信長2003 〜本能寺に原爆を落す日〜 ver2.3

原案 M.U.D.(マット運動同好会)
作 白神貴士

 第1章  ナイトランナーの伝説

【ナイトランナーを追え!】

闇に流れるゲス・フーの『アメリカンウーマン』。
笑い声が闇に満ちる。牛骨を頭に被ったアフリカ原住民を思わせる人々のシルエットが浮かぶ。


「八百万と言う。その昔、800万の天津神(あまつがみ)が海を渡り1500万の国津神(くにつがみ)を屠り、
島々を手に入れた。ここOWARIの地でも景行天皇が、牛の顔をして笑い騒ぐ者どもを斬り殺させたという
伝説が残る・・・・時は移りて戦国の世、相次ぐ戦で荒廃した国土の中で、OWARIの森深いデルタ地帯、その
辺境に、国津神の子孫たちがひっそりと暮らしていた。」

牛頭の者達、2〜4組の親子になる。様々な設定のポーズで1組の親子の会話のように

子(たち)
「ねえ・・ゆうべの足音は何だったの?」
親(たち)
「足音?」

「足音がやって来て屋根を叩き戸口を蹴りつけたじゃない!」

「ああ、あれは"ナイトランナー”だよ。」

「”ないとらんなあ”?」

「ナイトランナーを見てはいけない、目が潰れてしまうからね。呪いがかかって死んだ人もいるからね。」

「恐い人なの?」

「人じゃない、森の精霊が人に入り込んで走り出すのさ。馬より速いスピードでね。ナイトランナーは動物
と話したり、河馬に乗ったりも出来る。人と出会うとナイトランナーは怖ろしい魔法をかける、だから決し
てナイトランナーと出会ってはいけない。足音を聞いても聞こえないふりをするんだ。姿が見えそうになっ
たら目を瞑るんだ。いいね?」

親たち、走り去る。遠くから、ひたひたという足音が聞こえてきて子供達思わず立ち上がる。


「ひとつだけ嘘をつかれたと思った・・。尾張に河馬はいない。・・さて、目と耳を同時に塞ぐにはどうしたら
良いのだろう・・。目を瞑り、耳を指で塞ぐのだ。けれど瞼はあまりにも薄い。風が吹いたらあおられはしな
いか?透けて見えてはしまわないか?・・試行錯誤の末、親指で耳の穴を押さえ、他の指で目を塞いだ。これ
で大丈夫と思ったんだ・・これで大丈夫と思ったんだ・・」

足音、ますます大きくなり、心に反響する。


「けれど大地が震えている・・!けれど空気が叫んでいる・・!ぴょんぴょん飛んでみた、布団にくるまった、
けれど僕らの身体から全てを剥ぎ取ってしまう巨大な力が、努力の何もかもを台無しにしてしまった・・・
それは、僕らの好奇心だ!!」

彼方に人影が現れる。叫ぶ。

人影
「なーいとらんなー!!!」

子供達、目と耳を開く。生まれたまんまの姿の少年が凄まじい姿で走り、子供達の傍を駆け抜けんとする
瞬間でフリーズする。


「そして僕らは理解した。ナイトランナーの魔法を・・ナイトランナーを一目見たものは・・」

子供達、服を脱ぎ捨てる。


「ナイトランナーになってしまうんだ!」

子供達、ナイトランナーと隊形を組んで走り出す。

【戦国暴走族『信長』登場】

子(小六)
「にいちゃん!名前は?」
ナイトランナー(信長)
「信長!」
子(家安)
「どうして走ってるの?」
信長
「わからん!夜が更けると心の中で何かが暴れ出す。身体中に満ちあふれてくる。気が付くと全てを脱ぎ捨
てて走っている。鳥や獣や、森の木々さえ語りかけてくる・・星や月が笑いかけてくる・・」
小六・家安・三禿・乱丸
「うん!」
信長
「一度味わうと忘れられない・・」

「うん!」
家安
「こうして俺達は仲間になった・・・猟師の子で不登校の走り屋信長、小学6年生の小六、三河から越してきて
長屋に住んでる俺=家安、頭に三つの禿がある三禿、時々混乱する乱丸・・・俺達は走った!ただただ走った・・
毎晩のように家を抜け出して・・・やがて俺達は『戦国暴走族信長同盟』と呼ばれるようになった!」

【大名暴走族『偉魔駕輪』をとる】

今川義元
「『戦国暴走族信長同盟』とやら・・」

マッドマックス(古いが・・)みたいなデコチャリに乗った貫禄のある暴走族が3人いる。

乱丸
「いやぁ〜早速呼ばれちゃったよ♪」

乱丸、殴り倒される。皆駆け寄る。


「乱丸!」

信長、3人の前に立ちはだかる。

信長
「何すんだ!」
今川義元
「おい」

目配せすると後ろの二人が旗を立てる。驚くほど巨大な旗に『東海狂走族 偉魔駕輪(いまがわ)連合』と書いて
ある。

信長
「何なんだよ!」
族その一
「この旗が見えねえのかよ!」
信長
「旗は見えるけど、俺ぁ字は読めねえんだよ!」
今川義元
「フン・・低脳の土人が身の程知らずに暴走族ですか・・世も末ですな。プリーズ・レクチャー・トゥー・ヒム。」
族その二
「聞いておどろくな!俺達は『東海狂走族 偉魔駕輪連合』だ。この方は初代総長、今川義元様、天下の大名に
して東海道を締めていらっしゃる偉大なお方だ。」
族その一
「またの名をキラードラ○もん、悪のあんぱんマン!・・」

族その一、義元に喉元を掴まれる。

信長
「俺達は走りたくて走ってるだけだ。あんたらとは関係ないだろう。」
義元
「尾張の片田舎でしじみ取ったり山芋掘って暮らしてる土人の皆様に、世の中の仕組みって奴を教えて差し上げ
なさい。」

族その一、その二、刀を抜くマイム。

三禿
「な、何してるんだ?」
家康
「噂に聞く『*空想剣術』って奴じゃないか?」*読んで字の通りです
小六
「おいらが相手だ!」

刀を持ってるつもりで戦う。軽く負かされる。

三禿、乱丸、家安と負かされる。信長が前に立つ。

信長
「お前らが空想剣術なら俺は『妄想剣術』だぁっ!」

長さ20m幅2mはありそうな、すんごく巨大な剣を引きずってくる妄想・・だが巨大過ぎて持ち上げられないうちに
ボコボコにされる。

義元
「君たちね・・知恵も力も想像力も無い人間はせめてペコペコしなさい。愛嬌で勝負しなさい。さもないと駆除され
るよ。」

その一、その二胸を張る。

義元
「あれ?旗は誰が持ってるの?」

この時、なぜか旗を支える羽目になっていた乱丸、力の限界を迎える。旗が義元の上に倒れる。断末魔の絶叫。

その一
「義元様がっ!」
その二
「討たれたぁ!」

その一、その二、逃げ去る。信長達、竿を義元からどかす。

義元
「油断したよ・・僕はもうだめ。覚えておきなさい。ありあまる自信が僕を殺したんだ。覚えておけば役に立つ事も
あるだろう・・そうだ、これをあげよう。」
信長
「何だよ、これ?」
義元
「全国総長マラソンの参加券。・・・自分のシマをかけて暴走族の総長たちが走りで勝負するんだ。今や、大名さえ
参加するビッグイベントになったけど・・君なら勝てるかも知れないね・・・だけど、」
信長
「だけど・・?」
義元
「かけるシマが必要・・なんだ。」

義元、こときれる。家安、参加券を手にとって調べる。

小六
「なんだか・・悪い人ってだけじゃなかったみたい。」
三禿
「そうかも。」
家安
「さて、どうしますか?」
信長
「走るのは好きだし・・どんな速い奴がいるのかと思うとわくわくするよ。でも、それに勝ったからって、どうなる
のかよくわからんな。」
家安
「勝ったら総長や大名たちの賭けたシマが手に入ります。・・いつか言ってたじゃないですか・・『大名達はなぜ戦を
するんだろう?何が欲しいんだろう?俺がもし大名だったら欲しいのは土地や財宝じゃない。そこに住む人たちの
幸せな笑顔だ・・』って、そう言ってたじゃないですか。実現のチャンスです!」
信長
「俺みたいなナイトランナーが大名になっていいのか?」
家安
「私たちがついています。バイトに行かなくてすむ人生を造りましょう!心おきなく朝まで走りましょう!」
信長
「家安はこう言ってるけど、乱丸、どう思う?」
乱丸
「良くわからないけど、何か面白そうじゃないですか!死んだ父さんが言ってました。迷った時は傘を持って行けと。
間違って日傘を持っていったとしても武器として使う場合は問題ない。忘れたらコンビニでギッて来い・・」
信長
「意味もわからんけど、躾からしてもよくなさそうだな・・。実は家安・・・根本的な問題があるんだが・・」
家安
「なんでしょう?」
信長
「俺は・・朝に弱い。」
家安
「開始は正午ですが・・?」
信長
「え!?」

