新選組外伝「万延元年のビートルズ」

白神貴士

演出 藤澤陽一

秘宝館昇天堂一座1999年度特別公演

11月13〜14日 アークスクェア表町

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登場人物

岡田以蔵

沖田総司

近藤勇

土方歳三

斎藤一

姉小路公知

坂本竜馬

おりょう・イゾーの母

武市半平太

田中新兵衛

勝海舟

後藤象二郎

榎本釜次郎

堀部安兵衛

桂小五郎

幾松

岩倉具視

大久保利通

伊藤博文

浪士

取り方

明治天皇

その他

(甲虫社中)

ジョン万次郎・・・ジョン・レノン

むつ国光・・・・・リンゴ・スター

相楽総三…… ポール・マッカートニー

タウンゼント・ハリス… ジョージ・ハリスン

雛菊…………ティナ・ターナー

綾菊…………アレサ・フランクリン

 

 

−全体はEDO時代最後の日の特別番組の中に封じ込められる。−

闇に声が生まれる。

声は次第に数を増し天地に轟く。

声「われら“日(ひ)”と申し、“影(え)”と申し、

“蜂(はち)”と呼ばれ、“八(や)” とも“八(ぱー)”とも呼ばれ、

穴居して“土蜘蛛(つちぐも)”、

山野に潜みて“隠忍(おに)”と呼ばれる。

山に住み“山人(やまと)”、海に住み“海人(あまと)”となる。

昔、さばえなす命の島につつがなく暮らせしが、

“国造り”海を渡り来て“日”の巫女(みこ)をたばかり

クニをつくりて戦(いくさ)を為す。

われらクニの内に奴婢(ぬひ)として、

クニの外に鬼(おに)として暮らす。

今に至りて多くはクニの庶民となる。」

明かり、リズムが弾け、“ええじゃないか”の民衆が満ちる。

歌「ええじゃないか

ええじゃないか! ええじゃないか! ええじゃないか!

負けても勝ってもええじゃないか!

ええじゃないか! ええじゃないか!ええじゃないか!

夢でもなんでもええじゃないか!

日の本世直し ええじゃないか!

豊年踊りは おめでたい

おかげまいりは ええじゃないか!

くさいものには 紙をはれ

こいつくれても ええじゃないか

そいつあげても ええじゃないか

持って去んでも ええじゃないか

ええじゃないか! ええじゃないか!ええじゃないか!

解説ええじゃないか踊りは慶応3年=1867年に“伊勢神宮の御札が降った”という事件をきっかけに三河の国に発生し、東海道を西へ広がり一ヶ月以上に渡って猛威を振るった民衆の大行進。男装、女装の人々が太鼓、笛、三味線などをかき鳴らし、狂ったように舞い踊り、金持ちの家に上がり込んで飲食をせがみ、強奪・破壊にまで発展したという。神社系であること、私有財産制への反感など縄文的エネルギーの発露を感じるのですが…)

ええじゃないか踊りが嵐のように去ると、12歳のイゾー牢獄の中で遺書を書こうとしている。牢の外の誰かに尋ねるように…

イゾー 「ねえ、いしょのいってどんな字?…こう書いてこう?じゃ、しょは?こう書いて、…そのしたにちっちゃい“よ”?ねえ、“よ”ってどんな字?…え、…こうして、こう?ちがうの?こう?じゃなくて…あ、わかった。こうだ。ね?……い・し・よ、おかだいぞう…へへ、なまえはまえにならったから書けるんだ…。」

音楽が流れていたTVにジョンが現れリクエストを読む。

ジョン 「つぎのリクエストはEDOの沖田総司くん19才のお便りです。」

イゾーの筆が止まる。

ジョン 「えー、……また血を吐きました。…えっ!ご病気なんでしょうか…大変ですねえ。…」

と総司の姿が浮かぶ。

総司 「また血を吐きました。僕の命は少しづつ、でも確実に僕の身体から抜け出してゆきます。こうして、かび臭い四畳半に一人で寝ていると、なんだか、親友のイゾー君の事ばかり思い出されます。もし…、イゾー君がここにいて、あの笑顔を見せてくれたら、きっと幸福な気分でいられるのに…ハッピーなまま死んでゆけるのに。そんな気もします。…でももし、ふたりが、また会えるとしたら…きっとそれは最後の、命のやりとりをするために向かい合う…そういう事になりそうです。それでもいい。…僕は君に逢いたい。…庭の塀の上に少しばかり寒そうな青空がみえます。君も、この空の下のどこかに居る…イゾー…逢いたいよ。君の、あの笑顔をもう一度見てから死にたい!イゾー!イゾー!!…どこにいるんだ…。」

イゾー、立ち上がって。

イゾー 「総司!ここだ!」

総司 「おお!」

総司の投げた刀をはっしと受け止めたイゾー、抜き打ちに一閃すると、牢獄がまっぷたつになる。脱走するイゾー、棒を持って手ぬぐいでマスクをした捕り方が溢れる。

ジョン 「リクエストは“ホリベ”僕たち兜虫社中の演奏でお贈りします…」

物憂いイントロのフレーズが流れ、スローモーションの殺陣がなだれ込む。一人で大勢を相手に蝶が舞うごとくに戦うのは、イゾー…と見える。

イゾー 「総司!!

総司 イゾー!!!

いつのまにかイゾーは消えて、派手なダンダラの羽織=歌舞伎芝居の赤穂浪士の討ち入り装束=新選組の隊服に身を包んだ浪人が大立ち回りをしている。総司の姿も消えてゆく。

歌「堀部」(曲はミッシェル・ポルナレフの“HOLIDAY”風)

堀部

安兵衛

安田の講堂(しろ)で

35人斬った

強い侍

赤穂浪士

堀部

さようなら

安兵衛

手を振り去って行く堀部安兵衛

ジョン 「大江戸TV名作ベスト10、第1位に輝いた1859年度作品〜赤穂義士伝・堀部安兵衛がゆく!〜最終回をお届けしました。」

雛菊 「300年に渡って皆様にご愛顧頂きました大江戸TVも、今夜でお別れです…明日からは国営の明治帝国放送協会に生まれ変わって、皆様の前にお目見えいたします。時代末生特番、“さようならEDO時代明日からは明治時代”最後のコーナーは、大江戸TVの総力を結集した、江戸・京都・函館3元生中継の大河生ドラマ…生演奏は引き続き、司会のジョン万次郎さんをはじめとする大江戸ビートルズ=兜虫社中の名曲にのせてお贈りします!・・」

ジョン 「幕末人斬り伝〜岡田以蔵と沖田総司〜!」

雛菊・綾菊 「このあとすぐ!」

                   ↓

                「タイトル・ロール」

                   ↓

ジョン 「それでは、このコーナーで1枚めのリクエストです。“私は土佐藩、今の高知県で郷士=ほとんど百姓ちょっぴり武士をやっている、武市半平太という青年です。」

武市が浮かぶ。

武市 「…郷士は家臣の人に会うと雨降りでも土下座で挨拶させられるくらい、身分が低いのです。でも、私は自分で言うのもなんですが、剣術が得意です。もっともっと腕を磨けば家臣にしてもらえると聞いたので、一人で、この太平洋の見える小高い丘の上で、雨の日も風の日も、毎日木刀を振っています。」

ジョン 「…こんな私をはげましてくれるのが、ラジオから流れるこの歌です…。“丘の上の馬鹿”」

歌「丘の上の馬鹿」(FOOL ON THE HILL風

出会ったよ

何が

お日様 海が

仲がいいよね

真っ赤になって

僕を残して

どこかへ消えた

大声で泣いた

一晩中泣いた

夜が明けるまで

後奏

曲の間で、一人稽古をしていた半平太が“山の者”の少年イゾーと出会い、イゾーがトランジスターラジオから流れる兜虫社中の曲に興味を持つというシーンをマイムで演じる。

イゾー、半平太の木刀を借りて一振りする。あたりの大木が数本倒れる大きな音。

武市 坊や…名前は」

イゾー 「おら、イゾーだ!」

武市 「ワシといっしょに京の都にいかんか?」

イゾー 「あんなのがいっぱいある?」

イゾー、トランジスタラジオを指差す。

武市 「あるぞ!四万十川の砂の数くらいあるぞ。」

イゾー 「いっしょに行くのか?」

武市 「いっしょだぞ。」

イゾー 「ずっと、いっしょか?」

武市 「ずーっと、夜空の星が全部流れて落ちるまでいっしょだ。」

イゾー 「おったん…死人だな…」

武市 「その字は“詩人”と読むのだ。」

イゾー 「おったん、……お父になるのか?」

武市 「…」

イゾー 「おらのお父になるのか?」

武市 「お前の、お父は?」

イゾー、黙って首を振る

武市 「よし、今からワシがお前のお父だ。マウント・フジのように気高く、昇る朝日のように慈愛に満ちた…絶対神の如きお前の守護天使だ!」

イゾー 「おっ父は凄い災難があるなー!!」

武市 「イゾー。それは“才能”だ。おっ父は乱暴者の詩人なのだ。」

照明が一変する。イゾーのみが照らされ、イゾーの母の声(or姿)。

「山をおりるんか?」

イゾー 「うん。」

あんなの、お父じゃねえぞ。」

イゾー 「…」

「二度と帰って来られねえぞ。山の者じゃなくなるんだぞ。かといって里の者にもなれねえ。この世のどこにも住処が無くなるんだぞ。」

イゾー 「おっかあ…」

「おらにも会えねえぞ。」

イゾー 「逢いたくねえのか?」

「逢いたいが掟じゃ。」

イゾー 「逢いたかったら、きっと逢える。」

「昔から…言い出すときかぬ子じゃ。行って来い。気が済むまで里を見てこい。お前は四万十川に呑まれたことにしておく。」

イゾー 「ありがと。」

「イゾーがいつ、どこへいても、どんな事をしていても、おっ母はお前のふるさとだ。決してお前を見捨てねえ。つらい時には思い出せ。

イゾー 「うん。」

「こん馬鹿もんが…」

母の声(姿)消える。

武市 「長い独り言だったな。お前も詩人か?」

イゾー 「おっ父、おら都に行く。」

武市 「そうか、行ってくれるか…」

イゾー 「うん。おっ父といっしょに行く。」

武市 「よしよし、ではイゾーに名前を付けよう」

イゾー 「名前は、イゾーだぞ?」

武市 「イゾーに京の都でしてもらうことがあるからな。侍の名前がいるのだ。」

イゾー 「おら、お侍になるのか。」

武市 「似たようなものに、だがな。まあ、歩きながら話そう。」

武市歩きはじめる。イゾー、置き忘れられたトランジスタラジオを抱きしめて振り返る。母の声も姿も、もう現れてこない。

武市 「イゾー早く来い。」

イゾー 「うん。」

武市 「イゾーは丘の上にいたから、岡田、…岡田以蔵と名づけよう。どうだ?良い名前だろう。」

イゾー 「オカダイゾー…長くて呼びにくいぞ。」

武市 「何、呼ぶ時はイゾーでいいんだよ。」

イゾー、少し安心したようだ。

イゾー 「この道は前の年に両手両足の指の数くらいの里人が、お月様が太ってまた痩せるまでかかって作ってるのを見た。都の道もこんなに立派なものか?」

武市 「知らぬのか。こんなものは都では道のうちにも入らん。いなか道というんだ。それより京でやってもらうことの話をしよう。…イゾーに頼みたいのは他でもない、今、京の都に跳梁跋扈している魑魅魍魎を退治して欲しいのだ。」

イゾー 「…ショウリョウバッタしているムチモーモー?」

武市 「…うーん、つまり妖怪変化というか、お化けのようなものだな。」

イゾー 「狸や狐か?」

武市 「黒船を知っているか?」

イゾー、フルフルと首を振る。

武市 「…だろうな。つまり、遠い遠いところから、われわれとは眼の色も髪の色も、肌の色も違う奴等がやってきたのだ。」

イゾー 「宇宙人の侵略?!地球寄ってく?」

武市 「いいねえ。あ…いや…、そう、その通り!そして宇宙人たちは、われわれ日本人そっくりに化けた悪の手先を使ってこの日本を宇宙人の国にしようと狙っているんだ!」

イゾー 「大変だ!…でも宇宙人ってどうしていつも日本を狙うのかな?」

武市 「深い理由があってのことでしょう。宇宙人の手先は、コーブガッタイといって男同士が後ろの部分と合体して仲間を増やして増殖したり、サバク派といって、この地球を奴等の星と同じ砂漠に改造するという恐ろしい計画を進めている。

