『KAYA-温羅の伝説-』 0.9β

【原案】乙倉俊
【戯曲】白神貴士

【登場人物】(兼ねる事も可能)

温羅(吉備の冠者)
秋鹿
阿曽媛
五十狭芹彦(吉備津彦)
吾田媛
秦の蔵人
楽々森舎人
犬飼命
留玉臣

百襲媛

阿曾女

ヤマトの兵たち
農奴たち
たたら吹きの工人たち
加夜の人々

山犬(大神)
大猿(ハヌマーン)
巨鳥(ガルーダ)

________________________


【第○場】アゾメ-阿曾女

阿曾女、進み出て観客席に頭を下げる。

阿曾女
「私は、御釜殿で温羅様に仕えております阿曾女でございます。
 湯を沸かして温羅様の唸り声が聞こえるか聞こえぬかで吉凶を占っております。

 温羅と申しますのは鬼でございます。

 その昔、あちらの方の山の上にある鬼ノ城、おにのしろと呼ばれる山城におったといわれている鬼でございます。
 その頃は、この辺りまで『吉備の穴海』と呼ばれる海があったそうで倉敷なんかもほとんど海の中だったそうです。
 ここ、吉備の地で御伽噺「桃太郎」の源流とされているのが『温羅』の伝説でございます。
 この物語は室町時代の成立と推定される『鬼城縁起』に始まり、幕末期の『吉備津宮縁起』に至るまで六つの資料が残っておりますが、
 実はそれぞれ様々に違っているのでございます。鬼の正体ひとつとっても「天竺(インド)から来た鬼神『剛伽夜叉(ゴウキャヤシャ)』」、
 「日本侵略に来た新羅国王『(吉備津の)冠者(カジャ))』」、「大唐の白斉国皇帝だった『吉備津冠者(キビツノカシャ)』」、
 「百済の王『温羅』」、「百済の皇子『温羅』」と変化し…その最後も、首を斬られ退治されたとする『鬼城縁起』以外は
 降参して吉備津彦の家臣、吉備の守護神となり、180歳まで生きたとする資料もございます。

 果たして温羅の正体は何だったのでしょう?
 吉備津彦はなんと281歳まで永らえたと書いてあるのは本当でしょうか?
 古代出雲とは、ヤマトとは、都怒我阿羅斯等(つぬがあらしと)、百襲媛、たたら製鉄…そしてKAYAとは?

 いつしか、そんな事ばかりが頭の中を巡りはじめ、夜ごと夢の中に、角がある大男が現れるようになりました。
 その男はまん丸な目をぎらぎらと光らせながら…私に向かって、『温羅』と名乗ったのでございます…」