 第2章  モンキーギャング西部無宿

【猿面のガンマン】

夕日を浴びて立つ西部劇のガンマンのシルエット。口笛のメロディが聞こえる・・

日吉丸
「シマを盗るなら手伝うぜ!」
小六
「こら!日吉丸、口の利き方に気を付けろ!すいません、総長、こいつこの間河原で拾った新入りで日吉丸といいま
す。ほら挨拶しねえか!」
信長
「そうか小学生に拾われて手下になったのか・・・お前も苦労してんだろうなあ。頑張れよ!」
日吉丸
「ちぇっ拾われたんじゃねえ、人数を集めてるっていうから応募してやっただけなのによぉ!」
信長
「だって河原の橋の下で段ボールで暮らしてたんだろ?風邪ひいてカンカン集められなくなって、やっとの事で這い
ずりながら公園の水飲み場まで行く途中、アスファルトの上で力尽きてぼーっと青空見ながら『ああ、そういえば、
小学校の運動会の日に母さんが弁当に卵焼きを詰めてくれたっけ・・・』とか想い出しながら意識が遠のきかけた時に
小六に拾われたんじゃないのか?」
日吉丸
「どうやったらそんなに詳細な思いこみができるんだよ!俺が河原でダチとバーベキューしてたら、このガキが涎を
垂らしながらフラフラ〜っと吸い寄せられて来たんだよ!」
信長
「・・駄目だぞ、小六。」
日吉丸
「そうそう。」
信長
「そういう時には先ずみんなを呼ばなくちゃ!」

小六うなずく。

日吉丸
「いや、そうじゃないだろがっ!俺はねっ、何も食うに困って拾われたんじゃないのよ!家は小作人使ってるくらい
立派な専業農家でね、俺は長男だから土地からなんから入って来るわけ、生活に心配はないの。たださ、面白そうだ
から来てやったんだよ。毎日毎日プレステ2してても退屈でしょうがないんだよ。」
信長
「そうか・・お百姓さんも大変だな。とりあえず仲間になったら食うには困らないから安心しろ!」
日吉丸
「本当ですか!嬉しいなぁっ・・って、人の言うこと聞いてないだろ!おい!」

信長たち、先に行っている。慌てて追いかける日吉丸。暗転。

【一夜砦の七人】

家安
「一晩で城を建ててみせるという日吉丸の策を用いる事とし、信長たちは美濃の国にやってきた・・」

一人一個ずつ、段ボールの大きな箱を転がしてくる信長たち。剃り込みの入ったネズミなどのキャラクターの帽子。
箱には可愛いお城が描かれてある。ファンファーレ。

日吉丸
「レディー〜ス・エンド・ジェントルメン・オブ・スノマタ・・、墨俣のみなさーん!墨俣○ィズニーランド!本日
オープンでーす!」

○ィズニーソングで踊る。電車ごっこのような具合に派手なロープを掴んで出てきたネズミ耳の三禿と乱丸。

三禿
「○ィッキーでーす!」
乱丸
「あたし○ィニー!」
日吉丸
「本日はオープン記念大出血サービスで先着300名様限り、この○ィッキーマウス・ライドに、○クドナルドのチーズ
バーガー・プレゼント付きで無料ご招待いたします!」

美濃方の将兵がわらわらと出てきて、嬉々として乗り込む。席を取るのにゴタゴタする。

三禿
「総大将の斉藤龍興様ですね?最前列、○ィッキーの後ろにどうぞ。」

席が決まる。

日吉丸
「しゅっぱーつ!」

三禿と乱丸がグイとロープを引っ張ると一網打尽に縛られる美濃の将兵たち。箱がそれぞれクルリと廻るとそれは
墨俣砦に!

龍興
「すみませーん!セーフティ・バーがちょっときついんですけどぉー。」

などと言いながら連れ去られる。バンザイをして日吉丸を胴上げするみんな。三禿たちも帰って来る。

家安
「こうして信長同盟の7人は見事に・・7?」

家安数えると7人目にハシャいでいる女の子がいる。

家安
「総長!」

一同、女の子に気付く。

小六
「あんた誰?」
奇蝶
「こんにちは。奇蝶と申します。美濃の斉藤道三の末娘です。よろしくお願いいたします。」
信長
「道三といえば、龍興の亡くなったお爺さん・・あんた龍興のおばさんになるんだろ?何でここにいるの?」
奇蝶
「こっちの方が面白そうだったからです。よろしくお願いいたします。」

信長、首を振ってそっぽを向く。日吉丸、奇蝶に近づく。

奇蝶
「総長さん・・怒ってる?」
日吉丸
「いや、馴れてないだけさ。」

日吉丸、奇蝶に耳打ちをする。奇蝶、信長の背中にぴったりと寄り添う。信長、びくっとする。奇蝶、後ろから肩を
抱いて・・

奇蝶
「総長さん、あたし、父が死んで兄もいなくなって、母や妹は女優が足りないし、ここにひとりぼっちなんです。
一緒に連れて行って下さい。よろしく・・おねが・い・・し・ます・・」

最後はちょっぴりセクシーに。日吉丸ちょっとびっくりして見ている。

信長
「・・家安・・教えてくれ・・このチャクラをぞくぞくと這い昇ってくる熱い思いは・・何だ?」
家安
「それは、きっと・・・『恋』です。口の中は?」
信長
「からからだ!」
家安
「心臓が・・」
信長
「どきどきだ!」
家安
「股間が・・」
信長
「・・・・・・言えねえだ!」
家安
「・・・恋です!」
信長
「どうすればいい?」
家安
「はい、信長様お持ち帰りで〜す。」

三禿と乱丸が奇蝶に袋を被せてラッピング。
『お疲れ様でした〜』と、みんな去ってゆく。
と、家安振り向いて、日吉丸に寝袋を投げる。

家安
「じゃ美濃は頼んだよ。」
日吉丸
「え?」
家安
「みんな帰るから。俺達、夜は走らなきゃいけないし・・おやすみ。」

家安も去ってゆく。日吉丸、ぼんやりと寝袋を広げて中に入る。後ろ姿がつぶやく。

日吉丸
「・・寂しい。」

その姿を隠すように『全国総長マラソン大会』の横幕がやって来る。

 第3章  死闘!総長マラソン

【天下布武】

天下の猛者、総長たちがやってくる。今年の総長マラソンは二人三脚らしい。越前の朝倉が信長に声を掛ける。

朝倉世界一
「よお!お前が信長、噂のナイトランナーか?速いんだってな。けど今年の大会は二人三脚で42.195kmを走るん
だ。相棒が見つからなきゃ参加できねえぜ。エントリーの締め切りは8分後、今になってあまってる奴なんてロクな
奴ぁいねえ・・どうするんだい、え?」
浅井
「朝倉さん、遅くなりました・・」

浅井長政がやって来る。朝倉、信長の方をあごでしゃくって

朝倉世界一
「浅井、おめえの知り合いだ・・」
浅井
「え?こんなとっぽい奴知りませんよ。」
朝倉世界一
「こいつは知らなくても、こいつの妹の身体は奥の奥まで知ってるだろ?お市の兄貴だよ。」

信長の顔色が変わる。

信長
「お市・・お市を拉致ったのはお前か!お市はどこなんだ!」

つかみかかろうとするのを突き飛ばして

浅井
「人聞きの悪いこというなよ。拉致ったわけじゃねえ。高島屋の裏で立ってたのをダチと3人で保護して、寒そうだっ
たから暖めてやったのさ・・そしたらおこずかいが欲しいって言うから、中学生が世の中をなめちゃあいけないよって
優しく説教して、栄養になる注射を打ってやっただけさ。」
信長
「お市はどこだ!」
朝倉世界一
「どうも具合が良すぎたらしくてな、未だにこいつのアジトに監禁されてんのさ。」
浅井
「またまたぁ・・部屋を貸してるだけっすよ。」
朝倉世界一
「一晩5万でな。部屋代稼ぐのに朝から晩までひーひー言ってるよ。」
浅井
「(笑)確かに、ひーひー・・」

信長、浅井を殴り倒す。浅井跳ね起きて信長に殴りかかろうとするのを朝倉世界一にとめられる。信長も家安に止め
られる。

朝倉世界一
「おいおい、大会前に揉め事はやばいよ。失格になったらシマは没収だぞ。今の借りはゴールで返してやろうじゃな
いか。」
浅井
「朝倉さん、あの野郎・・!」
朝倉世界一
「信長ちゃん・・妹の大家さんを怒らせちゃ駄目じゃないか。これでお前が俺達の前を走った日にゃあ妹さんがどうな
るか保証できなくなっちゃったよぉ。気をつけてね・・」

朝倉、浅井を連れて去る。

信長
「俺は・・死んでもあいつらに勝ってやる・・・家安、お前は浅井のヤサを突き止めて妹を救出してくれ!」
家安
「わかりました。日吉丸にやらせましょう。安心して優勝してください。」
信長
「けど、パートナーが・・」
家安
「ご安心を。見つけておきました。おーい。」

みすぼらしい身なりのランナーが出てくる。信長、家安に耳打ち。

信長
「あのな、参加券と参加資格持って無かったら意味ないぞ。」
家安
「大丈夫です。ああ見えて先の将軍、足利義輝の弟で義昭といって、特別招待選手の資格を持っています。」
信長
「速いのか?」
家安
「いえ、血筋で招待されてるだけですので・・。速かったら今頃まで残ってません。誰も組みたがらなかったのが実情、
されど信長様なら背負って走っても優勝できます。」
信長
「・・そんなに俺を信じてくれてるのか?」

信長うるうるっと来かかる。

家安
「はい。足だけは・・。ささ、お早くスタートラインへ。間に合いません!」
義昭
「はじめまして・・わたくし足利・・」

義昭引っ張って行かれる。

【将軍義昭】

家安
「山在り谷在り沼地あり、ちょんの間に黄金プレイ、ブービートラップあり、脱落者半数以上の苛酷を極めたレース
も終盤に入り、レースを引っ張っていた高地トレーニングで名高い、比叡山山岳マラソン部の井出らっきょとそのま
んま東がつるつると遅れだすと、浅井・朝倉ペアと信長・義昭ペアの一騎打ち、マッチレースの様相を呈し始めた。」