イゾー君はこの天狗のお面をつけて正義の味方“テングメン”に変身し、悪の宇宙人を片っ端からバッタバッタと叩き斬ってくれればいいんだ!」

イゾー 「おら…テングメン?」

武市 「そうだ正義の味方、無敵の戦士“テングメン”…」

イゾー 「かっこいい!…おっ父は何するだ?」

武市 「え…私は正義の秘密組織“土佐勤王党”の隊長としてテングメンをバックアップするのさ!メンバーは“勤王の志士”と呼ばれる。合い言葉は“尊皇!”“攘夷!”。悪の宇宙人たちの正体を暴き、テングメンに連絡する!それが使命だ。」

イゾー 「おら、番組始まって20分ごろから出演すればいいんだな!おら、おら、ヒーローなんだな!」

武市 「その通り!歴史のヒーロー、テングメンこと岡田以蔵!歴史の教科書開けてみろ…幕末ってところにサブタイトルがついてるだろ!」

イゾー 「なんて書いてんだ?おら、字が読めねえ!」

武市 “岡田以蔵の時代”…!」

イゾー 「…す、すげー!!おら、うれしくって気絶しそうだ…」

武市 「当面の敵、幕末史の第二クールに毎週登場する、悪の宇宙人の組織について教える。しっかり聞け!」

イゾー 「イエッサー!」

武市 「敵は派手な、こう…袖のところに三角のダンダラ模様のついた悪の制服を着ている。組織の名は新選組、“ハウスの”はつかない。敵のボスの名は“近藤勇”またの名を“ジョニーさん”、こいつは特に、コーブガッタイの好きなやつだ!…そうだ、テングメンの決めぜりふを教えておこう…とどめの一撃を出す前に大声で、“テンチュー!”リピート!」

イゾー てんちゅー!

武市 「いいぞ!天誅!ポーズ!

イゾー てんちゅー!!!

二人暗転。場面が変わる。派手なだんだらの新選組が歩いている。

近藤 はっくちゅー!ぴかちゅー!ごめんなちゅー!

総司 「近藤さんのクシャミは可愛いですね。」

斎藤一、土方に耳打ち。

斎藤 「あの芸風はどうみても売れない吉本の芸人あがり。雅な京の都には不似合いというもの…」

土方 「斎藤、胸にしまっておけ。」

総司、近藤の鼻を拭いてやりながら

総司 「ねえ、近藤さん、僕なんかでも…近藤さんの育てた兜虫社中(びーとるず)みたいな時代のスターになれますか?僕、剣術しかできませんよ。

近藤 「なれるわよ…兜虫社中を始め幾多のスター・時代のアイドルを送り出してきた、このジョニーズ事務所社長=ジョニー近藤の眼と鼻を信じて。間違いなく総司は大スターの器だわ。ただし、これからの時代はもう、浄瑠璃(ろっく)だの囃子方(みゅーじしゃん)の時代じゃないのよ…これからの時代はね、バイオレンス!バイオレンス・アクション…」

近藤たちフリーズする。

二人の人間が交錯する。刀を持ったままの手首二つが宙を飛ぶ。斬った方の驚く顔…イゾーだ。田中新兵衛が後を受けて両手を斬られた男にとどめを刺す。

近藤たちのフリーズ解ける。

近藤 「…バイオレンス・ヒーローの時代なのよ!沖田総司=危険な香りのするオ・ト・コ…の時代が来たのよ。」

総司 「はあ…」

近藤 「はあ…じゃないでしょ!何のために美少年ばっかり集めたの!何で、あたしたちがこうして目立つ衣装で刃物ぶらさげて、日本一危険な都市…眼を血走らせた勤王の志士が、刀を光らせてあたしたち幕府の犬を叩っ斬ろうと待ち伏せしている…尊皇攘夷の嵐吹くこの京都の町並みを、そぞろ歩いてると思ってるの。あたしたちナンパでもしに来た?こうしてるうちにも今、そこの角から、薩摩の田中新兵衛なんて人斬りが現れるかも知れないのよ。

返り血を浴びた田中新兵衛が血刀をさげて現れる。

土方 (小声で)「…新兵衛?」

斎藤 (小声で)「新兵衛…!」

総司見とれている。近藤こづいて

近藤 「人の話聞きなさいよ。田中新兵衛なんか薩摩示現流の達人なんだから、ぼんやりしてたら袈裟懸けにバッサリ、首と身体が泣き別れよ。」

新兵衛 ちぇすとお!

新兵衛、トンボ(斜め最上段に立ち気味に刀を構える形)に構えた刀で後ろから斬りつける。近藤、偶然よける。

近藤 「示現流は最初の一撃が一番怖いんだから、本当に気を付けなさいよ!」

新兵衛 ちぇすとお!

新兵衛、二撃目、近藤これも避ける。総司たち目を丸くして見ている。

近藤 「どこ見てるのよ!ほら、もしここに新兵衛がいたら、とっくに斬られてるわよ。」

三人、新兵衛を指差す。近藤が振りかえる。新兵衛自然に死角となる方向を普通に、刀を肩に担いで去ってゆく。三人、呆然と見送る。

近藤 「何よ?どしたの?」

総司 「…土方さん、この先においしいぜんざい屋ができたんですよ!ほら早く!」

土方 「ん…ああ。」

総司先に行く。土方ばつが悪そうに一礼してから後を追う。

近藤 「まったく近頃のヤングは判んないわ…」

斎藤 「…ヤング…?」

近藤 「何よ。一ちゃん、何かいった?」

斎藤 「いえ。……鬼の副長、新選組の土方歳三も、総司には甘いですね。」

近藤 「あれで、本当はセンチでロマンチストだからね。総司の病気が病気だから、限り有る月日を精いっぱい生きさせてやりたいとか、そんな事考えてんのよ。あたしなんか、普通が一番だと思うのにね。本人が気兼ねしちゃうでしょ。」

斎藤 「剣術の稽古が一番です。何もかも忘れて刀と一体になる。世界が透き通って音楽が聞こえてくる…。」

近藤 「あら、一ちゃんも兜虫のファン?」

斎藤 「いえ、私はクラシックが。」

土方が駈け戻って来る。

土方 「人斬りです。尊皇攘夷派を騙って私腹を肥やしていた越後浪士の本間精一郎が斬られました。犯人は二人、一人は薩摩の田中新兵衛、もう一人は土佐の岡田以蔵、あるいは“天狗面”と名乗ったそうです。」

近藤 「何それ?」

斎藤 「とにかく、現場へ急ぎましょう。…沖田は?」

土方 「ちょっと、気分が悪くなったらしい。後から来るだろう。近藤さん行きましょう。」

近藤、二人、刀を抜いて

近藤 新選組、出動!

二人 「おお!」

三人駆け足で去る。よろよろと総司が出てくる。

総司 「くそ…病気なんかに…」

しゃがみこみ、せき込んでいると、目の前にしゃがみこんでいる子供を見つける…泣いているようだ。総司、ためらいがちに子供の背中に掌を置く。子供=イゾー、びっくりして振り返る。頭の上に天狗の面。

総司 「どうしたの?何で泣いてるの。」

イゾー 「今…今そこで、ひ、人斬りを…」

総司 「見たのか!……それは怖かったろうなあ。もう大丈夫だよ。僕がいるからね。」

イゾー 「グスン…おっ父は…あいつは宇宙人だから、血は緑色で、斬られたらフラッシュみたいに光って、消えるって…そう言ったのに…」

総司 「ん……?特撮物のロケか、何かだと思ったのかな?」

イゾー 「両手を斬ったら、赤い血がピューっと出て“痛い!痛い!”って…おら、びっくりして…そうしたら、新兵衛のにいちゃんが“後はおいどんが!”って、そしたら…そしたら…」

総司 総司、イゾーをやさしく抱きしめる。

イゾー (独白)「このお兄ちゃんはやさしい。」

総司 「…やはり、敵は田中新兵衛ともう一人…その最初に斬りつけた奴はどんな姿をしていたか判るかい。」

イゾー 「どんなって−と、自分の服装を言葉にする。−」

総司 「成る程…背の高さは?」

イゾー、立ち上がって自分の背の高さに手を。

イゾー 「これくらい…」

総司 「そうか、随分と小柄な奴だったんだな。坊や、家は?」

イゾー 「ねえ…。でも、おっ父がもうすぐ来る。」

総司 「おっ父はいるのか。…僕は家の無い孤児だったんだ。父も母もいなくてね。」

イゾー 「かわいそう…おにいちゃん、さみしいねえ。」

総司 「でも、今はたくさんの仲間や、父代わり、兄代わりになってくれる人がいるから大丈夫なんだ。…そうそう、良いものがある。」

総司、ぺろぺろキャンディーをイゾーに渡す。

総司 「これをなめながら、おっ父を待っててごらん。お兄ちゃんはもう行かないとね。おいしい?」

イゾー 「うん。ありがとう…お兄ちゃんの名前は?」

総司 「名乗るほどじゃないけど…」

と、いいながら、振りつきで、

総司 「壬生浪士隊改め“新選組”一番隊隊長“沖田総司”…略して総司です。」

イゾー 「かっこいいー!」

総司 「局長の近藤さんがいつも僕らにいうんだ。新選組は只強いだけじゃいけない、カッコよく美しく、無残な浪士たちの死体が横たわる斬り合いの現場にも、薔薇の花の二つ、三つ散らして帰るくらいの美学が必要だ…。また…、田舎だけど、壬生の屯所にでも遊びに来てね。じゃあ。あ、君の名は?」

イゾー 「イゾー!」

総司 「じゃあまた…!イゾー君!」

イゾー 「ありがと、総司!」

二人、2・3歩歩いて立ち止まる。同時につぶやく。

イゾー 「しんせん・ぐみ?」

総司 総司「以蔵?天狗面?」

同時に振り返る、顔を見合わせてびっくりする。思わず微笑む。手を振って去ってゆく。総司去る。イゾー、去ろうとして出てきた半平太とぶつかる。イゾー、ペロペロキャンディーを隠す。半平太、ニッコリと笑って。

武市 「お疲れ様。新兵衛から聞いたよ、どうしたんだい?」

イゾー 「おっ父…あいつは血の色が赤かった。“痛い、痛い”って…おら、驚いた。後は新兵衛の兄ちゃんが助けてくれた。」

武市 「そうか…やつらの手口も巧妙になってきたな。イゾーを混乱させるために、そんな小細工までするようになったのか…。大丈夫、あいつが宇宙人に違いないことは新兵衛にも確かめた。まずはお手柄だ。」

イゾー 「そうか…おら、びっくりして“てんちゅー”って言い損ねた…。」

武市

「次はちゃんと言えるように頑張ろうな。さあ、今日はもう終わりだ。お腹もすいただろ?美味いものを食べにゆこう。今夜は、良いところに連れて行ってやるぞ。」

イゾー 「おっ父、お金は大丈夫か?昨日みたいに橋の下でもいいぞ。」

武市 「…宇宙人を退治するとな、ご褒美のお金がもらえるんだ。だから、もうそんなことは、心配しなくてもいい。」

イゾー 「いいのか…おら、本当はお腹がぺこぺこなんだよ。」

武市 「いいとも、腹が破けるくらい食わせてやるぞ!」

イゾー 「わーい!」

半平太に抱きつく。

武市 「よしよし、刀を取ってこい。」

イゾー、隠してあった刀を取ってくる。二人、手をつないで去りかける。話し声が聞こえてくる。二人隠れる。

武市 「ありゃあ、まずい奴が来た…静かにしてろよ。」

イゾー 「誰?」

武市 「わしの…幼なじみじゃ…」

おりょうと竜馬が現れる。

竜馬 「ほいでのー、そん時、徳川家茂の一行に高杉が“いよっ、征夷大将軍!”ゆーて大声だしよったんじゃ!天下の将軍がへこへこ天皇の行列についていきよる時にぜよ!お供の、一ツ橋慶喜なんちゃ顔が引きつっちょったきに。まっこと痛快な話ぞね。わしゃ、日本に新時代が来て新しい政府ができた時には、あん男に大統領になってほしいんじゃ。ほいでゆうちゃるのよ、“いよっ!大統領”ゆうての…」