阿曾女去る。


【第一場】ウラ-温羅


浜で荷を運んでいる農奴たちと鞭を振るうヤマトの兵たち。


「温羅じゃあ〜!! 温羅が出たぞぉ〜!!」

農奴は荷物を置いて逃げる…巨大な牛頭の鎧を被った温羅と兵たちの殺陣(兵たちは直剣、温羅は棒)
兵たち、蹴散らされて逃げる。農奴が一人物陰から出てくる。

農奴
「吉備の冠者、いや、温羅!…様…」
温羅
「何じゃ?」
農奴
「わしも連れて行ってつかあさい…そっちが、ええ…」

温羅、農奴の顔をじっと見定めて

温羅
「…名前は?」
秋鹿
「わしゃあ、児島の秋鹿(あいか)じゃ」
温羅
「そうか。ついてくりゃあええ。」

温羅、山ほどの荷を袋につめ、踵を返す。続く秋鹿。
(例えば背景の壁が開くと)タタラ製鉄の場。たたら吹きの工人たち。

♪タタラの歌

たたら吹け吹け 火の粉の祭り
あがる炎が 胸焦がすよ

眞金吹け吹け 炎の色に
明ける夜ぉさが 胸焦がすよ

三日三晩が こさえたケラのぉ
上げる煙が 酒の妻よぉ

たたら吹け吹け たたら吹け
たたら吹け吹け たたら吹け


秋鹿
「鉄ぅ作っとるんか…そしたらあんたは出雲か?」
温羅
「いいや違う。出雲にも寄ったが、もっと遠(とい)いところから来たんじゃ。」
秋鹿
「ヤマトの方か?あんたみたいな肌の色でそねーにでけえ人は見たことがねーが…」
温羅
「いいや、海の向こう…朝鮮という半島に伽耶という国を作っとった…元々の先祖ゆーたら、もっと遠い。はるか天竺にあるアヨーディヤーから来たんじゃ。」
秋鹿
「そうなんか、わしゃあ生まれてこのかた、どけーも行っとらんけぇ、どのくれーといーんかよーわからんが…ぼっけぇといーんじゃな。」
温羅
「秋鹿は出雲とヤマトどっちじゃ?」
秋鹿
「どっちも嫌いじゃ…どっちなんか、よーわからん。」
温羅
「もともとの者(もん)か?」
秋鹿
「…そーじゃ。わしらぁはずーっと昔から、ここにおったんじゃ。貝をとって、タコぉとって、魚ぁとって、鳥ぃとって、鹿ぁとって、イノシシとって、キノコや木の実ぃ食べて生きて来た…そけぇ『クニツクリ』のもんらあが来て、『こっからあっこまではわしらの土地じゃ、おめぇら米ぇ作れ』言われて、そっからぁずーっと奴隷ぐらしじゃ…やれ、出雲じゃ、吉備じゃ、ヤマトじゃゆーて、仕える相手はどんどんかわりょーるけど、どれも同じじゃ…けどなぁ…」
温羅
「…けど?」
秋鹿
「ヤマトぁ一番よーねー。出雲の方がましじゃった。」
温羅
「…そうか…ならなぁ…」
秋鹿
「…なら?」
温羅
「わしゃあ、も少しましにすらぁ。こかぁ、えー鉄が採れる。わしゃあヤマトと違うて、ここから搾り取るつもりゃーねえ。わしゃあ、こけー第二の伽耶、故郷を作りてーんじゃ。秋鹿、手伝ぉてくれぇ。」
秋鹿
「…故郷か。ならわりぃ国にゃあせんじゃろう…よっしゃ、わかった…わしゃあ手伝うで!」
温羅
「秋鹿!」

温羅が嬉しくて思わず肩を叩くと秋鹿吹っ飛ぶ…「あああ」と助け起こす温羅。

阿曽媛登場。

阿曽媛
「夜叉、戻っとったんじゃな」

音楽。阿曽媛、踊る。最後は温羅も加わって…踊り終えて、秋鹿に気づく阿曽媛。

阿曽媛
「この人は?」
温羅
「今日、仲間になった…秋鹿じゃ。秋鹿、これは安良女、今の呼び名は阿曽媛じゃ。」
秋鹿
「温羅、さっき阿曽媛があんたを夜叉ゆーて呼びょーたが?」
温羅
「わしにゃー色んな呼び名があるんじゃ。『剛伽夜叉(ごうきゃやしゃ)』も、そのひとつ…まあ、ほんまは剛伽耶夜叉(ごうかややしゃ)じゃけどな。呼びにきーけー。」
秋鹿
「ええっ!じゃあ温羅は本名じゃねーんか?」
温羅
「こけぇ来たとき、地元のもんに『名前は?』ゆーて聞かれた…で、『うらのことか?』と答えた…」
秋鹿
「ありゃ、それを名前じゃ思うたんじゃな!…すまんなぁ、わしもすっかり名前じゃ思うとった。」
温羅
「気にせんでもえぇ。わしゃあ『角がある人』ゆーて呼ばれとったこともある…温羅はまだマシじゃ。呼びやしーし、結構気に入っとる。」
秋鹿
「うらの名は『温羅』…」