二組が二人三脚で走ってくる。信長ペアが僅かに先行。

信長
「おっさん結構頑張るね!」
義昭
「はい!死ぬ気で走っております!頑張れば将軍の道もと、家安さんが言ってくださったので・・」
信長
「ふうん・・・何て名前だったっけ?」
義昭
「はい、私は足利・・」
朝倉
「へへーんだ!バカヤロ!この畜生!」

浅井・朝倉に抜かれる。

信長
「あ、!なんだとぉ!」

信長加速して追いすがる。

朝倉
「よっしゃあ!ゴールは目の前だぁ!」
信長
「あ、武富士!」

お馴染みのCM曲で日吉丸を筆頭にダンサーズが飛び出してくる。信長や朝倉たちも二人三脚のまま踊る。

日吉丸
「総長!お市様、無事救出!」
信長
「よっしゃあ!」
日吉丸
「ここは俺にまかせてくれ!」

必死でしがみつく日吉丸をボコボコにしている間に出遅れた朝倉ペアを抑えてトップでゴールのテープを切る信長た
ち。歓声、拍手、ミュージック・ホーンの奏でる映画音楽など入り交じる。

奇蝶
「のっぶながーっ!!」
信長
「奇蝶ーっ!」

駆け寄る奇蝶をがっしと抱き止め、くるくる回す信長。
バンザイをする同盟員たち。へたり込む朝倉ペア。家安と小六に担架で運ばれてくる日吉丸。

信長
「日吉丸!一番手柄だ!これからは木下籐吉郎と名乗れ。侍大将にする。」
籐吉郎
「話の判る・・ボスで良かったぜ。」

籐吉郎、気を失って運ばれて行く。義昭がやってくる。

義昭
「はあはあ・・・これで私の将軍職のほうも・・」
信長
「ああ、えーと誰だっけ、その」
義昭
「私、足利・・」

乱丸と三禿がやって来る。

乱丸
「総長!インタビューだって呼んでます!」
信長
「おお、そうか!・・喉乾いたな。三禿、飲むもの頼む!」

三禿、食料品店へと走る。信長、乱丸に手を引かれて行く。
義昭、微妙な表情のまま、踵をかえして去る。
家安、すれ違いにやって来る。
マイクを持ったインタビュアーがいる。

インタビュアー
「おめでとうございます!噂のナイトランナー、初出場で見事初優勝を飾りました!今のご気分は?」
信長
「さ、サイゴンです!」
インタビュアー
「自信はあったんですか?」
信長
「いやもう、ディエン・ビエン・フー・・」
インタビュアー
「どのあたりで勝てると思いましたか?」
信長
「テト、テト・・武富士あたりで・・」
インタビュアー
「このレースのために随分練習されたんですか?」
信長
「いやー・・・トンキン、トンキン・・」
インタビュアー
「この結果を予想されてましたか?」
信長
「相棒決まらなかったし、自分では・・きっとベトナムだろうと・・」
インタビュアー
「浅井・朝倉との泥沼の戦いを制したナイトランナー『信長』選手にお話を伺いました!・・えっと・・・あ、そうか!
パートナーの方いらっしゃいますか?」
信長
「えっと・・その辺に・・」
インタビュアー
「お名前は・・」
信長
「葦・・・のはらっぱに、何か虫が・・・ブヨか何かが飛んでいて・・それで、どうしたこうしたというような・・そんな名前
だったような・・・」
インタビュアー
「・・勝利の興奮でいささか混乱気味の信長選手でした!さて、お時間です。それでは六甲山特設会場からさようなら!」

インタビュアー、勢い良くお辞儀をして去って行く。

信長
「あのさ、あの足なんとかって人どこ行った?」
家安
「なんだか・・後々祟りそうな顔をして自転車で帰って行きましたけど。」
信長
「あらら、下宿遠いんじゃなかったか?悪い事したな。ほらゴダイゴだかなんだか・・」
家安
「SHO-GUNですか?」
信長
「それそれ、・・・あの人にあげといて。悪かったなって、クッキーでもつけてさ。ほら、お金出して。」

奇蝶、財布から小銭を出して家安に渡す。

家安
「了解いたしました・・・では早速行ってまいります。」
信長
(見送って)「家安は飲み込みが早くてきっちりしてるとこがいいよね。」
乱丸
「あの・・乱丸のいいとこってどこでしょう?」
信長
「乱丸か・・ぼけてて可愛いとこだな。」
乱丸
(小声で)「ぼ・・ぼけてるって・・『信長様に』云われた・・」
信長
「どうした?」
乱丸
「いえ、ありがとうございますっ!」
信長
「可愛い・・なぁ♪」

信長、奇蝶にどつかれる。奇蝶泣きながら去って行く。
その後ろ姿に・・

信長
「いや、さ、いいんだよ、男の子はさ、別腹って云うだろ?・・おーい・・」
乱丸
「すみません、奇蝶様に謝って来ます!」

乱丸、奇蝶の後を追う。

信長
「いいって、甘やかすと癖になるだろ?おーい乱丸ー!・・って人の話聞かない奴ばっかりだなぁ・・・」

小六がやってくる。

小六
「日吉丸はあちこち血を出して腫れてるけど、骨は丈夫だから3〜4日もすれば元気になるだろうって、医者が言って
ました。」
信長
「おう、ご苦労様、これから飯でも食いにいくか?」
小六
「いんや、日吉丸の奴がまだ手を動かせねえんで、スプーンで喰わせてやらなきゃ・・」
信長
「小六、お前・・優しいなぁ。」
小六
「へへ、日吉丸は、俺が拾って来たから・・そいじゃ!」

小六、照れ隠しに走って去る。

信長
「ちぇっ・・・祝杯をあげる相手がいなくなっちゃったな・・・しょうがない、ひとっ走りすっか!」

一匹狼気質の抜けない信長、当てもなく走り出す。
三禿、紙袋(時代を表す)を下げて慌ててやってくる。

三禿
「あーあ、行っちゃった・・早く飲んでもらおうと思って、大汗かいて走って帰って来たのに・・俺の足じゃ追いつけな
いし。」

三禿、カンを開けてぐびっと・・

三禿
「あぢっ!・・・熱いの買っちゃった・・・」

暗転。

 第4章  聖地川中島〜戦場の美少女

【虎と呼ばれた娘】

タンクの轟音。空対地ミサイルの着弾の音。戦場に立つパレスチナ・ゲリラにも似た衣装の美少女、カラシニコフを
構える。髭の副将・荒里諸騎長が傍らに控える。

美少女(阿虎=景虎=謙信)
「今宵の武田は激しく攻め掛かることよ。・・荒里。」
荒里
「はっ!雑魚共がいかに激しく攻め掛かろうと、この荒里諸騎長、阿虎様に指一本触れさせはいたしません。ご安心
の程を・・」
阿虎
「この聖地・川中島に武田信玄は来るでしょうか?」
荒里
「必ず。阿虎様と刃を交えます事、信玄めの何よりの楽しみでございますれば。」
阿虎
「そうか・・荒里。」
荒里
「はっ!」
阿虎
「わしも楽しみでならぬ。行くぞ!」

二人去ると、物陰から信長、家安、籐吉郎=日吉丸が出てくる。家安が説明してる間に信長と籐吉郎が寝袋を広げて
寝床を用意している。

家安
「足利義昭を将軍に立てて京の都に入った信長たちは何となく流れ的に、天下統一を目指さざるを得なくなってしま
った。当然マラソン大会に出てこない大名たちとも戦で決着を付けねばならない。そこで私、家安の発案で、東国の
強豪を見学に行く事にした。」
信長
「誰に説明してるんだ?今さっきの白頭巾が上杉謙信か?」
家安
「左様です。最も謙信は死後のおくり名、景虎が領主になってのちの名、それ以前は阿虎、あるいは女ながらの実力
者ということで鎌倉幕府を牛耳った北条政子にちなんで政虎様と呼ばれていたとか。」
信長
「阿虎?女なのか・・・!いや、美しいとは思ったけれど。」
家安
「調べたところでは毎月11日になると馬に乗れなくなっております。間違いありますまい。」
籐吉郎
「しかし、武田の機動部隊は聞きしにまさる精鋭揃いの大部隊。これはやっぱり武田信玄と組んで、上杉謙信を敵に
した方が良いんじゃないか?・・だって女なんだろ?」
家安
「謙信を甘く見てはいかん。400勝無敗・・・負けたことのない強豪中の強豪だ。それにな、上杉謙信は天下を取ろうと
か、そんな欲を出す気配がない。こちらにとって都合がいいんだ。比べて、武田信玄はギラギラと天下を狙っている。
『ナイトランナー上がりの織田の信長は目の上のタンコブだ、斬って落す』とさ。」
信長
「じゃあ、どうしよう?」
家安
「この猿顔が猿知恵をひねり出してくれるでしょう。な、木下籐吉郎。猿にはもったいない名前だ。」
籐吉郎
「へへへ、でも、もっともっと良い名前になってやるよ。対武田の作戦は少し考えさせて欲しいな。」
家安
「ああ、どんな手を使ってもかまわん。じっくり考えてくれ。前回公演以上のインパクトが欲しい。」

信長、すでに寝袋に入っている。上体を起こして、

信長
「しかし・・・綺麗かったなあ。謙信。」
家安・籐吉郎
「はあ?」

あたりが夜になって行く。

【川中島の契り】

眠っている信長を覗き込むようにして現れる阿虎、シルエットで信長と阿虎の愛のダンス。めくるめく官能の一夜。
いつのまにか信長は武田信玄に替わっている。白頭巾を脱ぎ捨てて絶頂を迎える阿虎。