おりょう 「いやあ、かなんわ。また…落とし噺どすか…。」

覆面の浪士が二人の前に躍り出て、刀を構える。

浪士 「土佐の坂本竜馬と見受けた!覚悟!」

竜馬 「おまん、間違ごうちょる…。」

浪士 「何!」

竜馬 「わしゃ、土佐の坂本竜馬じゃのうて、“世界の坂本竜馬”じゃきにのう。…ほいでこれが、高杉晋作からもろうたスミス&ウェッソンのペストルぜよ。ほれ、いんだ方が身の為じゃ。」

浪士 「短筒が怖くて攘夷ができるか!」

威嚇射撃しようとした竜馬、避けようと這いつくばった浪士。しかし間延びしたカチッという音だけ。

竜馬 「いかん、弾、入れ忘れちょる!」

おりょう 「そんな!」

跳ね起き斬りかかろうと構えた浪士の傍らを稲妻が走った…と見えたのはイゾー。浪士倒れる。

武市 「竜馬!大丈夫か?」

竜馬「半平太!久しぶりじゃのお…」

武市 「おまんの脱藩以来じゃ…噂は聞いちょった。」

竜馬「坂本竜馬は、もう尊皇攘夷の勤王党じゃない…幕府と天皇が仲良うして、国を開くべきじゃゆうちょるから、志士にも、新選組にも、両方から狙われちょるゆー噂か?そんとおりじゃ。…大物はつらいぜよ。それより、そん子供じゃ。凄腕じゃのう。どこで拾うた?」

イゾー 「おっ父!」

竜馬「何!おまんの息子か?」

武市 「いや、色々あるんじゃ…どうしたイゾー?」

イゾー、おりょうの袖を掴まえている。

イゾー 「おっかあにそっくりじゃ。」


暗転。兜虫社中に明かり。

ジョン 「それでは京都の土方さんのリクエストです。…僕は丁稚奉公で苦労したので、少しは世間を知っています。」

土方が浮かぶ。

土方 「だから、近頃流行の、世間に甘えた浪士たちが大嫌いです。“尊皇攘夷”とお題目のように唱えていれば、天皇陛下を敬っていなくても、本気で外国と戦う気が無くても、お金を出してくれるところが有るからと、高級クラブや、料亭、ソープランドに入り浸り、酒を飲んではぶらぶらしてばかりいるくせに。時々は天誅と称して、まじめに国の為に働いている公務員の方を闇討ちにして殺害する。」

ジョン 「まったくふざけています。この曲を聴いて、少しは自分を振り返れと言いたいので、“革命遊戯”をリクエストします。」

歌「革命遊戯」(曲はレボリューション風)

遊びで レボールーション

片手間に 彼女くどいて

お酒は飲み放題
お金は 湯水の如くさ

“これでも僕は 革命家

江戸の幕府を倒して 偉くなるよ もっと もっと もっと


新選組、ジャニーズJrのように踊る。曲が終わると素早く位置につく。新選組の西本願寺の屯所。土方と、斎藤一が将棋を指している。総司が本を読んでいる傍らで、イゾー、八つ橋を食べながらラジオを聴いている。総司、小声で。

総司 「イゾー君も度胸があるなあ…世間に怖がられている新選組の屯所に一人で遊びに来るなんて。」

イゾー 「はっへ、ほへは」

総司、イゾーの口から八つ橋を外す。

イゾー 「総司が遊びに来いって。」

総司 「まあ、京も最近物騒だから、ここにいるのが一番安心だけどね。可愛いイゾー君が怖い目に合わなくて、いいかもね。」

イゾー 「おら、可愛い?うれしいな!総司に褒められると…」

総司 「あれから、土佐の“岡田以蔵”っていう、凄腕の人斬りが、京都や大阪で沢山の浪士や。目明かし、公家、学者を斬りまくっている。みんな、おちおち、町も歩けないって怖がっているよ。」

イゾー 「うん、宇宙人があんなに沢山いるとは思わなかったよ。おっ父の話では、まだまだいるらしいから、テングメンも、まだまだ活躍しねえとな。」

総司 「…イゾー君は、岡田以蔵と同じ名前だからあいつの、“天狗面”の味方になるの?」

イゾー 「(小声で)新選組にいるってことは…総司も、コーブガッタイの好きな、砂漠派の宇宙人なんだろ?でも、おら、きっと総司は良い宇宙人だとおもうんだ。」

総司 「…コーブガッタイ?サバクハ?難しい言葉知ってるね。うーん、確かに天皇様と幕府が仲良くして外国に対抗したほうがいいと思うから、公武合体の方が好きかな。幕府側の会津藩に雇われてるから幕府を支えて行こうという佐幕派だし。でもね、内緒だけどこれはまあ、お仕事なんだよ。命懸けのね。別に僕らはどっちが良いのかわからないんだけど、近藤さんが、やっぱりEDOの方がマーケットが大きいから幕府につこうって。平たくいえば“お金の為”かな。」

イゾー 「???・・・・・・じゃ、お金があったら総司は手先をやめるのか?」

総司 「え、・・・それは局長の近藤さん、副長の土方さんたちが決める事だろうな。僕はあの人たちについて行くだけさ。近藤さんはみなしごの僕をここまで育ててくれた。それは忘れられないよ。」

イゾー 「皆死後って何?」

総司 「おっ父も、おっ母もいない子供だったんだ。」

イゾー 「それって・・・コーブガッタイで生まれるの?」

総司 「え?」

近藤がズカズカと帰ってくる。

総司 「局長!」

4 人「おかえりなさい。」

近藤 「帰ったわよ。・・・総司、悪いけど帰ってもらって。」

総司 「は、斎藤さんにですか?」

土方 「さあ、斎藤・・・」

近藤 「その子よ!最近、誰でも彼でも近所の子を連れて来て遊んでるけど、ここは、新選組の屯所よ。孤児院でも、開くつもり?いいかげんにしなさいよ!」

総司、唇をかみしめて出て行く。イゾー後を追う。

土方 「局長!その言い方はないですよ。総司は、残り少ない人生を人斬りに捧げたんです。そんな総司が、束の間、汚れない無垢な子供たちの微笑みに安らぎを見つける・・・そういうのって、なんか、こう、よくあるじゃないですか・・・!」

近藤 「歳ちゃん。何、似合わない熱弁ふるってるのよ。」

土方 「その、近所のパートのおばさんたちにも評判いいですし、ただで預かってくれるって。時々は季節の野菜とかいただきます!」

近藤 「一ちゃん。鬼の副長の衣装を脱がせなさい。」

斎藤 「は!」

斎藤、ためらいもなく手をかける。

土方 「近藤さん!いやしくも武士の魂を愚弄するような・・・」

近藤 「直立不動!」

あっさりと剥ぎとられると、土方、“総司命”と書いたふんどしをしている。

近藤 「こんなことだと思ったわ。一ちゃん、そのまま井戸端に連れてって頭を冷やしてやりなさい。何が武士よ。丁稚あがりがのぼせ上がるんじゃないわよ!ああ、それから一ちゃん。」

斎藤 「はい。」

近藤 「あとで総司を部屋によこして。風呂に入れなくていいから。」

土方 「・・・局長!」

近藤 「馬鹿!」

土方、泣きながら連れて行かれる。

近藤 「まったく・・・総司の事になると知能指数がゼロになるんだから。それどころじゃないのよ!勝海舟が京都に来るって浪士たちが騒いでる時に!季節の野菜じゃ、ないのよ!

新選組なのよ!ガルルルルル!」

将棋盤の前にちょこんと座り、

近藤 「王手。あ、違った。」


暗転。

勝海舟が一人で本を読んでいる。ハエが飛んでいる。急降下。避ける。機銃掃射。パクっと食べる。 竜馬とイゾーがやってくる。ドヤドヤと通り過ぎる。帰って来る。

竜馬 「勝先生!こんな所におられたですか!いやあ、久しぶりですきに。これから下関へ行かれるっちゃ。下手しちょると長州と戦争ですな。幕府の運命がかかっちょる。いやあ、先生も大変ぞね。」

背中をバーンと叩く。勝、せき込む。竜馬、声をひそめて

竜馬 「こん京都にも、先生の命を狙ろうちょる攘夷派の志士がウロチョロしちょります。何せ先生は公武合体派の元締めです。今だってすぐ側まで来ちょるかも知れんですきに・・・」

イゾーが床下へ刃を突きとおすと「うわっ・・・!」という声。

竜馬 「そこで、こん男です。イゾーっち言います。まだ子供ですが、これが強い!道場剣術とは違います。もう、20人くらい斬っちょります。わしでもかなわんです。こん男一人おったら新選組が100人来ても大丈夫です。置いときますきに、まあ、大船に乗ったつもりでおってください!ほいじゃ、わしは帰りますきに。こいつは時々菓子やって、たまに遊んじゃってくれたら、ほいでいいちゅうて半平太が言うちょりました。ま、ポストペッ…いやタマゴッチみたいなもんじゃき。ほいじゃまた。」

ほいほいと竜馬去って行く。勝、イゾーに声をかけようとするが、たまたま横を向いていた。勝、せきばらい。

再度試みる。イゾーと目があった。

イゾー 「何、何?」

寄ってくる。言葉がでない。イゾーのきらきらした目。勝、追いつめられて踊り出す。踊り出すと熱がこもる。

踊り終えてイゾーを見ると寝ていた。可愛い寝顔だ。服をかけてやり、ため息をついて座り直す。

と、浪士が出た!

浪士 「勝安房守海舟、覚悟!」

イゾーが跳ね起き、一刀のもとに斬り捨てる。勝が驚いているうちにまた横になり寝息を立て始める。

寝返りをうって勝の膝に。天使の寝顔。勝、こわごわ髪を撫でてやる。

風景が入れ替わる。

半平太が手紙を読んでいる。イゾーが側で泣いている。顔に殴られた跡がある。

武市 「“勝先生にイゾーはどうでしたと聞いたら一言、怖かった、と言うちょった。その後、でも命の恩人だ。EDOに帰ったら芋羊羹を送る。と、言うちょった。イゾーは本当に凄いぜよ。…半平太へ…お前の幼なじみ、世界の、坂本竜馬 ”…」

半平太、手紙をビリビリに破き食いちぎる。イゾー、取り縋る。

イゾー 「やめてよ!おっ父…やめてよ!」

武市 「うるせえ!」

イゾーを突き飛ばす。

武市 「お前があの時斬ったのはな!長州の柏谷日世吉といってな、土佐勤王党のお友達、同志だったんだ!おかげで長州藩から文句言われてな、スポンサーの姉小路公知って公家さんからもな、“土佐は見境いが無い、バンバン殺しすぎだ、当分謹慎しやれ”って、畜生、あいつに目をつけられたらもう攘夷派の中では浮かびあがれねえ!ったく!困ったことしやがって、大体、あんな幕臣の護衛につけるたあ、竜馬もなんてことしやがるんだ!元々、勤王党だったくせに公武合体になりやがって…」

イゾー 「わかんない…」

武市 「何が!」

イゾー 「おっ父の言ってる事がわかんないよ…りょうまおじちゃんはおっ父の幼馴染みだったんでしょ…なのにどうしてコーブガッタイなの?アネコージキンタマておっ父より偉いの?おらが斬ったのは宇宙人じゃなかったの?わかんないよ!おら、悪いことしたの?おら、おら、……もう、おっ父の言ってることが…わかんないよ!