一同吹き出す。笑い声が遠ざかり…



【第二場】イサセリヒコ-五十狭芹彦


霧の中、弓を捨て、矛を手に進む武人・五十狭芹彦。
前方に立ちふさがる女性武将。手には直剣を持っている。

吾田媛
「我は武埴安彦命の妻、吾田媛!そは何者ぞ!」
五十狭芹彦
「我は五十狭芹彦、帝の命を受け、謀反人を退治に参った!」

矛を振るう。吾田媛躱して。

吾田媛
「うぬら四道将軍が出立しもぬけの殻となる都を狙うたに…誰が秘密の企てを漏らした!」
五十狭芹彦
「北陸に派遣された甥の大彦が和珥坂で小娘の不吉な歌を聴いた!」

矛を振るう。吾田媛連続して躱す。

五十狭芹彦
「胸が騒いでわが姉、百襲媛に占わせたのよ!」

矛で突くが反撃される。吾田媛の連続攻撃を凌ぐ。

吾田媛
「無念なり!今頃は帝の首、秦の蔵人の首をとっておったはず!」

五十狭芹彦、攻撃を受け止めて、

五十狭芹彦
「何故あって、その様な恐ろし気な企てを!」
吾田媛
「…民は疫病や飢饉に苦しんで居る…このような時に何が戦だ!」

飛びずさって剣を避ける五十狭芹彦。

五十狭芹彦
「帝はならばこそと!世が定まらぬ故に災いが起きるのじゃと…」
吾田媛
「…笑止!」

剣を受け止める五十狭芹彦。

吾田媛
「…武具の調達やら兵糧の調達にかこつけて、おのが領地を広げようとの秦の蔵人の入れ知恵を真に受け、すっかり騙されておるのじゃ!そのような愚鈍な帝など国を傾ける災いの種よ…さっさと取り除かねば恐ろしいことが起きる!」
五十狭芹彦
「我はその帝の血を受けた者…謀反人の世迷言など聞く耳は持たぬ!」
吾田媛
「その耳塞ぐなら大穴を開けてやるまで!」

互いに跳びずさり、激しく打ち合う二人。
そこへ五十狭芹彦の加勢にヤマトの兵が到着する。

五十狭芹彦
「手を出すな!」

隙を見つけた吾田媛に矛の柄を真っ二つに斬られる。
加勢の兵の槍が吾田媛を背中から貫く。

五十狭芹彦
「吾田媛!」

五十狭芹彦、吾田媛を腕に抱く。

吾田媛
「…土地の民の声が聞こえぬ帝など…長くはない…お前もな…西には恐ろしい鬼がおるという…五十狭芹彦…喰われてしまえ…」

吾田媛、目を見開いたまま死ぬ。瞼を閉じさせる五十狭芹彦。
兵、死体を担いで運ぶ。


【第三場】ハタ-秦

五十狭芹彦ゆっくりと歩む。
その背後に現れる影…秦の蔵人。

秦の蔵人
「吾田媛、討ち取られたとのことおめでとうございます。」
五十狭芹彦
「蔵人か…めでたくはない。わしが討ったのでもない。」
秦の蔵人
「これで心おきなく西国を平げに出立されることができますな」
五十狭芹彦
「ふん…はは…蔵人、吾田媛がお前の名を出したぞ」
秦の蔵人
「はて?」
五十狭芹彦
「民は疫病や飢饉で戦どころではない…今度の戦はお前の私腹を肥やす悪だくみだとな。」