阿虎
「しんげーん!」

鳥の声。薄明るくなって来る。頭巾を付けている阿虎。

信玄
「しかし、なんだな・・その、ここへ来てお前と逢うと、昼間合戦して命がけ、夜は寝床で命がけ・・10年はあるわしの
寿命が5年に縮まってしまいそうじゃ。もう戦いはやめてわしの物になる気はないか?」
阿虎
「信玄、少しは利口かと思うたが、戦以外ではからっきしだな。川中島は我らにとっても聖地、渡すわけにはいかぬ。
守り抜いて見せよう。私がお前を好きなのはお前が強い男だからよ、戦の鬼だからよ。死力を振り絞ってお前と戦を
しておる時、私はお前に抱かれているときよりもずっとずっと、満たされているのだ。」
信玄
「なにやら褒められているような・・自信がなくなるような・・」

阿虎、信玄に接吻する。

阿虎
「夜も・・素敵だよ・・」
信玄
「ありがとう。今朝は遅くなった、兵に見つからぬよう気をつけて帰られい。」
阿虎
「明日は11日だな。また、次の合戦で逢おう。」
信玄
「さらば・・」

阿虎が立ち上がった所へ、イスラエルのダヤン将軍の如き片目の軍師"山本勘助"が来あわせる。

山本勘助
「な、何者じゃ!」
阿虎
「我こそは毘沙門天の生まれ変わり上杉謙信景虎!いざ信玄、一対一で勝負せよ!」

と信玄に斬りつける。信玄とっさに軍配で受ける。

阿虎
「さすがは信玄。また逢おうぞ!」

阿虎、にっこり笑って去って行く。あっけに取られて見送る山本勘助。信玄、軍配の傷を眺めて、

信玄
「上杉謙信・・・本気だったな。怖ろしい奴だ・・・。」
山本勘助
「敵の大将がたった一騎で本陣に乗り込んで来るなど、将棋でも聞いた事がありませぬ・・豪胆と申しましょうか・・全く
・・・?・・御館様。」
信玄
「どうした勘助?」
山本勘助
「首筋に・・その・・キスマークが。」

暗転。

【信長の"恋"〜贈られたマント】

信長がスポットに浮かぶ。手紙を書いている。

信長
「・・ディア上杉謙信軽トラ様・・あ、間違っちゃった。」

紙を丸めて屑籠に放る。

信長
「ええと・・・僕の阿虎ちゃん・・君は知らないだろうけど・・僕は君の事をよーく知ってます。」

ちょっと考える。

信長
「・・でも、ストーカーじゃあ有りませんから、心配しないでね・・ただのファンです。僕の気持ちをこめて京で伴天連
にもらった素敵な紅いビロードのマントを贈ります。きっとあなたにも似合うと思います。・・・・あなたが戦闘服じゃ
なくて、マントやドレスが着られるように、僕が武田信玄や、悪い奴らをやっつけて平和な国にしてみせます。・・待
っててね。平和な国になったら、きっと・・迎えに行きます。・・・あなたの・・信長・・・ふふっ。」

幸福な夢を見ている顔の信長。一方の闇に、その手紙を読んでいる阿虎がセリフの間にフェードインしている。

阿虎
「大迷惑!」

信長、覗き込んだ奇蝶にハンマーでどつかれている。暗転。

 第5章  動かざる事・・男達の挑

【武田騎牛軍団 動かざる事牛歩の如し】

信長と家安と小六が陣地にひそんでいる。

信長
「なあ、信玄が病気でおっちんでから・・妙に謙信ちゃん冷たくねえか?手紙の返事も来なくなったしさ・・」
小六
「女心と秋の空っておっかあも言ってたな。行く時に行かなきゃ・・・まあ、殿には奇蝶様がいるから無理だな。」
信長
「小六は夢が無いなー。」
家安
「かくして、我々は武田軍と今まさに三度目の激突をしようとしている。前の二回はボロボロに負けた・・敵方へ潜入
工作に赴いた木下籐吉郎はいまだに帰って来ない。はっきり言って私は不安である。」
小六
「あんまり考えないなあ。」
家安
「何を?」
小六
「いや、不安だとかさ。負けた時は負けた時でさ、わー負けちゃったぁ!って逃げればいいんじゃない?」
家安
「捕まったら?」
小六
「すみません。こちらで働かせてください!」
家安
「そんなもんか?」
小六
「俺んちは泥棒が商売だったからなぁ・・そんなモンだなあ。おっ!来たようだな。」

どどどどどどととどろく蹄の音。やがて無数の牛がモーモーと鳴く声が・・

小六
「信長様!武田の騎牛軍団です!」
信長
「来たか!それにしても聞きしにまさる・・・遅さだ!」
家安
「そうです。武田の騎牛軍団得意の『牛歩戦術』です!あの速度でじりじり攻めて来るのを待っていたら、こちらは
食糧が尽きて戦う前に自滅してしまいます!」
信長
「なんと怖ろしい戦術だ!・・・けど、こっちから討って出ては駄目なのか?」
家安
「こんな平らな野原で討って出たら、敵の鉄砲や弓矢の的になるだけです。籐吉郎を待ちましょう。」
信長
「敵の食糧は尽きないのか?」
家安
「いざとなったら牛を潰してすき焼きするらしいですね。また、い〜い匂いが漂って来て、こちらの空きっ腹に堪え
るんですわぁ〜」
信長
「話だけでも腹減ってきたなぁ。」
家安
「あー!と思ったら突牛部隊だ!」

旗を立てた戦闘牛の群がやってくる。追いつめられる信長たち。
ようやく滑り込む籐吉郎。

信長
「籐吉郎、待ちかねたぞ!」
家安
「策は?巧く行ったか?」
籐吉郎
「牛たちの足下をご覧下さい!」

牛たち、足取りがよろけている。

家安
「ま、まさか・・生物兵器を?」
籐吉郎
「はい某国から輸入した肉骨粉と代用乳を牛の餌として普及させてみました。そして、とどめに外国産高性能最新兵
器を・・」

【どすこい三段打ち〜鷲の舞】

最新兵器
「はぁ〜どすこいどすこい!」

と、いいながら相撲取が三人出てくる。化粧回しに龍、鷲、鳳の文字。

信長
「相撲取りじゃないか!これのどこが外国産なんだよ?」
籐吉郎
「一見、国産に見えますが実は、モンゴル産です!」

相撲取り、三人が代わる代わる先頭に立って突っ張りで牛を倒して行く。

家安
「て、鉄砲の三段打ちか!おおっ!牛の群がドミノのように倒れて行く!」

騎牛軍団がドミノ倒しになる轟音。倒し終わって三人は鷲の舞(モンゴル相撲の勝利の踊り)を踊りながら去る。

信長
「モンゴル産は確からしいな・・。何はともあれ初めて武田を破った!これで謙信も少しは機嫌を直してくれるやも知
れぬ。でかしたぞ籐吉郎!」
籐吉郎
「ははっ!では、もう少し偉そうな名前をつけても良いですか?」
信長
「うむ。許す!」
秀吉
「ではこれより籐吉郎は羽柴秀吉と名乗ります!」
信長
「家安や小六も替えるか?」
家安
「では安の字を安全の安から健康の康に替えて徳川家康で。」
信長
「うむ、手堅い!・・性格出てるなぁ。」
小六
「いつまでも小学生じゃないんで、読みだけを『しょうろく』から『ころく』にして蜂須賀小六でお願いします。」
信長
「よっしゃあ!蜂須賀小六ね。」

秀吉
「さて、私は帰りに愛宕神社に寄って軍資金を用意してまいりましょう。」

 第6章  小判の虎〜軍需狂詩曲

【新式銃独占販売権〜無限連鎖講

吉田兼見(よしだけんけん)が司会役、社長席に京都の政商蜷川道斎(にながわどうさい)、堺の商人今井宗久(いまい
そうきゅう)で『マ○ーの虎』風の布陣。秀吉が席に着く。

家康(ナレーター風に)
「今夜の小判の虎は京都のビッグボス、政商蜷川道斎と、ベニスならぬ、堺の商人今井宗久・・・司会はいつもの吉田
兼見、愛宕神社の神官である・・・獲物を待ち構える3人の前に最初の男、猿顔のカウボーイがやって来た・・・」

吉田兼見
「希望金額を教えてください。」
秀吉
「現代のお金で200億円です。」

家安
「いきなり途方もない金額を提示して不適に微笑むこの男、一体、どんなプランを持っているというのか。虎たちの
瞳に警戒心が宿った。」

秀吉
「よろしくお願いいたします。えー私の提案いたしますビジネスは、南蛮渡来の新式銃独占販売権を代理店を募って
販売するというものです。さらに代理店が販売権そのものを卸し売りするシステムによって、広大な販売のネットワ
ークを創り上げることができるわけです。」
宗久
「それは・・・いわゆるネズミ講でっしゃろ?無限連鎖講って奴だ。最初の方の会員は儲かるけど下へ行くほど儲からな
くなっていって損をする。最後は『詐欺だ!』って事になってクレームの嵐になるんちゃうの?」
秀吉
「確かに・・まあはっきり言えばネズミ講です。けれど最初に始めた人間は必ず儲かります。この時代には禁止の法律
もないですしね。何より商品がはっきりしています。戦国の世に少しでも敵より優れた武器を持ちたいと思わない武
士、大名が居るでしょうか?最新式の世界最高レベルの武器を直輸入でどこよりも安く、しかもサービス・メンテナ
ンスをまとめて行う事によって効率化し、会員は販売に専念する事ができます。」
宗久
「けど、人間は安穏に暮らしたいのが本当やからね。もし、戦が終わったらどないします。武器の必要がなくなった
ら?平和になったら、こんなもの誰も買わへんやろ?」

