣で掻き回されたおかげで
 私は子供の出来ない身体になっていたけれど、この人は大事にしてくれた。
 …この人はその頃未だ子供で、みんなに馬鹿にされていたけど
 わたしにはとても優しかったんだ…。
 本当は戦場でドンパチするのは好きじゃなかったのさ。
 お前を連れて帰って…ペアレントになるって言って、
 これからは戦場に出なくて良いからって言った時は
 抱きしめてキスをした…とっても嬉しかった…
 お前に乳房を吸わせていると、そのうち本当にオッパイが出るようになった、
 ああ、この子は私の子供だ、私が産んだ子供だ…って、そう思えた。
 (母親、胸をはだけてナインに乳首を含ませる)
 親子三人の暮らしは本当に楽しかった…
 お前が育って手術を受けるまではね…
 ずっとずっと幸せが続くような気がしていた…
 あたしも…あの人も」

母親、目を閉じて涙を流し続けているナインに
突き立てようとナイフを振りかぶる。
その動きが突然スローモーションになる。

ナイン落ち着いた動作で身体を離す。
首を振り、悲しい表情で母親を見る。

じわじわと下降を始めるナイフ。
それをゆっくりともぎ取っても
腕はまだ惰性でじわじわと下降を続けている…。
ナイン、その唇にキスし、身体を抱きしめてから
静かに母親の頸動脈をカットする。
母親を横たえるナイン。

ナイン
「父さん、母さん…ありがとう。
 僕には…あなたたちの哀しみを終わらせることしかできない。
 またね…きっと、直ぐに会えるよ。
 僕のこれからの戦いには絶望の匂いしか無いけど
 きっと…いつか、誰かが、その意味に気付いてくれると思うんだ。
 この…あまりにも長すぎる悲劇を終わらせるために、
 いつか立ち上がってくれると思うんだ。」

ナイン出て行くと
母親の目が一瞬大きく見開かれ、大量の血がその首から吹き出す。
暗転。


【第三章:伝説】

映像で浮かび上がる少女と両親らしい姿。

母親
「いい子だから、これからお父さんのお話を最後までしっかりと聞いて
 いつまでも忘れないように心の中に刻みつけておくのよ。
 これはね、世界を救った1人の女の子の哀しい戦いの物語なの。」

少女頷く。

父親
「昔々のお話です。
 戦争で大層なお金を儲けた金貸しの男が考えました。
 『ああ、もったいない…」

声と照明がフェード・アウトしてゆく…

                  -幕-



【参考・引用】
サイボーグ009 石森章太郎
カラシニコフ カラシニコフU 松本仁一
世界権力構造の秘密 ユースタス・マリンズ
MONEY AS DEBT
http://video.google.com/videoplay?docid=-446781510928242771#

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