イゾー涙があふれそうになる。半平太のうつろな目に光りが戻る。

武市 「イゾー…泣くな。歯を食いしばって我慢するんだ。男は泣いちゃあいかん。おっ父が悪かったな。まだ、お前には難しすぎる話だった。だがな、お前が大きくなったらきっと、おっ父がなぜ殴ったか、何がどうなってるのか…わかる日がきっと来る。今はわからなくてもな。ほら、おっ父の目を見るんだ。お前はテングメンだ。正義のヒーローだ。お前には使命がある、みんなが幸せに暮らせるようになるために働くんだ。これは、この広い世の中で、お前にしか出来ない事だ…。わかるね。お前は男だ、勤王の志士だ。イゾー…笑ってみろ。ほら、おっ父も笑うから…な、元気を出せ。ほらもう元気になった、な。」

イゾー、ひきつった笑い顔を浮かべる。半平太、抱きしめる。

イゾー 「…おっ父は…おらが好きか…。嫌いになったんじゃねえのか?」

武市 「大好きだからこそ、腹が立つこともある…わかるな?」

イゾー 「おら、おっ父のこと、好きでいて…いいんだな。」

武市 「いいとも。じゃあ、大好きなおっ父の頼みを聞いてくれるか?」

イゾー、うなづく。半平太、頭を撫でて、

武市 「今度の指令は今までより難しい、秘密指令だ。失敗は許されない。」

イゾー 「大丈夫、必ずやり遂げるだ。」

武市 「その意気だ。よく聞くんだ。ある公家に化けた宇宙人の手先を斬ってもらう。そして、その公家の刀を使って、護衛の武士にとどめをさす。今回は“天誅”のせりふは無しだ。テングメンとも岡田以蔵とも名乗るな。いいな。真っ先に提灯を斬って、全部暗闇の中でやれ。今夜は新月、月の出ない夜だ。覆面をして誰にも見られないように半時後、猿が辻…。護衛も凄腕だ、決してぬかるんじゃないぞ。」

イゾー 「わかったよ!」

イゾー、刀を提げて出てゆく。

武市 「さて、次は誰についたものか…三条実美、いや岩倉具視か?…イゾー!イゾー様様だ。はっはっはっはっは……!」

半平太出てゆく。提灯の明かり、御所から出てきた姉小路公知と田中新兵衛。イゾー提灯を斬る。新兵衛刀を抜いて構える。

新兵衛 「刺客か!」

姉小路 「何者じゃ!マロを姉小路公知と知っての…」

姉小路、斬られて転がる。

新兵衛 「しもうた!」

新兵衛、斬り込む。覆面のイゾーと斬り結ぶ。

新兵衛 「待てぇ!この太刀筋、お前は…」

イゾー、新兵衛を斬る。姉小路の脇差しを抜いて新兵衛に近づく。新兵衛、懐から取り出した懐中電灯で、イゾーを照らす。

新兵衛 「イゾー…岡田以蔵だな。おいだ…田中新兵衛だ。」

イゾー 「…!!

新兵衛 「何だそりゃ、お公家さんの脇差しか…?下らん。武市の知恵か。おいが公家なんぞと刺し違えるわけがないぞ。おいならな…」

新兵衛、自分の刀を腹に突き立てる。一文字に斬る。

イゾー 「新兵衛!」

新兵衛 「おいが姉小路を斬ったならな、切腹する…。この方が自然だ。船頭あがりの人斬りが、磔にもならずに腹を斬って死ねたら…本望というものよ。忠告しておこう。武市半平太とは手を切れ…ろくな事にはなるまい。おいは、ずっと前に気がついとった。おいどんたちは只の人斬り包丁たい。斬って斬って斬りまくって刃こぼれしたなら、さっさと捨てられる。只の道具だ。…血まみれの人斬り包丁にすぎん。騙されて、利用されとる…だけだぞ…。人を斬らねば…どこにも居場所が無い…。」

新兵衛、こときれる。イゾー、脇差しを投げ捨てて駆け去る。朝が来る。

同じ猿が辻。新選組が現場検証をしている。

総司 「新兵衛が何でこんなことをするんでしょう?しかも、切腹するなんて…」

土方 「これは天狗面の仕業だ。」

総司 「ええ?!

土方 「新兵衛の傷は姉小路の脇差しの傷にしちゃあ大きすぎる。大体、脇差しに脂もついてねえ。しかも、この切り口の鮮やかさ。こんなに奇麗な傷がつけられるのは、あいつしかいねえだろ。あいつの人斬りが芸術の域だとすると、俺たちゃまだまだ、夜店の飴細工だな。ただ、もし俺たちの中で、あいつに勝てるとしたら…」

総司 「斎藤さんですか?」

近藤 「馬鹿ね。総司ちゃんよ。」

暗転。竜馬とイゾーが別々のスポットの中に。携帯電話で話している。

竜馬 「気にしすぎじゃ。…そもそも薩摩が新兵衛と組ませたのも、手柄は横取りして都合の悪いことはみーんなおまんのせいにするためじゃき、おまん、悪魔のように言われちょるぜよ。京に人を斬る鬼が二人おる、新選組の沖田総司と、土佐勤王党の岡田以蔵ゆーてな、えらい評判じゃ。半平太なんざ、おまんの名をだしただけでタダになるゆーてな、もう何ヶ月も飲み代払うちょらんきに、ええ気なもんじゃ。のう、はっはっはっ…。新兵衛もおまんに斬られて喜んじょる!まあ、そう気にせんと飯でも食いに来い。おりょうも逢いたがっちょるぜよ。」

今度は総司と電話している。総司片手に携帯、片手に血刀。

イゾー 「総司は、悪魔のように言われてても、気にならないの?」

総司 「いいんですよ。僕は近藤さんや、土方さんが大好きです。新選組を愛してます。あの人たちの夢のためなら僕は…(せき込む)…ね。」

イゾー 「おら…誰かを愛せてるのかなあ…?」

総司 「イゾー君はきっと、みんなに愛されてますよ。もう、心配しないで。」

イゾー 「うん…ありがとう…それじゃあね…」

総司 「元気でね。」

電話を切る。総司の周りが明るくなると、総司が粛正した新選組隊士の死体が転がっている。総司、血刀を懐紙で拭うと刀を収める。懐から取り出した薔薇の花一輪を死体に手向ける。

土方の声 「総司、早く来い!何をぐずぐずしている。規律を破ったものに情けは無用だ。・・・夜が明けてしまうぞ!」

総司 「…はい!」

総司去る。

暗転。兜虫社中に明かり。

ジョン 「僕には愛する人がいません。愛してくれる人もいません。そう…思えるのです。僕にはもう、どこにも居場所が無いように思えます。僕は何のために生きてるんでしょう。もう、わからないんです。…と、悩んでいる岡田以蔵君、12才からのリクエストです。“無宿人”」

 

歌「無宿人」( NOWHERE MAN風

天地(あめつち)の間に

行き場がないのさ

僕は無宿人になった

誰かの愛さえ

信じられずに

固く心を閉ざして

無宿渡世

つらい時世

お前の愛だけを

棲み家にしたい

歌の間の情景。

イゾー、竜馬を尋ねてくる。家の中で睦みあっている様子。入るに入れずに外で待っていると雨が降ってくる。

ずぶ濡れで立ち尽くすイゾーを、出てきたおりょうが見つけて中へ。手ぬぐいで身体を拭いてくれる。

おりょう 「ずーっと待ってくれはってたんか…堪忍え。」

イゾー 「…おりょうさんは、おらの事好き?」

おりょう 「大好きどすえ。」

イゾー 「愛してくれる?」

おりょう 「そうどすなあ…ぼんは、ほんまに可愛ゆうおす。けど、うちには心底惚れた人がいてはるから…」

浴衣姿の竜馬がやってくる。

竜馬 「えー湯じゃ。早う、入っちょき。」

おりょう 「ぼんが…」

イゾー 「…ええです。」

竜馬 「わしに用事じゃきに。かまん、入り。」

竜馬、酒をついで

竜馬 「いやー、待たせてしもうたのお。おりょうがなかなか放しちくれんきに…今、風呂にはいっとったんじゃ。おりょうが上がったら、すぐ飯の用意をさせるからのう。…で、何の用じゃ、イゾー。」

イゾー、黙ってうつむいている。

竜馬 「…どうした?イゾー!なんちゃ?そん顔色は!顔見せてみい。…いかんいかん、こんな顔しちょったらいかんぜよ。…イゾー、男はパワーぜよ、エネルギーぜよ。明るく楽しくエネルギーを発散しとらんといかん。おまんはつらいこと苦しいこと、悲しいことを心の内に溜めちょるきにそんな顔になるんじゃ…イゾー笑っちみい!」

イゾー黙って首を振る。

竜馬 「じゃあ、泣いてみい。声あげて大声でオーイオーイゆうち泣くんがええ。おまんは子供ぜよ。子供が大人みたいに我慢しちゃいかんきに。わしなんざ、餓鬼んころは寝小便たれでのー、そん上に大の泣き虫での、姉さの後を金魚の糞みたいにひっついちょったもんよ。いつでも、大口開けてアネサー!オットー!オッカー!っち泣きどーしじゃったきに…。ほれ、おまんも泣いちみい。かまんぜよ。」

イゾー、何度か首を振っているが、両の目からポロポロ涙がこぼれおちはじめる。うめくような小さな声が洩れたかと思うとたちまち土砂降りの夕立のように大声で泣きだす。竜馬、胸に抱いてやる。イゾーの頭を撫で、

竜馬 「子供じゃのー。まっこと子供じゃ。ええんじゃ、それでええんじゃ。泣き虫、子虫でかまんきに…。」

イゾー、竜馬の胸で鳴咽する。と、突然、おりょーが裸で飛び込んでくる。

おりょー だんはん!!

竜馬 「このべこのかあ!イゾーがおるじゃいが!」

竜馬とイゾー目をつぶったまま、おりょーの胸と腰を隠そうとするが、ポイントを外している。

おりょー それどころやおへん!新選組どすえ!!

いきなり斬り込んできた斎藤一の刃を受け止めるイゾー。竜馬が行灯を吹き消す。

闇の中に竜馬のS&W“サラマンダー”が二度、三度火を吹く。

土方 「退けー!一時撤退!」

竜馬 「イゾー!こっちじゃ!おりょー押し入れへ!」

窓から屋根へと逃げ出した竜馬とイゾーを一人の新選組隊士が待っている。

竜馬 「誰じゃ!」

総司 「新選組一番隊長、沖田総司!」

イゾー 「総司さん!」

と、竜馬のピストルを制して。

総司 「イゾー君?!」

竜馬 「ほお、さすがに知っちょるようじゃの。土佐の“岡田以蔵”ゆうたら新選組にとって死神のような名前じゃろ。わしが撃たんでもええ、まかせろゆうちょる。おんし、命が惜しかったらそこをどいた方が身の為じゃぞ。」

総司 「イゾー君は……土佐の…岡田以蔵だったのか…!?」

イゾー 「総司さん、ごめん!見逃して!」

イゾー飛び降りて消える。

竜馬 「どないなっちょんじゃ?」

竜馬、後を追う。呆然と立つ総司。土方が窓からのぞいて、

土方 「どうした!総司逃がしたのか?」

総司 「はい…土方さん。」

土方 「?…刀も抜かずにか…?」

総司 「…はい。」

土方 「事情は後で聞こう。」

斎藤 「副長、押し入れに女がいました。」

土方 「よし、屯所で尋問だ。…総司!帰るぞ。」

土方と斎藤消える。総司、もう一度イゾーたちの去った方を振り向いて

総司 「悪い夢のようだ…。」

帰ってゆく。月の青い夜空が残る。

竜馬の絶叫 おりょー!!