家康
「するどく斬り込んでゆく今井宗久・・しかし、このあと猿顔の反撃で、事態はとんでもない展開を見せる事になる・・」

秀吉
「そのときは・・需要を創ります。」
宗久
「需要を創る!?銃を売るために戦争でも起こすゆうんか!バカバカしい・・それとも、あんたが天下の・・」
道斎
「おもろい。おもろいやないか。需要を創るゆうてはるんやったら何か手段があるんやないか?こないなとこでは言
えんような方法が・・なあ、兼見はん、番組は終わりにしてこの人とゆっくり話してみたいんやけど。宗久はんも・・そ
う思うやろ。」
吉田兼見
「これは番組になりませんねぇ。しししし。まあ道斎様のご意向でしたら、仕方ありませんなあ。ししししし。」

兼見、道斎、宗久、秀吉、袖へ去る。

【楽市楽座〜グローバル・スタンダード】

チンドン風のにぎやかな音楽で踊り子たちが舞い踊り、ひとしきり踊ってポーズを極める。
チラシを巻きながら出てくる男。

宣伝マン
「さあさあ、楽市楽座、楽市楽座だよぉ!織田の信長様の御領地はどこも楽市楽座、税金も組合費もいらないよぉ!
自由に商売をして自由に儲けましょう。お寺や神社にも納めなくていいよぉ!楽しい楽しい自由な市場だよぉ!儲か
ってしょうがない商売繁盛の市場だよぉ!便利な物がいっぱいで人気の市場だよぉ!これからはこういう市場がグロ
ーバルスタンダードだよぉ!お客さんもお店も、さあさあ、いらはいいらはい、信長様の楽市楽座だよぉ!」

人員に余裕があれば市場の様子があってもいいが・・

【自由の戦士 裏表】

踊り子たちが開くと信長と秀吉、家康、光秀が酒を飲んでいる。踊り子たちが間に入ってコンパニオンとなる。みん
な酔っている。光秀、信長に酒をついで、

光秀
「何しろこう儲かりますと勘定奉行のお仕事、楽しゅうございます。まかせていただいて本当に良かったなと感謝し
ております。」
信長
「お前は戦に関しては今ひとつビミョーだったからな、三禿!」
家康
「殿、今は光秀でございます。」
信長
「そうそう明智の光秀・・三つ禿で三禿とは大違いのかっこいい名前。・・しかし、楽市楽座は儲かってるよなぁ。これ
も秀吉くんの御陰だねぇ。最初見たときは西部劇の恰好しててさ。でも顔がお猿さんでウッキーって、まるでアメリ
カのTVコメディーかよ!って突っ込もうかと思ってたのに、いやあ人間育つもんだなあ。前は家安が一番頼りだっ
たんだけど、家安よぉ。最近、『正直、エテコーに押されてるな・・』とか思ったりしない?影薄くなったって思わな
い?」

家康・光秀・秀吉、何となく笑顔が消えて押し黙る。

信長
「あれ、どうしたの?楽しくやろーよ!酒は明るく飲まないと!久しぶりの幹部懇親会でしょ?ほら、家康!昔やっ
てた腹踊り見せてよ。俺、あれが大好きなんだよぉ。なあ、見せてくれよぉ。」

家康、無表情。秀吉、作り笑顔で

秀吉
「そうそう!楽しく行きましょ!ウッキー!ウッキー!めでたい、めでたい。聞けば、ご側室にお子様が出来られた
とか、おめでとうございます!ウッキッキー」

と、猿の真似を始める。

家康
「それは、めでとうございます!ならば・・」

と家康、腹踊りを始める。信長、どこか虚ろな表情。

信長
「めでたいか・・・めでたいよなあ!なあ、三禿!」
光秀
「・・・おめでとうございます。どれ、私も・・」

光秀踊り出す。

秀吉
「信長様あっての自由!信長様あっての正義!信長様あっての日本でござる!あそれ!」

踊り子も加わっての騒ぎの中で今度は信長がどこか醒めて盃をあおっている。踊りの渦が信長を包み、やがて横に伸
びてバンザイを始める。

 第7章  文月十一日〜安土双天守城

【偉容・・安土城の双天守】

人々のバンザイの向こうに安土城の二つの天守がライトアップされ、並んでそびえ立っている。

秀吉
「レディース・アンド・ジェントルマン!お集まりの公家、武将、商人、農民、庶民の皆様、これが安土キャッスル
・・我が国最初の高層建築です。この立派な石垣、壮麗なデザインは安土の富、信長様の栄光を表しているのです。も
ちろん内装も天界かと見まがうばかりの華麗にしてゴージャスなできばえ、明日よりの有料一般公開に期待が集まっ
ています。このツイン・タワー、双天守(そうてんしゅ)の展望台に登れば眼下には城下町メガロポリス・アヅチの百
万両の夜景が広がり、空に満月、人々の手には灯火が揺れています。かつて人が創り上げた中で、これほどの美しい
光景が存在したでしょうか!私、羽柴秀吉は感動しております。この神にも等しい権力の象徴を造り上げるにあたっ
て、いささかなりとも貢献出来た事を天に感謝しております!バンザイ!信長の正義バンザイ!地上のヘブン安土バン
ザイ!・・・それでは信長様と奇蝶様にテープカットをお願いいたします・・」

信長と奇蝶、手に手を携えてテープカットをする。万雷の拍手が巻き起こる。

奇蝶
「今朝は曇り空で雨が降るかと心配いたしましたが、満天の星空になりました。天も信長様の味方ですね・・・・なんて
ロマンチック・・・(小声で)今宵くらいは越後の小娘のことは忘れて、(もとの音量で)ゆっ・くりと、過ごしましょう・
ね。」

と、信長の足を踏む。

信長
「たっ!たったしかに・・綺麗な星空よ・・・あれっ?」

星を見ていた信長、不審な飛行物体を発見する。

信長
「あれは何だ!」
奇蝶
「また、そうやって誤魔化そうとする!・・・」
信長
「危ないっ!」

信長、奇蝶をかばって倒れ込む・・・・刹那、
巨大な鳥型の凧が二機、相次いで天守閣に激突爆発する!
逃げまどう人々、炎、熱風、煙、崩れ落ちる双天守!
ライトが消え、真っ黒になる。

【在家伊賀 同時多発テロ】

非常灯が点灯し倒れていた者たちがよろよろと立ち上がる。

信長
「どうした!?何が起こった!奇蝶!家康!蘭丸!小六!・・三禿!秀吉!」

秀吉が走り出てかしこまる。

秀吉
「申し上げます!・・早速配下の者にリサーチさせましたところ、加賀、長島で暴れておりますカルト教団、一向一揆
の指令を受けた伊賀者忍者のテロ集団『在家伊賀(あるかいが)』の仕業に間違いございません!」
信長
「アルカイガ?どういう字だ?」
秀吉
「は、在家(ざいけ)の伊賀と書いてあるかいがと読みます。」
信長
「強引な・・そいつらがやったという証拠は?」
秀吉
「は、伊賀者の手裏剣5枚、伊賀なまりで書かれた大凧の操縦手引き書1冊、伊賀忍者学校の卒業証書2枚が焼け跡
から見つかりました。奴らはもともと金でどの勢力にもなびくテロ集団ですが、なかでも、一向宗原理主義にかぶれた
テロリストグループが『在家伊賀』で、日本中を自由主義国家にするという信長様の『ノブナガ・ドクトリン』の粉砕を主張
して様々なテロ活動を行っています。」
信長
「のぶなが・どくとりん?なんじゃあそりゃあ?」
秀吉
「家康殿とミーが信長様のお考えをまとめて、先月発表したものです」
信長
「そんなもの見てないぞ!」
秀吉
「双天守の信長様のデスクの上に・・・」

と、双天守のあった辺りを見る・・信長もつられて見る。

秀吉
「とにかく、これだけの証拠があるのですからアルカイガの仕業に間違い有りません。」

信長
「お前達は負傷者救出もせずに証拠を探していたのか!それから、どんなテロを受けていたというのだ!そもそも、
そんな反対があることもわしは聞いてないぞ!」
秀吉
「証拠は救出作業の際に偶然見つかったもの。また、これまでの奴らのテロは無言電話やピンポンダッシュ程度でし
たので報告いたしませんでした。」

蘭丸、走り出てくる。

蘭丸
「申し上げます!京都の二条城にも爆薬を積んだ大凧が落ちました。南側が炎上して、ただいま懸命の消火作業中で
す!それから・・・」
信長
「何だ?早く言え!」
蘭丸
「小六が・・信長様が天守にいると勘違いして、天守に飛び込み・・・行方知れずに・・」
秀吉
「・・可愛そうだが、この様子では助かるまいな・・」

信長、秀吉を殴りつける。

信長
「探せ!全軍勢で城の残骸をどけて生きている者も命を落した者も探し出すのだ!」
秀吉
「・・お恐れながら、テロリストを突き止めて警戒せねば、次のアタックがあるかも知れませぬ。」
信長
「そのときは命などくれてやる!ええい、もう頼まぬ!わしが探す!」

信長、走り去る。

蘭丸
「気になさいますな。ああいう御気性ですから・・」
秀吉
「アーミーの三分の二を置いて行く。気の済むまで殿に探させてやってくれ。」
蘭丸
「かたじけない。」

蘭丸、信長の後を追う。

秀吉の前に二人の忍者が現れる。

秀吉
「今の話、聞いたか?」
忍者梟
「はて、今来たばかりでな。聞き逃したが、何か?」
秀吉
「いや、ならばノープロブレム。見つからなかったろうな。」
忍者鴉
「誰にも見られはせぬ。堀に潜っておったわ。」
忍者梟
「それより約束のものじゃ。ワシらは二、三日姿を隠す。信長が計画しているという伊賀攻めの計画書は百地様に届
けてくれ。藤林殿と相談して策を練られよう。」
秀吉
「約束のマネーは、既に用意させた。ほれ、後ろに・・」