秦の蔵人、高笑いが始まって終わらない。
毒気を抜かれた表情の五十狭芹彦。

秦の蔵人
「ははははは…何とも面白いお話だ…ですが、五十狭芹彦様。こちらに兵力があり、兵糧の豊富な今を逃しては、こういった謀反の種を取り除くことはできませぬ。今のうちなら近隣をすっかり平らげ、世から戦さを無くすことができるのです。それこそが、最も民の為になるのではありませぬか。」
五十狭芹彦
「秦の一族は皆話がうまい…きっと頭が良いのであろう。いっそお前たちが帝になって戦をすれば良いのではないか?」
秦の蔵人
「人には得手、不得手がございます。私どもが戦に行ってしまっては外国(とつくに)との交渉事やら、ヤマトの細々とした政(まつりごと)、そもそも武器や兵糧や兵(つわもの)をそろえる事など、人にうとまれ、嫌われるような仕事まで全てお任せしなくてはなりませぬ…」
五十狭芹彦
「話を聞いておると、秦は全て出来るが、わしらには出来ぬとしか聞こえぬ…」
秦の蔵人
「滅相もない…戦で五十狭芹彦様の右に出るものなど、この秋津洲、日の本の島々にはおりませぬ。」
五十狭芹彦
「…戦は気が進まぬ。吾田媛も言うておったが、吉備には鬼がおるそうな。鬼は秋津洲の外から来たのだろう。」
秦の蔵人
「元より、それは帝とて、われらとて同じ。今、この時に秋津洲の土を踏んでおるもので、五十狭芹彦様にかなう者はおりませぬ…おお、そうだ…五十狭芹彦様は、吉備の冠者、鬼ノ城に棲む鬼が、どれほど民を苦しめているかご存じないのだ。」
五十狭芹彦
「なんと。」

秦の蔵人が見てきたように語る妄想がらみの温羅の話が舞台に出現する…

秦の蔵人
「遠く天竺に棲んでおったというこの鬼、身の丈は一丈三尺、怒ると炎を吹きます。夜な夜な山々を焼き、吉備の空は夜通しあかあかと焦げておるそうです。投げる岩は薪の様に燃え上がり、水さえ油の様に燃やしてしまいます。昼間は国中を駆け跳んで、民の妻子をとり喰らい、家畜を殺し年貢米を奪い、ありとあらゆる物を喰いつくすので、国中の老若男女が逃げ惑い、嘆き悲しんでおります…そればかりではありません。この鬼は女にも眼がなく、吉備に暮らす女という女は幼子から老女まで、ことごとくその毒牙に掛かって鬼の子を身ごもり、生まれた鬼子は一年も経つと並みの大人より大きく猛々しく育って暴れまわるので限(きり)がありません。自らに逆らうもの、妻や娘を食料を差し出すのを拒むものは腹心の部下でも引き裂いて殺してしまうので、もう誰もこの鬼に逆らう者はおりませぬ。逆らえば、いや、一瞬ためらっただけでも命がなくなるのですから…弱い者相手に強いだけでなく、ヤマトの正規軍と戦う折には、赤い翼を持ち、身は炎のごとく黄金色に輝く巨大な鳥や、身の大きさを変え、空を飛び、雷の様な声で吠える猿が守護神の如く出現して、鬼に加勢するそうです。」
五十狭芹彦
「…その鬼の名は?」
秦の蔵人
「人呼んで吉備の冠者、名は温羅…と、申します」
五十狭芹彦
「…温羅!」


【第四場】モモソヒメ-百襲媛

百襲媛
「温羅は…確かに恐ろしい鬼です。吉備には、五十狭芹彦…お前が行かねばなりませぬ。」

百襲媛、五十狭芹彦を座らせ、神懸って舞う。
天地の気を一身に集め、それを二面の鏡に注ぎ、魔鏡を作り上げる。

百襲媛
「五十狭芹彦…温羅は恐ろしい敵ですが、お前が出会わねばならない者です。吉備にはお前の運命が待っています。心してお行きなさい。」
五十狭芹彦
「どんな運命にも決して挫けぬ覚悟で吉備に参ります…ありがとうございます姉上。」