兜虫社中の明かりがついて、他は暗転。

ジョン 「それでは、京都の坂本竜馬さんのリクエストです。“三味が泣いている”…」

歌の間の情景。おりょうを救いに新選組の屯所に殴り込もうとする坂本を止める武市。坂本を縛り上げる。坂本泣いている。武市、布団に隠れたイゾーを引きずり出す、イゾー、いやいやをして泣いている。武市、大いに困る。

歌「三味が泣いている」(曲は“ While my guitar gently weeps”風)

両の まぶた 閉じりゃ 今でも

あの娘の三味が 聞こえる

流れ 頬を 濡らす

あの娘の三味も 泣いてる

若い二人の 奇麗な恋を

移る 時世が 裂いた

観音様で 来世を誓い

右と左に 別れた まま

両の まぶた 閉じりゃ いつでも

あの娘の三味が 聞こえる

風が 唄い 雲が 踊る

あの娘の三味が 泣いてる

ギターソロに移り、兜虫社中がフェードアウト。縛り上げられ、凄惨な(?)拷問を受けるおりょーの姿が次第に浮かび上がってくる。近藤、土方の見つめる中、おりょーを責めるのは総司。おりょー、さすがに肌着を一枚着せられている。総司の疲れきった表情に比べ、輝いているおりょー。土方が見かねて刀をおりょーの喉元に突き付ける。

土方 「女!どうあっても喋らぬ気だな。この刃で、その白魚のような指を、一本づつ切り落としてやろうか?その気になるかも知れん。」

近藤、想像しただけで気持ちが悪くなる。総司背中を撫でて、

総司 「土方さん、無理ですよ。この人は竜馬の為なら笑って死んでゆける人です。うらやましいなあ…。坂本さんは人を殺した事が無いし、桂小五郎なんて人は刀を抜いた事も無いそうじゃないですか。僕らとは大違いだ。きっと、ああいう人たちが新政府の偉い人になるんでしょうね。ねえ、娘さん、その時になっても坂本さんはあんたみたいな身分のひとを相手にしてくれるでしょうか?どう思う?助けにも来ないしさ。」

おりょー 「坂本様は…うちの太陽どす。どこにいたってうちに光の届かん事は有らしまへん。西洋の学問では夜空のお月はんも、あれはお日さんの光を受けて光ってはるて聞きました。たとえ、どんな暗い夜でも、あの人の姿が隠れてても、坂本様の光は…うちを照らしてます。」

総司 「本当に、幸せな人なんだ…うらやましいな。」

おりょー 「うち、幸せどす。ほんまに、怖いくらいに…」

近藤 「あー、やめよ!やめやめ!もうあんた帰んなさい。」

と近藤、おりょーの縄を解く。おりょー、一礼して去る。

近藤 「あー馬鹿らしい。歳ちゃん、飲みに行こ!まったく…やってらんないわ。」

近藤去る。土方、縄を拾い地面に叩き付けて

土方 「やる気あんのか、みんな!!!

総司 「土方さん…だって無駄ですよ。今の人は…」

土方 「何が無駄だ…!じゃあ、お前が坂本を逃がしたのも、無駄だからか?」

総司 「土方さん、もう、なんだかわからんのですよ。最近、勤王の志士を斬るより仲間の隊士を粛正する方が多いし…土方さんだって昔はそんな人じゃなかったじゃないですか。もっと、やさしい眼をしていた。今はなんだか…ワザとピリピリしているみたいだ。」

土方 「近藤さんを悪者にしちゃあいかんからな。ああ見えて、この新選組のやったこと全ての責任を両の肩にがっしり受け止めている。すごい人なんだよ。」

総司 「だからって土方さんは、“鬼の副長”と呼ばれて、バカみたいに厳しい隊規を作って、違反者を切腹させたり斬りまくって、一体何が楽しいんですか!そうして笑ってられるんですか?」

土方 「総司、俺達はな、昔の侍とは違う。元の身分だってバラバラだ。おおむね、社会の底辺からやって来た。大名と家来とか、決まった主従関係、上下関係が隊の中にあるわけじゃない。だが、京都を守護する会津藩から、金をもらって治安維持をやっているプロだ。この新選組をプロの戦闘集団にしてゆくには仲良く楽しくはやってゆけぬのよ!振り返れば安楽な茶の間があるような状態で、誰が刃の下に飛び込んでゆける?俺達下賎の者が腐りきった今の武士どもに本当の武士道を教えてやるのさ!」

総司 「どこに本当の武士がいるんですか?薩摩だって長州だって先頭きって攻めてくるのは農兵、やくざ者、奇兵隊なんかの諸隊=その他ですよ、エトセトラたちですよ。幕府だって、旗本は銃なんて持てるかって使えないんですよ!農民をかき集めてるんですよ!この時代に戦う根性があるのは俺達庶民だけですよ!300年えらそーにふんぞりかえってた武士たちじゃありませんよ!」

土方 「だから、俺達が新しい武士になる、いや、もうなってるんだよ。近藤さんは京都の守護職、所司代にだって堂々と意見している。京の帝だって江戸の将軍慶喜公だって、近藤勇の名前を、新選組の事をご存知だ。元は日野の奴隷百姓の小せがれの名前をだよ!この先、若年寄にも、老中にも、幕府の大幹部になろうって勢いだ!凄いじゃないか!俺達は凄いことをしてるんだよ!徳川300年の身分制度を実力で変えちまったんだよ!

総司 「幕府のお偉いさんたちが…自分の手を汚さないために、騙して使っている。金のためなら親兄弟でも平気で斬る…血に飢えた“人斬り狼”の群れ…そう、言われてるんですよ。」

土方 「何だと!総司、本気か!本気でそう思うのか!

総司 「いや、そう言われてると…」

土方 「もし、俺達が、言われる通りの“人斬り狼”でしかないと、総司!お前が、お前が言うのなら!俺はこの場で腹を斬る!総司!…介錯しろ!

総司 「ごめんなさい…土方さん…言い過ぎました。」

土方 「何だと!薄汚ねえ人斬り狼の首など斬れねえって言うのか!この首はお前に介錯してもらうだけの値打ちもねえって、そう言いたいのか!え、総司!!

総司 (土下座して)「この通りです。許してください!」

土方 「聞こえねえな…俺は人斬り狼だ!人間の言葉は聞こえねえな!

総司 「…どうすればいいんですか…?違います…違うんですよ。ただ、私は、私自身が本当に…ただの人斬り狼になってしまったような気がして…」

土方 聞こえねえっていったろ!総司、三べん回ってワンと鳴いてみろ!

そうする。

土方 お前は犬か!…舐めな。」

わらじを突きつける。舐める。

総司 「・・何でもします。私は土方さんを、尊敬してます。一目見た時から、ああ、この人だ、この人が本当の漢だって…惚れぬいてるんですよ!土方さんのために…私は毎日、人を斬ってるんですよお!

土方 「毎晩近藤に抱かれながらな…!」

土方、沖田の口を吸う。

総司 「土方さん…!」

土方 「俺達は間違ってなんかねえ!そうでなけりゃ、俺のやってきたことはどうなるんだ!夜ごと、近藤さんに責められるお前のせつな声に、耳をふさぐ事もできず壁につけて聞いていた俺のこの気持ちはよお!大体、声が大きいんだよ!おめえはよお!手ぬぐい詰めるとか何とかあるだろうに、このタコ!

総司を足蹴にする。影で聞いていた斎藤がつぶやく。

斎藤 「やれやれ、所詮痴話げんかか。政(まつりごと)も惚れたはれたには勝てぬ。犬も食わん。」

斎藤去る。

総司 「すみません!近藤さんが、もっと大きな声を出せって」

土方 うるせえ!誰が寝屋のノロケ話をしろっていったよ!…お前、…隊に入った時、歓迎コンパの席で言っただろ?“僕、土方さんみたいな人がタイプです。”って言ったろ?」

総司 「…はい…」

土方 「初めての剣術の稽古の後で言ったろ?“僕、強くてクールで、人を斬った後でもニッコリ笑えるような人が好きです。”そういったろ!」

総司 「言いました…。」

土方 「俺はな、隠れて寝る間も惜しんで稽古をしたよ。人の何倍もな!クールって何だろうなって鏡とにらめっこしたよ。人を斬った後で笑顔も作ったよ…お前に言われた事だからな!何でもしてきたんだよ!、それを、それを人斬り狼たあ、総司!俺はなぁ…」

と刀を突き付けるが、

土方 畜生!大好きなんだよお!

土方、総司をいったん抱きしめてすぐ突き放し走り去る。

総司 「土方さん…・。」

総司、激しくせき込む。かがみ込み血を吐き続ける。血がゆっくりと、床いっぱいにまで広がってゆく。

場面が変わると、ゆったり暖かい音楽が流れ、イゾーが布団にくるまっている。

武市が濡れ手ぬぐいを額にのせてやると、イゾーが遠くへ放る。武市が拾いに行く。繰り返す。

イゾー 「寒い…!寒いよ…!」

二人睨み合う。

武市 「本当のことを言おう。お前に嘘をついた。お前は人を斬ってきた。宇宙人じゃない。すまん、この通りだ。」

武市、土下座をする。イゾー布団の中に潜る。

武市 「お前を人斬りにしたのは訳がある。時代が変わる。掃除も必要だがしようというものがいなかった。…これで時代は変わる。お前のお陰だ。お前が時代を変える。この国に住む人を幸せにするために…。」

武市がゆっくり布団を剥ぐとイゾー、座り込んで泣いている。武市、やさしく頭を撫でてやる。

武市 「さあ、もう斬らなくてもいいよ。これが最後の人斬りだ。

明日、一緒にあの丘に帰ろう。あのいなか道を逆にたどって…さあ、ここに刀がある。これで全てが終わる。イゾー…頑張ったな。よくやった…。」

イゾー、刀をとって、夢遊病者のように立ち上がる。

イゾー 「終わりだ…終わったんだね…」

イゾーが去ってゆく。ニッコリ笑って見送る半平太。左右から腕が伸びて彼を捕まえる。後藤象二郎が見下ろしている。

後藤 「土佐藩浪士・武市半平太、家老・吉田東洋暗殺の罪により逮捕する。」

武市 「なんだとお!!

暗転。

シルエットで浮かぶ浪士に近づくイゾー…一刀のもとに斬り伏せる。倒れたのは…

竜馬 「…イゾー…おまんが、来たか…」

イゾー 「坂本…さん…?」

竜馬 「なんじゃ…知らんときよったんか。えらい能天気なやつぜよ…。いたたた…相変わらずええ腕しちょる…。脳天から真っ二つじゃ。即死でも文句の無いところじゃが…こん芝居の作者は悪魔のような奴じゃ、喋らんと死なしても、もらえんぜよ…。」

竜馬、どっかと座り直す。

竜馬 「気が狂いそうに痛いぜよ…まあ、おまんも座れ。立ち話も何じゃきに。」

イゾーも座る。竜馬突然、イゾーの手を取る。イゾー驚く。

竜馬 「イゾー!頼むぜよ。おまんは生きちょくれ…。おまんに死なれちゃ、困るきに…わしはな、ゆうべ帝に会うて来たんじゃ。帝に頼んできたんじゃ…新時代に、明治の世になったらこれだけは頼むちゅうて、ちゃんとしてくれんかったら、岡田以蔵が帝の首で蹴鞠がしたいゆうちょった!…ゆうて脅かしたぜよ。生き物を殺したら畜生道に堕ちるゆうて、1300年もわしらを苦しめた仏教を何とかしてくれ!日本をカムイの道にもどしてくれい…そん為には帝直々、四つ足ん肉も食うてくだされ、士農工商なんちゃ身分制は、とっとと止めて、長吏貧人にも解放令を出しちもらう。…約束したんじゃ。じゃが、イゾー!おまんが、おまんが居らんようになったら…どないにごまかされても、ええ加減なことされても、打つ手はないんじゃ…、あれでなかなか食えん餓鬼なんじゃ、約束守ったふりして平気で逆の事しよるじゃろ…。おまんが生きておってくれて初めて、この竜馬の、命懸けの偉業が…歴史に残るぜよ。…なあ、脳みそでちょるきに、こんなもん手に取って見たのはわしくらいぜよ。…ほんまに痛いんじゃ。もう…ええかのお?そうじゃ、おりょうのことを忘れちょった…おりょうは、おまんに…あ。もういかんぜよ…ビートルズが歌」

竜馬、突然倒れる。イゾー、竜馬をつっつく。動かない。

背中のネジを巻いてみる。片手がジジジジ…と動きかけたがパタリと落ちる。イゾー涙を落とす。竜馬の死体に突っ伏して泣き出す。

イゾー ああ〜…

新選組の斎藤、土方、近藤が刀を構え、イゾーを、素早く取り囲む。

イゾー 「どうしたの?」

近藤 「駄目よ!みんな、この可愛い顔に騙されちゃ駄目よ!」

イゾー「え?」

土方 「行け、斎藤…。」

斎藤 「土方さん…。一緒に行きますか?」

土方 「いや、子供相手に2人掛りとは大人げない。」

近藤 「この、馬鹿1、馬鹿2!相手は岡田以蔵なのよ!