忍者達が振り向くと、そこに秀吉配下の忍者の群が・・闇を縫う手裏剣や忍者刀の煌めき、激しい戦いをかろうじて制
した鴉と梟が秀吉を振り向いた瞬間に、二丁拳銃が火を噴く!二人の忍者、ゆっくりと崩れる。

秀吉
「チッチッチ・・・考えがスイートね。」

光秀が駆けつける。

光秀
「秀吉殿。今の銃声は?」
秀吉
「どうもスパイだったらしい。こいつらもアルカイガだろう。突然襲いかかって来たのだ。」
光秀
「・・全員を撃ち殺した・・と?」
秀吉
「・・殿と蘭丸が救出作業に行かれた。光秀殿も行かれたがよい。わしは犯人を突き止める。」
光秀
「承知。気をつけられい。」

光秀去る。

秀吉
「頭がスマートなのも考え物よ・・・一向宗か、敵はビッグな方がロングタイム楽しめるというものだ。我ながらグッド
なアイデアであった。さて信雄殿をけしかけに行くか。」

秀吉、去る。双天守の失われた空に、月が変わらずにある。

【焦土作戦〜伊賀攻め】

家康
「9.11安土城の顛末を知った織田信雄が一万騎の大軍を率い、信長に無断で伊賀を攻めた。が、地の利に勝る伊賀忍
者の変幻自在の攻撃に翻弄され、敗北を喫する。事ここにいたって秀吉の」
秀吉
「伊賀者は所詮『在家伊賀』と一蓮托生!同じ穴の狢(むじな)よ!」
家康
「との説が織田家中の多数意見となり、今度は4万2千の大軍を組織し、隣国パキスタンの協力を得、伊賀の裏切り者
に手引きさせての皆殺し作戦が行われた。」

今や焦土と化した伊賀の地を歩く信長と蘭丸。遠く迷い山羊の声など聞こえてくる。

信長
「確かに安土城の崩れようは地獄じゃと思うたが、ここは・・それ以上だな。蘭丸。」
蘭丸
「御意。」

あちこちに人の死体が転がっている。小さな赤ん坊の死体が串刺しにされている。

信長
「このように小さな国を4万以上の大軍で踏みつぶしたのだな・・・わしが・・」
蘭丸
「ただの国ではありませぬ。安土城を崩し小六殿を始め、多くの命を奪った憎いテロを行った国です。」
信長
「本当にそうかな?」
蘭丸
「秀吉様が確かめられたではありませぬか。中忍の大澤瓶螺鈿が率いる『在家伊賀』の仕業に間違いないと・・」
信長
「おおさわびんらでん・・一体どんな字・・いや、もういい。・・そいつは見つかって白状したのか?」
蘭丸
「それは・・死体が多すぎて確かめようがないとの事です。」

信長、赤ん坊の死体を槍から抜き去って母親の死体に抱かせる。手を合わせる。

信長
「蘭丸、わしを偽善者だと思うか・・?」
蘭丸
「いえ。」

信長、蘭丸を抱いて口を吸う。蘭丸驚いて

蘭丸
「信長様・・・」
信長
「織田の信長は・・とんでもない偽善者だ。そして弱い男だ・・・。蘭丸、これを知っているか?」

信長、懐から大切そうに白い手袋のようなものを取り出して蘭丸に渡す。

蘭丸
「これは・・・なんでございましょう?羽根の生えた・・・手袋のように見えますが?」

いずくからか(死体たちだったのか・・・戦場を渡る風の音なのか・・あちこちに灯る死体の燐の鬼火なのか・・・)
コーラス隊の歌声が聞こえてくる。

コーラス隊
「♪かぁーさんが よなべぇーをして てぶくーろぅ あんでーくれたー♪」
信長
「これは・・"手梟"だ。」
蘭丸
「てぶくろう?」
信長
「OWARIの中でもワシの棲んでいた織田という部落は山深い古い村にあってな。新月の夜、雨の夜、深い森の中など
は本当に暗い・・・そこでは母親達は皆、この"手梟"を編む。」
蘭丸
「何のためにでございますか?」
信長
「まあ、話は順番に聞け。・・・織田の母親たちは新月の夜、灯りを消して真っ暗闇にした部屋の中、一針一針に願い
を込め、手探りでこの、羽根の生えた"手梟"を編む・・」
コーラス隊
「ホー・・ホー・・」
信長
「夜なべして作った手梟をはめてもらった子どもがOWARIの暗い森で迷ったとき・・」
コーラス隊
「ホー・・」
信長
「手梟はその羽根で懸命に羽ばたいて、子どもに帰り道を教えるという・・」
蘭丸
「これが羽ばたくんですか?!動力は何なのだろう?」
信長
「真っ暗闇の中で羽ばたきが見えた訳ではない・・音が聞こえたわけではない・・けれど確かに手梟は、込められた母の
愛は、『こっちだよぉ・・こっちだよぉ・・』というようにそっと子どもの手を引いて正しい道へと誘って行くという・・」

コーラス隊
「ホー・・ホー・・ホー・・」
コーラス隊の一人
「合わせて143ホー・・」

ハリセンでしばかれる。

蘭丸
「今のお話・・何やら・・涙が出てきました・・」
信長
「蘭丸、これをお前にやろう。」
蘭丸
「でも、それはお母様が・・」
信長
「夕べ、久しぶりにこれをはめてみた。だが、ついぞ羽ばたいた様には思えなんだ。考えてみれば・・ワシにはもう、
帰る家はないのかも知れぬ。」

信長、風に吹かれている。後ろから抱きしめる蘭丸。ゆっくりと暗転。

 第8章  不沈艦クロガネ

【布施院顕如(ふせいんけんにょ)への疑惑】

信長、家康、秀吉、光秀がいる。緊迫した評定=ディベートの場。

秀吉
「在家伊賀の首領大澤は、大阪にある一向宗の本拠、『石山本願寺・レリジョン・アソシエイテッド・ヘッドクォー
ター』通称"IRAHQ(イラク)"の内部へ逃げ込んだに違い有りません。もはや、最初から一向宗全体が我々の敵であっ
たのだと現実的な認識を持つべきです。ぐずぐずしていては敵は信者を増やし続け、日本中が敵に回りかねません。」
光秀
「しかし秀吉殿、確かな証拠もなしに現実的といわれても、この光秀首をひねる事しか出来ませぬ。いまだ敵とも判
らぬ相手に不意打ちで総攻撃をかければ、正義はこちらにないのは誰の目にも明かでしょう。」
秀吉
「・・悠長な、今、ここに大凧爆弾が突っ込んできたらどうする!石山本願寺の経済力を持ってすれば、どんな新兵器
を開発しておるかも知れぬ・・井戸に毒でも入れられたらどうする?ノーモア安土キャッスル!二度とあんな事が起こ
らぬように可能性の段階で潰しておくのが道理よ。」
光秀
「可能性で戦うのか?今、一向宗と事を構えれば、逃げた足利義昭を匿う毛利や、武田がこれ幸いと一緒に攻めてく
るに違いない。『北』に目を向ければ伊達の独裁者『金ピカの正宗』がわしらを挑発している・・・それでも、あえて
IRAHQを攻める目的は何だ!」

秀吉、『信長へと』(客席正面でもいいよね)向き直る。

秀吉
「信長様。奴らが束になっても今の信長様に勝てるはずはございません。正義はこちらにあります。むしろ、安土キ
ャッスルのツイン・タワーを潰されて黙っていては、敵になめられると言うことです。」
光秀
(怒りに燃えて)「双天守の事なら、すでに伊賀を皆殺しにしたではないか!」

秀吉、光秀を一瞥もせず、真っ直ぐ信長に向って、あくまで冷静に・・

秀吉
「伊賀はただの訓練基地。裏で糸を引いているのは本願寺の布施院顕如です。奴が大澤を操っているのです。」
光秀
「では、殺された伊賀の人たちはぁ!!」
秀吉
「光秀殿・・何を興奮しておられる。当然の罰・・伊賀も共犯なのです。」
光秀
「安土の双天守の代りに何十万人を殺せば気が済むのだ・・」
秀吉
「テロリストを匿う者はテロリストの仲間です。」
光秀
「信長様・・」

信長の扇子がへし折られる音。一同、水を打ったように。平伏する。

信長
「・・家康も何か言え。」

家康、一礼し、秀吉と光秀を一瞥して・・

家康
「私ならば・・・まず、査察官を派遣して大澤の捜査と、大量破壊兵器が存在しない証拠を渡せと要求します。しかる
後に、大澤を知らない、いないの返答か、あるいは使いが帰らねば・・こちらにも正義が生まれましょう。一向一揆と
いっても加賀や長島の例を見れば、最初は確かに農民、漁民や坊主の信者たちの勢力でも、国を獲って後は本願寺よ
り高僧が派遣されて民衆を搾取しております。民主的な国とは申せません。"IRAHQ"に巣くう本願寺布施院顕如の独
裁国家と言っても良い。このような勢力が信長様の正義と並び立つ道理はございませぬ。ならば・・・」
秀吉
「いずれは対決せねばならぬ相手。これ以上テロ勢力が拡大せぬうちに一刻も早く・・」
光秀
「にしても時も悪い!一つずつ潰せば大して時間も犠牲もなく勝てる相手に、モグラ叩きのような戦いをしていたず
らに武力を無駄遣いするのは何のためだ。」
秀吉
「戦いはノートブックやディスプレイの上で行われるのではない。戦にかけてはアマチュアレベルの三禿に戦略を教
えてもらおうとは思わぬ!」
信長
「やめい!」