五十狭芹彦、恭しく鏡を頂く。


【第五場】カヤ-加夜

阿曽媛
「温羅〜!」

呼ばれて温羅が出てくると、後について加夜(温羅が吉備に拓いた国)の人々が幸せな笑顔で現れる。

♪カヤ賛歌

山に木霊すあの歌声は   吉備の冠者たるあの温羅様が
ほんに好いたる阿曽媛様を 恋し恋しと呼ぶ声じゃろか
仲が良い良いその幸せを  分けてもろうて畑に植えてぇ
春に花咲き夏には育ち   出来た赤子がこの桃の実じゃ

撫でてさすって剥いては見ても 虫に喰わせるわけじゃねえ

誰に喰わそかや〜 誰に喰わそかや〜
加夜は里中 桃だらけ 加夜は里中 桃だらけ


歌い踊る加夜の人々。
客席へも花や御菓子などが(備中神楽で大国主が投げる福の種の様に)投げられる。


♪"Utopia Ura-Ja"  作詞:蟠龍(ばんりょう) 作曲:蛹(さなぎ) [2000年]

二、
戦(いくさ)に 破れ海渡る
傷を癒やすは 吉備の民

心優しき 吉備の冠者
故郷(ふるさと)懷(おも)いて山城(やましろ)築く

諸人集いて ひらくは宴(うたげ)
吉備の冠者よ 温羅様よ

三、
吉備の地 栄えさせ給うた 異国の皇子(みこ) それは吉備の冠者
歴史に埋もれし その名こそ  吉備の冠者よ 温羅(うら)様よ

諸人集いて ひらくは宴(うたげ)
吉備の冠者よ 温羅様よ

桃の華(か) 馨(かお)り 桃の実 豊(みの)る
桃源の郷(さと)よ 平和の郷よ

桃源の郷よ 平和の郷よ


幸せなひと時…突然、飛来した大量の矢が人々を骸に変えた。

秋鹿
「ヤマトじゃ!ヤマトが来たぞぉ〜!」


【第六場】キビノナカヤマ-吉備の中山

吉備の中山に陣を張る五十狭芹彦。
五十狭芹彦の部下、犬飼命・留玉臣が控える。
楽々森舎人が帰って来る。

楽々森舎人
「ただ今帰って参ったでござる。」
五十狭芹彦
「ご苦労だった楽々森舎人、首尾はどうだ?」
楽々森舎人
「油断して浮かれておりましたので挨拶代わりに矢を射かけました処、上々の首尾でござる。」
五十狭芹彦
「今頃は慌ててこちらも油断せぬようにな。闘いの用意が整えば恐ろしく手強い敵の様だからな。何やら巨大な猿やら鳥やら使うそうな…犬飼命、例の物は出陣出来るのか?」
犬飼命
「うー、直ぐにでも、うー、大丈夫でございます。」
五十狭芹彦
「留玉臣、あれは持って来たか?」
留玉臣
「はい。百襲媛様の鏡二面…これに用意しておりますけん。」
五十狭芹彦
「吉備の冠者、温羅と申す恐ろし気な鬼、どれほどのものか早う見たい…戦が楽しみだ。」
犬飼命
「うー、腕が鳴ってしょうがありませぬ。うー。」
留玉臣
「早うこれを使うてみとうて…仕方がないですけん。」
楽々森舎人
「闘いはいつ始めるのでござる?」
五十狭芹彦
「…明朝、夜明けと共に開戦だ。」

仮眠をとる五十狭芹彦。
五十狭芹彦の夢の中か…阿曽媛が妖しく舞う。

阿曽媛
「ヤマトの方」
五十狭芹彦
「誰だ…!お前は誰だ!」
阿曽媛
「吉備の冠者、温羅の妻でございます…主人は戦を望みませぬ…戦をやめてお帰り頂くわけに参りませぬか…」
五十狭芹彦
「ならぬ。温羅を退治してこの地に平和をもたらすのが我が使命だ。」
阿曽媛
「この地は既に平和でございます」
五十狭芹彦
「温羅が居る限り、そのような事はあるまい。」
阿曽媛
「では、どうしても…」
五十狭芹彦
「そうだ。このような小細工をせず、正々堂々と勝負せよ。」