3人、瞬く間に斬られて倒れる…と、思ったが峰打ちだった。

近藤 「悔しー!馬鹿にされてるぅ!」

土方 「イゾー、良い事を教えてやろう。」

斎藤 「副長!そいつは反則です。」

土方 「ここを教えてくれたのは武市半平太なんだ。」

イゾー 「おっ父が?」

土方 「そうだ、お前のおっ父はな、敵である我々新選組に…」

斎藤 「土方さん!」

土方 お前を、岡田以蔵を殺してくれと頼んできたんだ。

近藤 「そうすれば、坂本竜馬殺しを私たちの手柄にしてくれるってね。フン!」

土方 「いい話じゃありませんか!幕末史の一番手柄ですよ。それに、こいつがいなくなれば総司だって…」

イゾー 「おっ父が…おらを…?」

土方 「売ったんだ。武市は土佐藩の重臣暗殺容疑で捕まったが、証拠不充分で保釈された。土佐藩がお前を探していると知って、お前の口から今までの人斬りがバレルのを怖がっている。口封じに殺してくれと頼んできた…。」

イゾー 「おら、おっ父に嫌われた…おら、おっ父のいう通りに働いてきたのに……おらが…死んだ方がいいのか?…おっ父は、そう思ってるのか?…」

イゾー、刀を手から放して涙を拭う。後から後から涙が湧いて来る。土方、じりじりと近づき、刀を振り上げようとするのを、飛び込んできた総司が制する。

土方 「総司、邪魔するな!」

総司 土方さん!あんたは泣いている子供を、無抵抗の子供を斬るほど、落ちぶれたんですか!それがあなたの武士道ですか!

土方 「子供じゃない!そいつは岡田以蔵だ!京を恐怖のどん底に叩き込んだ“天狗面”だ!」

総司 「知ってますよ!けれど……どうしても、この子を斬るというなら、」

総司、イゾーをかばうように刀を構える。

総司 僕が相手です!

間、近藤、土方の肩を叩いて

近藤 「勝負あり。…さ、馬鹿1、馬鹿2、帰るわよ。」

斎藤 「はい。」

土方 「近藤さん?!

3人、(土方は近藤に耳を引っ張られて)去る。総司、近藤の後ろ姿に礼をする。そっとイゾーを抱き止める。

総司 「つらいかい…つらいだろうな。父親と慕ってた人に裏切られたら。でもね、武市さんだってきっと…」

イゾー 「おら、おっ父に会いに行く。」

総司 「イゾーくん!」

イゾー 「おっ父に聞いてみる。おら、約束した。おら、おっ父に聞いてみる!」

総司 「…わかった。近くまで送るよ。」

イゾー首を振る。

イゾー 「これはおらとおっ父のことだ…。総司に迷惑はかけられないよ。」

イゾー2、3歩離れてぴょこんとお辞儀をして去ってゆく。

総司 イゾー君!

イゾー振り返る。

総司 また会おう!…きっと!また会おう!

イゾー手を振り、もう一度お辞儀をして去る。

総司 必ず会おう!!

総司消える。半平太が皿一杯の饅頭を抱えてやって来る。

イゾー 「おっ父!」

イゾーが立っている。武市一瞬ぎくっとするが、何気ない様子で…

武市 「帰ったか。」

イゾー 「おっ父、おら聞きてえ事がある…。」

武市 「まあ、…ゆっくり聞こう。饅頭でもどうだ。」

ねずみが出てきて饅頭をかじり、こてんと死ぬ。

イゾー 「あ!」

武市 「あ……いやあ、これは年を取った古ねずみだ。美味い饅頭を食って、満足して昇天したと見える…ささ早く…」

ミケネコがやってきて、同じように饅頭をかじり、こてんと死ぬ。

イゾー 「あ!お隣の三毛!」

武市 「あ…お隣の三毛は風邪をこじらせて寝込んでいると聴いたが、一口饅頭を食って死にたかったの…」

言葉の終わらぬうちに、ブタがやってきて、饅頭をかじり、こてんと死ぬ。

イゾー 「横丁の為五郎さんちのブタが!」

武市 「…食いすぎていたが、どうしても饅頭が食いたかったんだな。今の饅頭一口で、ついに胃袋が破裂したのだろう。あさましいものよなあ…」

牛と、ロバと、おじいちゃんがやってきて、続けざまに饅頭をかじり、こてんと死ぬ。

イゾー 「町外れの牧場の牛と、パン屋さんのロバと、お向いのおじいちゃんが…!」

武市 「今日は、偶然と不幸が重なる日だ。さ、死体を片づけて、また誰かが不幸になる前にとっとと、その饅頭を食ってしまいなさい。」

イゾー 「はーい。」

二人で死体を片づけて、元の位置に座る。イゾー、パクッと饅頭を口に入れる。

武市 「食ったか?食ったな!…ははは、その饅頭には一個でアフリカ象も死んでしまう猛毒のトリカブトが混ぜてあるんだ。可哀相だがお前の命もこれまでだ。どうしてかを冥土の土産に聞かせてやろう。俺がお前に命令した数々の人斬りを土佐藩にバラされると俺の命が危ないのだ。悪く思うなよ…」

イゾーがパクッと口を開けると、饅頭がそのまま出て来る。

武市 「と言うのは、もちろん悪い冗談だ。この饅頭はいささか古くなっててな。食べないほうが良いかもな。」

イゾー 「変な味がした。」

武市 「そうだろ。」

と、饅頭を取って他のと一緒に持ってゆく。帰ってきたときにはジュースの瓶とコップをもっている。

武市 「インド産のマサラジュースだ。ちょっと変わった味だが、ぴりっとして意外に美味い。飲んでみるか?」

イゾー 「うん。」

イゾー、目をきらきらさせて寄って来る。武市、ジュースを注ごうとするが、手が震えてうまく注ぐ事が出来ない。イゾー、瓶とコップを取ると自分で注いで飲む。

武市 「あ。」

イゾー 「何だか変な味…なんだか、胸が苦しい…苦しいよ…おっ父…助けて、おっ父……」

と、のた打ち回って、苦しみ出す。

武市 「そうか…今すぐ、楽にしてやる…。」

武市、刀を抜いて両手で逆手に持ちイゾーの上で構える。

武市 さらば!

武市が刀を突きおろすより早くイゾーの抜打ちが一閃、刀を弾いた!イゾー、刀を手にゆらりと立ち上がる。武市、腰を抜かしてへたり込む。両手を合わせる。

イゾー 「お父…?」

武市 「おれが悪かった!許してくれ…。お願いだ。助けてください…この通りです。」

と、土下座する。

イゾー 「おっ父…おらが怖いのか?おらが、嫌いなのか?…死んでしまえばいいと…思っているのか?」

大岡越前か遠山の金さんみたいな音楽で、場は土佐藩の吟味方に移っている。イゾーも正面を向いて座る。半平太、後ろ手に縛られる。

後藤 「土佐藩大監察、後藤象二郎である。無宿人岡田以蔵面を上げい。調べによると、その方は土佐勤王党首領にして勤王の志士を騙る土佐藩浪士、武市半平太の手先となり、京・大阪において次々と殺人を犯した。

土佐藩下横目 井上佐一郎(いのうえ さいちろう)、

越後浪士 本間精一郎(ほんま せいいちろう)、

九条家家士 宇郷玄蕃(うごう げんば)、

幕府目明かし 猿の文吉(ましらのぶんきち)」

京都町奉行所与力 森孫六(もり まごろく)

大川原重蔵(おおかわら じゅうぞう)

渡辺金三郎(わたなべ きんさぶろう)

上田助之丞(うえだ すけのじょう)

儒学者 池内大学(いけうち だいがく)

千草家家士 賀川肇(かがわ はじめ)

他、その数を知らず。相違無いか?」

イゾー 「えーっと、両手・両足の指が3人分、くらいは、…人を、斬りました。」

後藤 「この武市半平太の指図によって…だな。」

イゾー 「はい!おっ父の指令で、斬りました。」

後藤 「お前は正直だな。」

イゾー 「はい。」

後藤 「その正直者に聞きたい。…武市半平太は、土佐藩参政吉田東洋の暗殺を指図したと、お前に話した事があるか?」

イゾー 「ヨシダトーヨーは土佐の宇宙人の大ボスだったから勤王党で退治したと聞きました。」

後藤 「そうか。…武市半平太、面を上げい。」

武市、顔を上げる。

後藤 「申し渡す。武市半平太に切腹を申し付ける。介錯人は・・・首を斬るのは…岡田以蔵とする。」

武市、白装束を着せられる。三宝に載せられた脇差しが運ばれてくる。イゾーが刀を持ち、武市の斜め後ろに立つ。

小声でイゾーに…

武市 「…なあ、今がチャンスだ。逃げよう。」

イゾー 「おっ父はおらを殺そうとした…。」

武市 「何かの間違いだ。なあ、イゾー…」

イゾー 「おらが、おっ父を殺そうとしたら、…どうだろう?」

武市 「違う!それは違うんだ!お前が死んでも代わりが居ない訳ではない。だが、俺が死んだらどうなる!明治新政府には薩摩と長州しか残らんぞ!俺の命は俺だけのものでは無い。日本の未来の為に無くてはならない人間なのだ。なあ、頼むイゾー!助けてくれ俺は、お前の

イゾー テンチュー!!!

イゾー武市の首を落す。

イゾー 「…おっ父…」

後藤 「見事な腕だ、岡田以蔵。お前は半平太のような武士では無く、無宿人ゆえ、斬首のうえ獄門に処せられる。…ただし、新政府の方から、岡田以蔵の処刑をEDO時代に別れを告げるアトラクションの中で行いたいとの依頼が来ている。刑の執行は追って沙汰のあるまで延期する。…以上で裁きを終わる。一同立ちませい!」

イゾー連れて行かれる。後藤象二郎も退席する。暗転。

EDOの夕暮れ、千駄ヶ谷の植木職人の家の離れ。病の床で寝ている沖田総司を土方歳三がかいがいしく世話をしている。久しぶりに近藤と斎藤が訪ねて来る。

土方 「これは近藤さん。斎藤さんも、いよいよ出発ですか?」

近藤 「まだなのよ。鳥羽伏見の戦で負けてこのEDOまで逃げてきたけど、今じゃ新選組も30人くらいでしょ。老中格にしてもらうのに、これじゃ格好がつかないからさ。これから浅草の弾左衛門ちゃんに会ってお金と人数を用意してもらうの。関東地方一体の長吏や貧人を束ねている大親分なのよ。あたしが現役でステージに立ってたころは随分援助してもらったの。結局頼れるものは昔の知り合いくらいね。…それより、総司はどうなの?」

土方 「お医者さんは良い事を言ってくれませんが、私は信じてます。こうやって真心を込めて看病していれば、必ず…いや、必ず、私が直して見せます。安心してお預けください。」

近藤 「まあ、あんたなら一生懸命看病するでしょうね。…厠を貸してもらおうかしら。」

土方 「はい。こちらです。」

と、近藤を案内する。出てゆく音に総司が目を覚ます。

総司 「斎藤…さん?」

斎藤 「総司、目が覚めたか。近藤さんも来ている。今、厠だ。」

総司 「いよいよ出発ですか?」

斎藤 「いや、だがもうすぐだ。…正直困っている。」

総司 「え…?」

斎藤 「総司は病気だ。これは、仕方ない。だが、土方さんだ…総司の看病のためにここに残ると言ってきかない。近藤さんも匙を投げてるんだ。」

総司 「…僕は行ってくださいと言ったんですが…」

斎藤 「近藤さんは負傷が癒えてないし、俺が指揮をする事になる…困るのだ。土方さんは、あれで人望がある。熱い男だ。俺はな、心は燃えても顔に出ない。指揮者には向かぬのだ。その点土方さんは…」