一同沈黙する。

信長
「なんか間違ってるぞ・・お前ら。いや、俺もだ。昔はこうじゃなかった。・・そうだ、大体、近頃俺達走ってないじゃ
ないか!」
秀吉
「(笑って)ノータイム・・そんな暇があるわけないじゃないですか!信長様は、今や天下の主となられました。その分、
敵が多くなるのは仕方がありません。」
信長
「味方を増やす道はないのか?」
秀吉
「信長様が広めるべき正義と相反する考えを持つ者がすり寄って来たとき、これを信じるのは無謀でございます。正
しき者を残し、悪しきものを滅ぼすのも御仏のお力、信長様は仏の手でございます。」
信長
「仏の手、仏手(ぶっしゅ)か・・・わしは仏は嫌いだ。その名は秀吉にやろう。・・・・正義・・?俺の正義とは何だ?」
家康
「フリーダム=自由・・かと。何者にも縛られず思いのままに皆が生きる・・そのことかと存じまする。」
信長
「それに、どれほどの価値がある?民の命より重いというのか?・・わしにはもう・・わからなくなり始めた。家康、お
前には判っていよう。お前が話をまとめてくれ。わしは休むぞ。・・秀吉。」
秀吉
「イエス?」
信長
「このこともわし一人が決断したことのようにお前は宣伝するのであろうな。」
秀吉
「御意。フォーユアグローリー・・信長様のご威光のため。」
信長
「比叡山、加賀、伊賀・・わしの背中に血の十字架を彫りつけておるのは、この猿よ。おかげで夜もおちおち眠れぬ
わ。」
秀吉
「今や、信長様のお名前を耳にするだけでも、悪人どもはブラッドがフリーズすると申します。」
光秀
「泣く子もわめくとも・・」
信長
「・・もうよい。わしは寝所へ行く。家康、任せた。」
家康
「御意。」

信長去る。

家康
「秀吉殿、布施院攻めの準備にかかられよ。いやもう出来ておられるか?」
秀吉
「お見通しでござるな。すでに地上軍、水軍を展開しております。」
光秀
「独断専行が過ぎるとは思わぬのか。」
秀吉
「ノープロブレム・・・光秀殿のいうことを聞いておっては100年たっても天下は治まらぬ。御免。」

秀吉去る。光秀、家康の顔を見る。

家康
「サイはとっくに投げられているのだ。羽柴"仏手"秀吉というキングコングがどこまで我らを連れて行くのか・・今し
ばらくは、待つしかない。まあ、どう転んでも責任は信長様がとってくださる。・・やがてわれわれにも『時』は巡っ
て来よう。・・どうだ、秀吉の行くようなキャバクラは苦手じゃが、焼き鳥で一杯やらぬか?」
光秀
「・・せっかくでござるが、今夜はそんな気になれませぬ。御免。」

光秀去る。家康、意味深な笑みを浮かべて立ち上がる。

【圧勝!不沈艦〜パワーゲーム】

城攻め。本願寺勢と織田軍の激しい戦い。城壁の上から石を落し熱湯をまく石山勢に退却しかけると城から追撃され、
激戦の末に討ち取られる兵たち。

家康
「『沈黙の要塞』と呼ばれた石山本願寺との戦いは困難を極め長期化した。毛利方の海賊衆、村上水軍が織田方の包
囲を破って大阪湾から淀川を遡り、IRAHQに食糧を輸送し続けたからだ。そこで秀吉が戦局を打開する画期的な新兵
器の建造を提案し、長きに渡る戦乱を終息するためにも、信長は金に糸目をつけずに建造を急がせた・・・。」

セリフに重ねて、甲鉄艦の設計図をバックに座る今井宗久と蜷川道斎の所へ大量の金を積み上げ、バックリベートを
もらう秀吉の姿・・・・それが霧に隠れて行くと

村上水軍の小舟が2艘やって来る。

水軍
「な、何じゃぁこりゃぁ!」

霧の中から現れた巨大な甲鉄艦。大砲が何本も突き出ている。水軍の放った火矢も装甲に歯が立たない。大砲が火を
噴くと巨大な水柱が上がる(人+棒+白い布?)!

水軍
「こりゃいけんぞぉ!退けー!退けー!早よー逃げー!」

船に命中して真っ二つになる。船を押して泳いで帰る水軍の兵達。
甲鉄艦の甲板に立つ家康。
そのセリフに重ねて
血みどろな戦の様子がシルエットで、スローモーションで続く・・
たとえばマーラーが聞こえてくる。
旗を押し立てて進む『死神の軍隊』=信長軍。

家康
「昔ながらの船いくさしか知らぬ村上水軍にとっては、イージス艦がミッドウェーに現れたかのような衝撃であった
ろう。鉄板による装甲で覆われた不沈艦クロガネ、ヤマト、ミライ、ムサシ、イシバ、ナカソネの6艘は大阪湾の制
海権を握り、食糧・弾薬の補給を絶たれた"IRAHQ"、石山本願寺は、あえなく落城した。秀吉は信長政権の中での存
在感を拡大し・・秀吉を総大将に信長軍は次の大戦、中国の毛利攻めへと攻撃目標を移すことになった。・・・一方その
ころ、遠く越後の国で、信長にとっての一大事といえる事件が起こっていた!」

 第9章  死せる少女のためのパヴァーヌ

【謙信の死】

死の床にある謙信。傍らで手を握る荒里。

謙信
「荒里・・ご苦労だった。わしはもうあの世へ行く。後を頼むぞ。戦場で死にたかったが・・強欲というものだな。」
荒里
「阿虎様・・」
謙信
「この世で本当にわしを愛し、抱きしめ、『阿虎』と呼んでくれたのは信玄だけだった。信玄が死んでから、渋谷、
六本木、なんば、天神、ハワイやタイやバリにも行って夜毎に遊び、一晩に幾人もの男を抱いてみたが、遂にあれほ
どの男はなく、ただ、このような病に惚れられてしもうただけよ。・・せめて戦場でわしの血をたぎらせる相手がおれ
ば生命の炎が今一度燃えさかるのではとも思うたが、信玄の如き、こちらの頭が真っ白になるような武将はおらなん
だ。」
荒里
「民人に地獄の鬼と怖れられておる織田の信長はいかがですか。」
謙信
「信長か・・あれは駄目だ。そこの箱を開けてみい。」

荒里が開けると山ほどの手紙の束。

謙信
「いまだに三日と空けず蝶よ花よの恋文を送ってくる。」
荒里
「それだけ想いがあるのでございましょう。」
謙信
「わしにはわかる。奴は本当は戦好きではないのだ。信長の戦には熱がない。魂が入っておらぬ。わしが打ち込んだ
らニッコリ笑ったまま斬られて死んでゆくだろう。そんな男だ。ただ・・・信長を・・・死ぬ前に、一度は抱いて見てもよ
かったかな。・・・・・・さあ、もう終わりだ。信玄が地獄で待っていよう。針の山、血の池・・あちらには、どのような戦
場があるものか・・・楽しみでならぬ・・・」

謙信死ぬ。荒里、目を閉じさせ手を組ませると泣きすがる。

荒里
「阿虎様〜!」

溶暗。

【信長の憂鬱〜身代わり光秀〜子供の名前は電気ガマ】

明かりが落ちると後ろ姿で信長が座っている。光秀がやって来て背中から声を掛ける。

光秀
「信長様!めでたい報せでございます!側室のお鍋様、無事、男のお子様をご出産にございます。」
信長
「光秀・・・」
光秀
「?・・どうなされました?」

信長、手紙を手に振り返る。泣いて涙で顔がクシャクシャになっている。

信長
「上杉・・謙信・・が・・・・死んじゃった・・・病気で・・死んじゃった・・・・」

光秀、信長に手紙を見せられる。

光秀
「なるほど・・戦の神といわれたお方も、やはり人間でしたな・・。」
信長
「ゆうべ・・手紙を書いて・・・・今日、出そうとしてたのに・・恋人になれなくてもいいから・・せめて、ずっとずっと・・・
友達でいてくださいね・・・って。・・・今度こそ返事が来るかなあ・・って思ったのに・・・」
光秀
「・・って、今まで一度も返事来なかったのに書いてたんですか?・・いつも書いてらっしゃるから、ああ仲がいいん
だなあと思ってたのに・・一度も!?」

信長、ふるふると首を振る。一通の葉書を大事そうに取り出す。

光秀
「年賀葉書じゃないですか・・しかも芋版で・・何ですこれ、盃の絵が押してあるだけじゃないですか。言葉も添えてな
いし。私製はがきだからお年玉の抽選番号もないし・・嫌がらせじゃないですか?」

信長、ふるふると首を振る。

信長
「これね・・・実はラブレターなの。でも謙信ちゃんは恥ずかしがり屋だからね。盃の絵は『今度お酒を一緒に飲みたい
よね』って気持ちなの・・お酒だよお酒!ティーカップじゃなくて盃でしょ!・・でね。年賀なのにわざわざ私製葉書に
したのはね・・・ふふっ・・・」

信長、赤くなっている。

光秀
「わかりませんな・・?何か意味があるんですか?」
信長
「切手がね、貼ってあるだろ?剥がして裏側をね・・舐めてもいいよって・・ね。そういう意味がこめられてるんだよ!
それに気付いた時は天にも昇るってかんじ。もう嬉しくて・・」
光秀
「・・・で、舐めたんですか?」