阿曽媛消える。
犬飼命・留玉臣・楽々森舎人が控える。

五十狭芹彦
「いざ、鬼ノ城へ!」

 
【第七場】キノジョウ-鬼ノ城

互いに高台に陣取る温羅と五十狭芹彦。

(人数が居れば)温羅軍とヤマト軍、兵たちによる槍や矛の戦い…互いの軍勢がわっと割れる。
巨大な鳥(ガルーダ)と巨大な猿(ハヌマーン)が出てくる。ヤマト軍逃げ惑うのを蹴散らす。

五十狭芹彦
「犬飼命!今だ!」

犬飼命が放った巨大な山犬(大神=狼)が吠え、ハヌマーン、ガルーダと向かい合う。
互いの手強さを感じたのかなかなか動けずにいる(あるいは死闘を繰り広げる)。

五十狭芹彦に合わせて温羅は同時に矢を放つ。正確に空中で喰い合って一向に勝負がつかない。
秋鹿が温羅に、楽々森舎人が五十狭芹彦に矢を次々と渡す。

五十狭芹彦
「くそっ!きりがないわ!」

百襲媛の声が響く(登場させてもいい)
「五十狭芹彦…一本で利かぬなら二本使いなさい…」
五十狭芹彦
「その声は百襲媛か…なるほど、礼を言うぞ。」

五十狭芹彦は2本の矢を弓につがえ、同時に矢を放つと、温羅に矢を渡していた秋鹿に命中。

温羅
「秋鹿ぁ!!!」

温羅が思わず秋鹿を介抱しようとした時、イサセリ彦の放った矢が温羅の片目を射抜く。

五十狭芹彦
「留玉臣!鏡だ!」

留玉臣は百襲媛の作り上げた魔鏡を取り出し、その魔力でガルーダを、楽々森舎人は同じくハヌマーンを錯乱させ、温羅を攻撃させる。

操られている二神を攻撃できない温羅は、鯉に変身して矢のように川下へ逃亡しようとするが…
鯉の温羅をガルーダが掬い上げ、五十狭芹彦の元へ連れ戻る…五十狭芹彦が温羅に剣を振り上げた瞬間、
多くの兵や吉備の民が温羅の周りを取り囲む。緊張の一瞬の後、兵は武器を捨て、民と共にひざまずく。

兵と民(口々に同じ意味の言葉を)
「冠者様を温羅様をお助け下さい。代わりにわしらの命を差し上げます。」

阿曽媛も額を土に擦り付けて

阿曽媛
「どうか、代わりに私の命を…」

温羅、ゆっくりと立ち上がり人々や阿曽媛を制して、五十狭芹彦の前に。

温羅
「名前は?」
五十狭芹彦
「五十狭芹彦だ。」
温羅
「五十狭芹彦…あんたが今日から『吉備の冠者』じゃ。」

首を差し出す。
見守る人々から「温羅様〜」と、悲鳴が上がる。
五十狭芹彦、剣を振り上げる。悲鳴が高まる。
降り下ろす…と、剣は土に刺さっている。
温羅、ゆっくりと首を上げ、五十狭芹彦を見る。

五十狭芹彦
「温羅の首は刎ねた…そう、ヤマトには伝える。」
温羅
「こりゃあ、どねえなことじゃ?」
五十狭芹彦
「私の聞いていた温羅はお前のような男ではない。温羅は死んだ。お前は生きて、ここ吉備を豊かで平和な国にする手助けをして欲しい。」
温羅
「…ヤマトにも、こういう男がおったということじゃ。」