土方が帰って来る。総司を見て満面の笑顔。

土方 「おお総司、眼が覚めたか?近藤さんも来ている。じきに夕飯にしよう、生きの良い鯨が手に入った。今、盥で泳がせてるから。」

斎藤 「クジラ?」

土方 「時々、ぴゅーっ、ぴゅーっと潮を吹くんだ。あれはきっと美味いぞ!」

総司 「土方さん、お話があります。」

土方 「何だよ、改まっちゃって…俺とお前の仲じゃないか。」

総司 「土方さんに看病してもらってる間、本当に幸せでした。」

土方 「でした…って、すぐに死ぬように言うなよ!」

総司 「死にません、僕はまだ死ぬわけにはいかんのです。」

土方 「そうだ!その意気だ!」

総司 「僕はいいんです。でも、土方さんはそれでいいのでしょうか?」

土方 「いいとも!俺は好きで世話してるんだ。お前と同じように、俺だって今が最高に幸せなんだ!」

総司 「土方さんを待ってる人がいます。…新選組の仲間たちです。EDO、東北、会津、甲州の…薩摩、長州と戦おうという兵たちが、土方さんを待っているじゃないですか。土方さんが行かないばかりに死んでしまう仲間が、何人いるか知れません。ご自分の好き勝手な幸せの為に、土方さんを頼りにしてる仲間を裏切る…土方さんは武士、そんなことの出来る人じゃないですよね。僕の大好きな土方歳三は、心の底まで武士ですよね。

土方 「…総司…」

総司 次に会う時は冥土です。僕が行くまで、必ず入り口の所で待っていて下さい。それまで、二度と逢いません。僕の好きな土方さんに本当の武士でいてもらう為に…

土方、ふらりと立ち上がり、絶叫して駆け去る。

斎藤 「近藤さん。」

近藤、手を拭き拭き現れる。

近藤 「あらあら、長いトイレになっちゃったわ。歳ちゃんは?」

斎藤 「何か叫んで走ってゆきました。」

近藤 「じゃあ3日くらいはかかるわね。ま、そのうち来るでしょ。総司、手間を掛けたわね。恩に着るわ。」

総司 「…もう、2度と逢えないと思うと、」

近藤 「ちょっと寂しい?」

近藤、総司の手を握って、

近藤 「あたしね、今、自分で素敵な人生だなって思えるのよ。この時代に生まれてこの時代に死んでゆけて…よかったなって、そう思えるの。出会うのも素敵だけど別れることも素敵。始まりがあって、終わりがあって、そんなことを…いっぱい繰り返して…それが生きているって事じゃないかしら?」

総司 「はい。」

近藤 「あたしたち、とても沢山、生きた。短くても…」

総司 「…はい。」

近藤 「いい子ね。さすが、あたしが育てた最後のアイドルね。」

総司 「はい…。」

近藤、立ち上がる。

近藤 「じゃあね。また、いつか。」

総司 「はい…また、いつか。」

斎藤 「またな。」

総司 「斎藤さんもお元気で。」

近藤、斎藤出てゆく。総司、小さく咳き込み始める。夕闇が濃くなってゆく。

闇の中で灯芯に火を点ける手。浅草弾左衛門の顔が浮かび上がる。同じように近藤の顔が浮かび上がる。

弾左衛門 「人の世に光りあれ。…歳を取ったな。」

近藤 「お互い様よ。」

弾左衛門 「出世したとか?」

近藤 「幕府方にろくなのが残ってないのよ。300年は長すぎたのね。」

弾左衛門 「…われら“日(ひ)”と申し、“影(え)”と申し、“蜂(はち)”と呼ばれ、“八(や)” とも“八(ぱー)”とも呼ばれ、穴居して“土蜘蛛(つちぐも)”、山野に潜みて“隠忍(おに)”と呼ばれる。山に住み“山人(やまと)”、海に住み“海人(あまと)”となる。昔、さばえなす命の島につつがなく暮らせしが、」

近藤 「“国造り”海を渡り来て“日”の巫女(みこ)をたばかりクニをつくりて戦(いくさ)を為す。われらクニの内に奴婢(ぬひ)として、クニの外に鬼(おに)として暮らす。今に至りて多くはクニの庶民となる。」

弾左衛門 「EDOは影(え)=の土地、将門公のさらに昔から、われわれ歴史の影(かげ)に生きるものの土地、徳川家康公もまた影(え)の民じゃ。ここはわれわれのクニだった。だが、五代将軍綱吉から崩れてしまった。EDOは良い時代になるはずだった。それがあの“生類憐れみの令。”から狂ったのだ。幕府は京の公家と付き合いすぎたかの?今、影の民も尊皇と佐幕に別れて殺しあう…クニとは厄介なものだ。いや、そもそも“影”がクニをつくったのが間違いなのか…。」

近藤 「徳川を助ける気は無い?」

弾左衛門 「徳川に先は無いだろう…後がつらいな。」

近藤 「新政府はおいしいことを言ってきたの?」

弾左衛門 「…おいしいには、おいしいが…信じられぬ。」

近藤 「ふうん…。じゃあ、あたしの為ならどう?」

弾左衛門 「…若き日の美しき思い出の為に…か。」

近藤 「よせばいいのに、やたらに“永遠”を誓う男がいたわ。」

弾左衛門 「…仕方が無いな。軍資金一万両と、若い者200人。この、13代浅草弾左衛門をもってしても、すぐに動かせるのはその位だ。これで新政府に弓を引いた事になる。…今日はゆっくりして行けるのか?」

近藤 「いいえ。」

弾左衛門 「そうか…。ひとつ教えよう。」

近藤 「何?」

弾左衛門 「徳川はお前たちを見捨てた。甲陽鎮撫隊などと名前は勇ましいが…厄介払いだ。」

近藤 「そう。…そんなとこね。」

弾左衛門 「ジョニー…」

近藤 「なあに?」

弾左衛門 「死ぬなよ。」

近藤、にっこり笑って消える。弾左衛門、首を振って、静かに明かりを消す。

兜虫社中に明かり。ジョン万次郎が手紙を読む。

ジョン 「勝沼にて、近藤勇さんからのリクエストです。」

近藤が浮かぶ。

近藤 「今、戦火の中で、あの人の事を思います。若かった…あなたの輝くばかりの笑顔。幾筋かの涙。砲弾のように飛び交った想い。刃のように交わされた言葉。寂しげな横顔。そういった思い出の一つ一つが、こんなにも大切な宝物だったんだなあと感慨にふけりながら敵兵の首を斬り落としています。そんな宝物を入れた宝石箱のオルゴールみたいなこの曲“ゆうべ”を…リクエストします。」

歌「ゆうべ」(曲はYESTERDAY風)

ゆうべ あなたが 抱きしめた

わたしの 抜け殻が 朝露に溶ける

ゆうべ あたしが 抱きしめた

あなたという 夢が 朝焼けに消える

なぜ 思い出は美しく

なぜ この胸が痛いのか

ゆうべ 二人はくちづけて

二人だった日々に さよならをしたの

さよならを したの

歌の間に情景が浮かんで来る。

客席に向かってスローモーションで駆けて来る新選組の近藤、斎藤、土方。鉢巻きと胴をつけている。

官軍のアームストロング砲が闇を切り裂く。吹っ飛ぶ3人。

刀を杖にようやく立ち上がった近藤を鏡獅子のような獅子頭をつけた官軍の兵士二人が捕まえて去る。

追いすがろうとする斎藤と、土方、官軍の兵士と斬り合ってこれを倒すが近藤を見失う。

総司 近藤さーん!!

総司飛び起きる。

斎藤 「起きたか。」

斎藤が枕元に座っている。

総司 「…いつ、EDOに?」

斎藤 「さっき。」

総司 「今、夢に、近藤さんが…」

斎藤 「そうだろうな…」

総司 「え?」

斎藤 「お前にどう話そうかと思ってな。耳元で練習していた。」

総司 「じゃ。今の夢は」

斎藤 「本当の事だ。」

総司 「じゃあ、じゃあ…近藤さんは?」

斎藤、黙って首を振る。

総司 「そんな、まさか…」

斎藤 「本当の事だ。」

総司 「…土方さんは?」

斎藤 「会津が落城してから、仙台で榎本釜次郎という男が率いる旧幕府の艦隊に乗った。…北海道にクニを造ると言って、函館へ行くらしい。“どうせEDOに帰っても、総司は会ってくれんだろう。”…そう言っていた。」

斎藤 「僕のせいですね。…斎藤さんは、これからどうするんです?」

斎藤 「そのことだが。総司、メリケンへ行かんか?会津で一緒に戦った平松武兵衛というプロシャ人が、会津の希望者を連れてメリケンのカルホルニャに移住するんだと誘ってくれた。空が青くてこう、からっと晴れているらしい。お前の病気にも良いかも知れん。こんな日本など飛び出して、坂本さんではないが、世界の沖田総司になるのもいいんじゃないか?あっちでビルボードのヒットチャート1位になるような、大スターをめざすんだ。」

総司 「うれしいけど…もう、船に乗るほどの体力もないでしょうね。もう、これ以上に長生きしたいとも思いません。ただ…、一つだけ、もしかなうなら…」

斎藤 「何だ?」

総司 「イゾーに、逢いたいんです。」

斎藤、腕組みをして考える。総司の姿が消え、新政府の要人にして、大物プロデューサー桂小五郎が恋人の芸者幾松に膝枕をさせている。

斎藤 「…と、いうわけで、ここは、新政府の放送担当プロデューサーである、桂先生にお願いするしかなかろうと…。このとおり、お願いいたします。」

「…そりゃ、確かにイゾーは、こちらで確保してます。“さよならEDO時代”って番組で、“幕末の殺人鬼=岡田以蔵の公開処刑”というコーナーを企画してるのよ。その以蔵が、昔馴染みの殺人鬼仲間“新選組の吸血鬼=沖田総司”と涙の再会…ま、それも良いでしょう。けど、あんたね。新選組でしょ?私が誰か知ってるよね。桂小五郎ですよ。勤王の志士やってた頃はあんたらに迫害されてね。3ヶ月くらいかな、二条大橋の下で乞食に混ざって暮らしました。この幾松が夜な夜なお握りを届けてくれたんです。それはそれは愛情たっぷりのお握りなんですけどね。鳩が糞を落してきてね。トッピングですわ。けど、食わんとね。腹が減ってしかたがないんですよ。情けなくてね。涙ぽろぽろ流しながら食べました。ま、男はそういう挫折がないとね、大物にはなれんのでしょうね。……今、良い事を思い付きました。折角、幕末の2大人斬りが再会するんだ。戦ってもらいましょう。岡田以蔵と沖田総司の真剣勝負。これは良い。相手が死ぬまで勝負をしてもらって、勝った方は罪一等を減じて切腹ということでどうかな?これは視聴率とれますよ…いやあ、良い事を思い付かせてもらった。本当にありがとう…はっはっはっはっ…はっはっはっはっ…」

と、笑いながら幾松ともつれる。

「…斎藤さんでしたっけ。もう帰っていいですよ。」

幾松 「それとも、見ていかはります?」

「これ、幾松…。」

斎藤 「失礼仕る。」

斎藤、去り際に抜打ち一閃。柱が倒れ天井の落ちる音。

斎藤が刀をきっちりと鞘に納め、腰から外して座ると、そこは総司の部屋。総司、軽く咳き込む。

斎藤 「と、いうことだ。まったく相手にならん…とんだ食わせ者だ!とにかく、イゾーが新政府の手にある事だけはわかったが…私の力不足だ。総司、すまん!」

総司 「いいんですよ。…変だな。それもまたいいかなと…僕は思っているようです。イゾーと僕の対決か…見たい人がいるんでしょうねえ。ねえ。受けちゃいましょうか?」

斎藤 「馬鹿なことを言うな。」

総司 「馬鹿じゃないです。このまま逢えずに死んでゆくよりは、全然いいですよ。」

総司、起き上がり、枕元の愛刀“菊一文字”を抜き払い眺める。その眼に光が宿っている。

総司 「ほら、イゾー君に逢えると分かっただけで、僕の身体中に沸沸とエネルギーが満ちてきます。病魔に犯された細胞の一つ一つが力を取り戻してゆきます。不思議だな…。僕は、イゾー君に斬られる為に元気になってゆく。ふふっ。」