温羅、みんなの方を振り返る。
皆、頷く。温羅、手を差し出す。
2人、手を握る。

吉備津彦残り、皆は去ってゆく。



【第八場】デンセツ-伝説

吉備にやって来た秦の蔵人。
微笑みかける吉備津彦を硬い表情で一瞥し、上座に座る。

秦の蔵人
「この度は帝の名代である。我を帝と心得て神妙に返答せよ。」
吉備津彦
「かしこまりました。」
秦の蔵人
「吉備の民の間に、死んだはずの温羅が生きておるとの噂がある…何故じゃ」
吉備津彦
「確かに…生きております。」
秦の蔵人
「なんと!…首を刎ねたと申したは偽りか!?…ただではすまぬぞ!」
吉備津彦
「その首が、生きているのでございます…」
秦の蔵人
「…なんだと!」
吉備津彦
「さらしております首が、朝な夕な、昼も夜も唸り声を上げ、村人は恐ろしゅうて野良仕事も手につきませぬ。年貢にも差し支えております…そこで帝にお願いがございます」
秦の蔵人
「願いと?」
吉備津彦
「阿曾より温羅の妻を迎え、首を懇ろに弔い、社を建てて、この怨霊を鎮めようと思います。つきましては、その費用、また、温羅が鎮まりますまで…吉備の年貢をご容赦戴きたい…もしこの怨霊が鎮まらぬようなことに成りますれば、帝のお命に関わるかも知れませぬ故…と、帝に伝えて下され。」
秦の蔵人
「なるほど。合い分かりもうした………五十狭芹彦様は…我ら秦より、上手(うわて)になられましたな…」

2人笑う。



【第九場】Utopia Ura-Ja

鬼ノ城の石積みに座る温羅。
吉備津彦がやって来る。

吉備津彦
「どうした?温羅」
温羅
「お呼びたてして申し訳ねーことじゃが…ちいと話を聞いてもれーてえんじゃ。」
吉備津彦
「温羅らしくもない。遠慮せず、何でも申せ。」
温羅
「吉備津彦様は吉備の中山に、わしはこの鬼ノ城で、それぞれ知恵を絞り、相談して吉備の国を治めて来た。」
吉備津彦
「ああ、お前のおかげで吉備は豊かで平和な国になった。」
温羅
「けれどな、そりゃあ、吉備津彦様という人がおってくれるから、そーなっとるんじゃ。ヤマトの吹っ掛ける難題もちょちょいと捌いてくれとる。向こうじゃて、吉備津彦様には対しては、そねーに無理なこともよー言わん…じゃが、吉備津彦様がおらんよーになったら、どねーなことになるか…」
吉備津彦
「温羅は、どーなると思っているのだ?」
温羅
「…吉備はヤマトに呑み込まれるじゃろ。ヤマトに行った物部やこーは、吉備を自分のものじゃと思うとるかも知れん。」
吉備津彦
「私の目の黒いうちは、そんなことはさせん。」
温羅
「それじゃが。じゃけえ、吉備津彦様には100年200年、ずーっと目の黒いままでおってもらう。」
吉備津彦
「流石にそれは無理だ…人間、いつかは死ぬ。それが自然の摂理だ。」
温羅
「おう…じゃがな、実は、わしは違うんじゃ…この身には不死の呪いが掛かっとるんじゃ。殺されて首でも切られん限りは死ねん呪いじゃ。この呪いをお前に移す…」
吉備津彦
「ちょっと待て。それでは、お前はどうなる?」
温羅
「わしゃあ、もう180年も生きた。ええ加減、くたびれたし、やるこたぁやった。もう思い残すこたーねえ…それじゃあ、ええか?」
吉備津彦
「待て!勝手に不死などにされても困る。」
温羅
「大丈夫。自分で死のう思うたら死ねる。」
吉備津彦
「待て…温羅がいなくなるのは嫌だ…お前が居なくなったら、私は誰に相談すれば良いのだ?」
温羅
「わしが死んだら、阿曽の者にこの剣を溶かした鉄で釜を作らせてくれりゃあええ…そーすりゃあ、わしが湯ぅ入れて炊いた釜の鳴る音で、えーかわりーか返事ゅーするわ。必ず、この吉備がもー大丈夫じゃ思うまで死んだらおえんで。わしの最後の頼みじゃけーな。」
吉備津彦
「本当に死ぬのか?」
温羅
「ほんまじゃ。…みてみい。ひばりが鳴いてあがりょーる。雲が白うて、空が青ぉて、えー風が吹きょーる。死ぬのにこんなにええ日はなかなかねー…。そろそろやってもらおうか…」
吉備津彦
「私が何をするのだ?」
温羅
「わしの首ゅー落としてくれりゃあええ。それだけのことじゃ。」
吉備津彦
「な…何を言っている…」
温羅
「不死の呪いの掛かっとるもんの首を落として、殺したもんには、不死の呪いが移るんじゃ…はよーやってくれえ。こう見えて結構覚悟もいっとんじゃ。」
吉備津彦
「そんなことが出来るか!温羅の首を落とすなど…私に出来るものか!馬鹿を言うな!!そんなことをしてまで不死になど…」
温羅
「あほぉ!!このどあんごう!!おめえのために言よーるんじゃねーわ!わしの為でもねえ!全てはこのKAYAに、吉備に棲んどる者たちの為じゃろーが!性根の腐ったよーなことぉ言よーたら、わしがおめえの首を落とすぞ!」

茫然とする吉備津彦の手に剣を握らせる温羅。
跪いて首を差し出す。

吉備津彦
「温羅…」
温羅
「なんも言うな。昔、お前がヤマトに報告した通りのことじゃ…ちょっと遅ーはなったけどな。ずーっと、お前の様な男に嘘なんぞつかせとったらおえんと思うとったんじゃ。さあ、剣を頭の上に構えたか…わしが1、2、3ゆーて言うから、3が聞こえたらすっぱりやるんじゃ。失敗したら痛ぇけー綺麗に切ってくれーよ。3言うても切らんかったら、いつ切られるか怖ぉーなって心臓が止まるかも知れん。そねーになったら無駄死にじゃけえ…失敗せんようにな。落とした首は釜を祀った下の土ん中へ埋めてくれぇ…頼んだで。」
吉備津彦
「…温羅…」
温羅
「1…2…」

吉備津彦、温羅の首を落とす。
痙攣する温羅の体…
剣を捨てて抱きしめる吉備津彦。

吉備津彦
「…温羅〜!!温羅ぁ〜!!」

音楽が始まる。登場人物たちが入って来る…『♪Utopia Ura-Ja』
最後、全員立ち上がって礼。

"Utopia Ura-Ja"  作詞:蟠龍(ばんりょう) 作曲:蛹(さなぎ) [2000年]

一、
奥深く 心に木霊(こだま)す その聲(こえ)
古(いにしえ) 吉備の冠者(かじゃ)

歴史に埋もれし その名こそ 
吉備の冠者よ 温羅(うら)様よ

諸人集いて ひらくは宴(うたげ)
吉備の冠者よ 温羅様よ

二、
戦(いくさ)に 破れ海渡る
傷を癒やすは 吉備の民

心優しき 吉備の冠者
故郷(ふるさと)懷(おも)いて山城(やましろ)築く

諸人集いて ひらくは宴(うたげ)
吉備の冠者よ 温羅様よ

三、
吉備の地 栄えさせ給うた 異国の皇子(みこ) それは吉備の冠者
歴史に埋もれし その名こそ  吉備の冠者よ 温羅(うら)様よ

諸人集いて ひらくは宴(うたげ)
吉備の冠者よ 温羅様よ

桃の華(か) 馨(かお)り 桃の実 豊(みの)る
桃源の郷(さと)よ 平和の郷よ

桃源の郷よ 平和の郷よ






【参考図書等】

温羅伝説-史料を読み解く- 中山薫
おかやまの桃太郎 市川俊介
物部氏の正体 関裕二 他
水木しげるの古代出雲 水木しげる
Wikipedia 他

"Utopia Ura-Ja" 岡山・いわとわけ音楽祭(2000年10月)
https://www.youtube.com/watch?v=aLOxri7bQZw