斎藤を残して、総司の姿が消える。

斎藤 「…快活な笑い声を上げる総司の横顔は、ほんのりと血の気も戻り、見ているだけで吸い込まれそうになるくらい奇麗でした。今までに見た総司の中で一番美しく凄絶なまでの色気を感じました。それは散る寸前の花のそれのようにも思えて…見つめている自分の瞼が、まるで女のように濡れているのに気がつきました…。」

斎藤が消え、兜虫社中に明かりがつく。

ジョン 「という、斎藤一さん24才のお便りでした。リクエストは…どこにも書いてませんね…」

雛菊 「さあ、いよいよメインエベントが近づいて参りました。セミファイナルは函館に用意されています。函館の、釜次郎さ〜ん!」

兜虫社中の明かりが消える。函館の榎本がマイクを手に姿を見せる。

榎本 「こちら、函館の榎本釜次郎です。北海道共和国の総裁を勤めております。と言いましても明日、幕府軍に無条件降伏いたします。その後は、明治帝国放送協会=MTHKの突撃レポーターとして、レギュラー番組“進めカマジロー”を担当いたします。一足早く、お目見えいたしております。カマジローです。…ということで紹介いたしますのは、あの、元新選組副長、わが共和国にありましては陸軍奉行並の役職を勤めこの函館戦争でも只一人、幕府軍に泡を吹かせてまいりました“戦場の鬼”“喧嘩屋トシちゃん”こと、土方歳三!この孤高の武人の最後の突撃、戦死の瞬間を、これから、まさに生中継でお贈りいたします。さあ、あなたも歴史の証人になりましょう!…それでは、ここで突撃前の歳ちゃんに今の気持ちを語っていただきましょう。どうですか?どんな気持ちですか。」

土方 「別に…早く済ませたいだけです。」

榎本 「済ませるって…死んでしまうわけですが、何か、心残りはありませんか?」

土方 「そうだな。官軍の甲鉄艦を奪い損ねたことぐらいかな。あれが有れば、まだまだ戦えたはずだ。」

榎本 「その作戦といい、常に最前線で戦って来ましたが…」

土方 「正直に言えば、早いとこ戦場で華々しい最期を遂げたかった…という気持ちもありました。冥土で待っているかも知れない人の為に…」

榎本 「おおっと、歳ちゃんは、このカマジローの問いに、意外な新事実を答えてくれました。…では、今日は待ちに待った日なんですね?」

土方 「そうです。だから…」

榎本 「だから?」

土方 この変節漢!下らないインタビューはいいかげんにやめねえか!

土方、抜刀する。榎本、ほうほうの体で側を離れる。

榎本 「怒りの歳ちゃんでした。あっと、今スタートいたしました!待ち受ける新政府軍のスペンサー銃やガトリング・ガンの銃口に向かって、土方歳三、最後の突撃です!

スローモーションで駆ける土方に向かって起きる、凄まじいまでの銃声。吹っ飛ぶ土方、だが、2度3度と立ち上がり、そのたびに撃ち倒される。絶叫、

土方 総司!!!

十字砲火、土方、ばったりと倒れ、二度と起き上がる事はなかった。

榎本 「たった今、土方歳三は、その35年の短い一生を終えました。最後の彼の言葉、それは病床にある隊士の安否を気遣う言葉のように聞こえました…最後まで彼は新選組の副長であり続けたようです。…ではEDOのスタジオにお返しいたします。レポーターは榎本釜次郎でした。」

兜虫社中に明かりがつき、函館の情景が闇に沈む。

ジョン 「いよいよ、決戦の時が迫って参りました。この世紀の対決の場所は I000年の歴史を誇ります古都京都のディープ・インサイド…京都御所、紫辰殿前広場特設スタジアムです!」

京都御所、広大な会場の真ん中に、頭に包帯を巻いた姿の桂小五郎が現れる。

「お待たせいたしました…これより、第1回幕末人斬り王者決定戦を開催いたします!青の角、佐幕派代表、元新選組一番隊隊長、沖田総司!

沖田総司がテーマソングにのって登場する。

「赤の角、元土佐勤王党、岡田“人斬り”以蔵!

イゾーがテーマソングにのり、きょろきょろと登場する。

「両者真剣にて勝負の事、勝者が敗者の首を斬り落すことによって勝敗を決する。勝者は斬首・獄門の刑を一等減じて切腹とする。両者、位置について、礼!始め!」

静寂の時が流れる。やがて沖田が静かに抜刀して正眼に構える。イゾーはまだ抜かない。沖田下段に変える。イゾーがスタスタと近づいて来る。沖田動かない。一瞬交錯する二人。イゾーの抜打ちを弾く沖田、イゾー離れる。再び刀を鞘に納める。

イゾー 「総司なら…受け止めてくれると思ってた…。」

二人の戦いが始まる。華麗に舞い鋭く襲う総司の剣…。稲妻のように閃き、翻るイゾーの剣。二本の刀が生き物のように互いを求めて絡み合い、離れてはいとおしそうに振り返る。幾度目かに鍔迫り合いとなり、みつめあった二人の顔が静かに解ける。二人、互いを抱き合う。

この勝負没収!掛かれ!

取り方の波。棒と盾を持った取り方の群れと戦う二人。宙を舞い、寄せては代えす波と戯れるように縦横無尽に暴れまくる。兜虫社中の「田舎道」が聞こえてくる。

 

歌「田舎道」(曲はカントリーロード風)サビから

田舎道 連れてけ おいらの家(うち)へ

仰ぎ見る おっかあの山 連れてけ 田舎道

町にあこがれ 田舎を捨てて

人斬り包丁 振り回し

転げて落とした 人生の

黄昏に 振り返る

田舎道 連れてけ おっかあの胸に

帰れない おいらの眼に

にじんだ 田舎道

 

遂に新政府軍の鉄砲隊が火を吹いた。被弾した総司とイゾー、にっこり笑い合うと互いの剣で胸を深く貫き合う。同時に、

イゾー 総司!

総司 イゾー!

二人、抱き合っているかのような体勢で立ったまま絶命する。

しばしの静寂の後、無伴奏の歌声が聞こえて来る。

カウンターテナーで歌われる“ロミオとジュリエット”の一節。

歌「ふたり〜二つの無垢な魂に〜」(無伴奏・曲はロミジュリ風)

あの夜 二人は

互いの こころ むすびあい

夜空の果てまで ふたり

行くことを 誓ってた

あれから 二人は

変わらぬ 想い 抱きしめて

夜空に輝く 星に

なることを 願ってた

毒々しいまでに派手な衣裳に身を包んだドラッグ・クイーンのようなメイクの近藤勇が美輪明宏の如く、毅然かつセクシーに登場する。唄いながらイゾーと総司とを静かに横たえ、その手をつながせ、瞼を閉じさせる。舞台前面に出て来ると近藤を残して全ては闇に消える。

近藤 「皆さんは今、二つの無垢な魂の亡骸を見たはずです。勤王も佐幕もない、汚れない愛の姿を…私は、元新選組局長、近藤勇です。」

スタジオにいささかのどよめき。

近藤 「新政府軍に捕まり、坂本竜馬暗殺を恨みに思う土佐の方の意向で、板橋の宿で処刑されることになりました。けれど“おかまの首を斬る刀は持ちあわせておらぬ。”と言われ、代わりに裁ち鋏でペニスを切り取られ、“近藤勇の不要品なり”と高札を立てて街道に曝されました。なんたる恥辱、なんと暴虐な仕打ちでしょう…けれど、私は怒りと激痛の中で決意しました。舌をかんで死ぬのはたやすいこと、けれど、この争いの一方に加担して、多くの人の命を奪って来た私が、こんな事で、この程度の苦しみで死んでいって良いのだろうか。私には為すべき事があるのではないか?生きよう。明日はわからないけれど、生きてゆこう。そしてこのような無惨な戦いが、二度と起こらない世の中にして行こう…まもなく、0時0分、新しい時代、明治時代がやってきます。その時代を私たちはどんな時代にするのでしょうか?もうこんな若者たちの…」

弁論中止!CMに行け。」

スタジオのモニターからCMが流れる、

近藤 どういうことよ!誰に私の出番をつぶす権利があるの!説明しなさいよ!

一段高いところに岩倉具視、伊藤博文、大久保利通の明治の元勲たちが現れる。

大久保 「おかま行為は西洋ではソドミーといってな、キリスト教の禁じた犯してはならない罪なのだ。もはや、EDO時代ではない。衆道、陰間茶屋等のホモ行為は一切禁止とし、取り締まる!禁止!禁止だ!」

伊藤 「衆道がもてはやされたのは、狭い島国で養える人口にも限りがあったからだ。これからは聖書の文句にあるように“生めよ、増やせよ、地に満てよ”だ。広く海外に雄飛し、世界に冠たる大日本帝国になるのだ。」

近藤 「何よ!おかしいじゃない!あんたたち、明治維新ってのは天皇に天下を取らせて仏教をやめ、カムイ信心に戻すって事じゃなかったの?そのために戦ってた庶民はどうなるの?死んでった人たちは!日本をキリスト教の国にするつもり!」

伊藤 「そうではない。良いところを取り入れるだけだ。仏教を排除する神仏分離・廃仏毀釈だって、一応やる方向で検討している。約束は守るつもりだ。…今のところな。」

岩倉、大久保に耳打ち。

大久保 「何より、現在の急務は日本を近代国家にする事だ。

欧米に負けぬように、アジアに進出して毛唐たちの魔の手からアジアを守らねばならない。日本がアジアの、世界の盟主になるのだ。そのためにも、日本が野蛮な国では無いと毛唐に認めさせなくてはならないのだ!」

近藤 「そのためには魂を、日本人の魂を売ってもいいの!大体、宗教ってのは人間の為にあるんでしょう!違うの!人間の、ありのままを愛してくれない神様なんていらないわよ!

近藤、撃ち殺される。

近藤 「近藤、死すとも…自由は、死せず…」

近藤、闇の中に倒れる。突然、声たちが生まれ大気に満ちる。

声たち 「人斬りの時代は終わった

大地に累々たる屍を踏み越え

天空に満ちる嘆きの声をかき消し

轟々たる凱歌を道連れにして

混沌たる黎明の輝きに包まれながら

新しい時代が……やって来る」

音楽が鳴り響く。

一転、(元勲たちの仮面をとった)鼻の高い外国人外交官たちと胸元露わな日本の貴婦人のダンスがなだれ込む。

歌「さよならEDO時代」(オリジナル)

頬伝う 涙のしずくに

映って 見えるのは

手と手をつなぎ 見つめあう

あのころの僕らの フォトグラフ

けんかもした(馬鹿騒ぎも)

おだやかな(日々もあった)

陽の光(やさしく 僕らを)

照らしていた(あの頃は)

さよなら さよならEDO時代

さよなら EDO時代 これからは

あなたの時代

演奏がドラムロールだけになると、一同フリーズする。死んでも死にきれなかった竜馬が地獄の底からやって来る。

竜馬 日本の、日本の革命は成ったのか !!

十字砲火を浴びて倒れる。

明治天皇が現れ、一瞬のためらいの後に竜馬を踏みつける。

「君が代」のメロディーが重く流れ、停まっていた時が流れはじめる。竜馬を踏み越してやって来る天皇。

全ては闇に閉ざされてゆく…と、「君が代」は「SUKIYAKI」に変わって

幾万の星が流れ落ちるように、幕末という時代が地平線の彼方へと消え去って行った。