信長、恥ずかしそうに何度も頷く。

信長
「そのとき、すぐに謙信ちゃんのところに行けたら良かったんだな・・きっと。でも比叡山で忙しかったときだったか
ら・・・そのあとは恥ずかしくなっちゃったのかな。全然・・・。今日、越後から手紙が来たっていうから、あ、謙信ちゃ
んだと思って、まず切手を剥がして半分だけ舐めてから差し出し人を見たら、荒里なんとかって書いてあって・・、開
けてみたら便せんにマジックで黒枠があって・・・謙信ちゃんが・・・死んだって・・・・(泣)」

光秀、手ぬぐいを渡して

光秀
「お気持ちはよくわかります。けれど、今日はめでたい日です。さあ、涙をお拭きになって、お子様を名付けにおい
でにならないと・・・」
信長
「電気釜。」
光秀
「え?」
信長
「だから電気釜。子供の名前・・」
光秀
「電気釜はいささか・・」
信長
「いいじゃない。どうせ大きくなったら替えるんだから。電気釜、良い名前だろ?」
光秀
「最初のお子様が『奇妙』、次が『茶筅(ちゃせん)』、女の子に『五徳(ごとく)』、『次(つぎ)』だとか『坊(ぼう)』
とか『杓子(しゃくし)』とか・・おかしかないですか?でもって『電気釜』?お子さんが可愛くないんですか?なんか
こう・・愛情ってものが感じられ無いじゃないですか?そんなだから奇蝶様も実家に帰っちゃったんですよ!」
信長
「お前は・・可愛いんだろうな・・。」
光秀
「信長様・・」
信長
「なあ、お鍋にしろ、吉乃にしろさ。みんな、本当にまだ気付いてないのか・・・この人はなぜ閨でもサラシを巻いてる
んだろう?どうしていつも途中からから目隠しプレイになるんだろう?喋らなくなるのはなぜだろう?・・いくら背格好
とか、肌の匂いが似ているからって、指の太さだって微妙に違うしさ・・普通とっくにバレてるんじゃないのか?あい
つら知ってて、お前を・・」

光秀、信長の口を押さえる。

光秀
「信長様、なりませぬ。それ以上申されてはなりませぬ・・。」

信長、抱きとめる光秀をふりほどいて

信長
「ここにいる俺は、嘘っぱちだ・・・戦だって・・・謙信ちゃんが大好きだっていうから、好きになろうとしてただけだ。
もういいんだ。何もかも嫌になった。国立競技場に10万人集めてTV中継入れて、洗いざらい喋ってやる!俺は本当
は俺じゃないって!みんなの知ってる『織田信長』なんて本当はいないんだって教えてやる!!」

光秀、興奮状態の信長に当て身を入れる。失神する信長。光秀、信長に注射を打ち寝かせてから立ち上がる。

 第10章  本能寺に原爆を落す日

【WHO'S NEXT 秀吉・家康・光秀】

家康、秀吉が光秀を待つように立っている。
たとえばドアーズの"ジ・エンド"

秀吉
「ディス・イズ・ジ・エンド・・・信長では、もう持つまい。」
光秀
「確かに、これ以上をあの方に望むのは無理というものだろうが・・」
秀吉
「問題は、その後よ・・」
光秀
「その後?」
秀吉
「信長がいなくなった後の権力の空白が怖ろしい。庶民の人気と敵にとっての恐怖を一身に集めてきた信長がいなく
なる事はマズイ。・・信長を継ぐ者は、信長を倒さねばならぬ・・『第六天魔王信長』を倒し得た者だけが、信長のパワ
ーを受け継ぐ事が出来るのだ。そして・・光秀、お前だけが信長を倒す事ができる・・・」
光秀
「なぜだ?なぜわしだけなのだ?」
秀吉
「わしはこれより毛利攻めの最前線で戦わねばならぬ。備前は遠すぎる・・・もう一つ、光秀は朝廷と仲が良い。・・・
天皇に譲位を迫る横暴な権力者、信長を、この国の正当な支配権を持つ朝廷に懇願された光秀が仕方なく除く。
・・・これなら民衆も納得する。その後、光秀をすぐに征夷大将軍に任命してもらう・・・これでお前の好きな平和が
やって来る。」
光秀
「家康殿!?」
家康
「朝廷とはすでに根回しが終わっておる。辛いだろうがこの事は光秀殿にしか出来まい。事がなるならば、必ず協力
いたす。我らの手でこの正義の戦いを続けてゆかねばのぅ。」
光秀
「なぜ、そう決まってしまうのだ。第一どうやって信長様を・・」
秀吉
「わしが備前から信長様を招く。毛利との戦いは長引きそうだと言えば、信長様は必ず今企画されている茶器、茶道
具の展覧会を済ませてから出陣なさるだろう。展覧会の場所は本能寺、お供は100人も居るまい。そこに原始力爆弾を
落す。」
光秀
「原爆だと!」
家康
「一気に確実に片をつけるには原爆しかあるまい。」
光秀
「そんな物を落して見ろ、信長、本能寺だけでなく・・○○○○○○○○(劇団名)さえ終わってしまうぞ。」
家康
「そうなったらそうなったで良い機会ではないか。」
光秀
「何て事を!」
秀吉
「ほれ。これがスイッチじゃ。」
光秀
「いや、もらっても困る・・」
家康
「良いではないか。持っていても、この安全装置を外して、ここをこう押さねば何も起きはしないわけだ。押すも押
さないのも光秀殿次第・・」
秀吉
「歴史を変える『権利』を手にしただけの事だ。光秀殿にとって、これは『義務』でも『使命』でもあるまい。ただ
・・」
光秀
「ただ・・?」
家康
「このまま信長を放っておいたら、我々のやって来たこと、われわれの人生は無駄になる。信長の伝説が崩壊しない
うちに・・なんとかできるのは・・光秀殿だけだ。日本の中世を終わらせるのも終わらせないのも・・あなた次第というこ
とだ・・そして・・」
秀吉
「フォー・チルドレン・・・『信長様の』お子様たちのためにも・・・お前が継ぐしかなかろう・・・・まあ、しばし一人でゆ
っくり、シンキング・タイムを持つがいい・・・グッナイ・・。」

家康、秀吉、去る。スイッチを手に立ち尽くす光秀。

【原始爆弾投下】

大小の茶道具が運び込まれ並べられる。信長がいそいそと配置を指図している。

光秀
「信長様!」

配置が決まり、信長と蘭丸が舞扇を手に踊り出す。

光秀
「信長様!」

信長、激しく美しく舞う。蘭丸も躍る。

光秀
「信長〜!!」

信長には聞こえない。蘭丸にも聞こえない。

光秀
「どうして僕の言葉はいつもあなたに届かないのだろう・・いつも振り向いてはくれない。いつも僕のことを振り向い
てはくれなかった・・。」

原始爆弾が落ちる。キノコ雲があがり、棍棒を持った原始人がぞろぞろ出てきて茶器もセットも何もかもをぶち壊し
てゆく・・・・重ねて、

家康
「こうして本能寺は粉砕され、原始人たちは破壊を続けながら東に進み、琵琶湖に落ちて溺れ死んだという・・本能寺
に残された死体はすべてミンチとなり、信長を特定は出来なかったが、折れた舞扇の破片が発見され、遺骨代わりに
墓に納められた。光秀は征夷大将軍となったが、備前から帰京した秀吉に討たれてあえない最後を遂げた。私・・徳川
家康は待った。全国を統一した後、朝鮮まで侵略しようとした帝国主義者、羽柴改め豊臣"仏手"秀吉の時代が終わる
のをじっと待ち、戦国時代を終わらせ300年の平和を築いた。・・何もかもは、平和のためのステップ、それぞれの時代
が必要とした事だと自分を慰めるが、信長と過ごしたあの嵐の季節の記憶が生涯、心から消える事はなかった。・・・
・・今も静かに目を閉じて耳を澄ませば、ひたひたと、あのナイトランナーの足音が聞こえてくる。それが僕たちを、
どこへ連れて行くかも知らずに、僕たちの魂は服を脱ぎ捨てて走り出す・・どこまでも、あの青春という時代を・・」

 第11章  信長よ永遠に

【ホームレス信長】

ダンボールハウスが並ぶ橋の下。
奇蝶が風呂敷包みを持ってやって来る。
一軒のダンボールハウスで『インターホン』を押す。
ピンポーンと音がする。


「・・・はい?」
奇蝶
「洗濯物とおにぎりと目刺し。・・おにぎりは"海老マヨ"と"紀州梅"ね。」

ダンボールの上部が『サンダーバード秘密基地』のように開いて、風呂敷包みを収納する。
替わって洗濯物の入ったコンビニ袋が出てくる・・奇蝶、それを持って

奇蝶
「いつまで、ここにいるの?」

上部からパペットの熊さんが出てきて首を振る。

奇蝶
「・・その気になったら、いつでも待ってるからね。・・毎晩、お布団並べて敷いて・・寝間着も枕元に置いてあるから。
おかずも毎食、あんたの分まで作ってあるから・・」

熊さん首を垂れて後を向く。

奇蝶
「それじゃ・・明日も来るから・・」

奇蝶帰って行く。見えなくなったくらいで熊が振りかえって手を振る。
ゆっくりと肩を落し、階段を下りるみたいに下がって行く。
やがて、段ボールの家から一人のホームレスが顔を出す。信長だ!

信長
「おーい、誰か煙草ないかい?切らしちゃってさ。目刺し1匹で3本と交換してくんない?」

いくつかの腕が『ないない』とひらひらする。引っ込むと、煙草を持った腕が出る。顔が出て来ると・・

信長
「小六!お前小六じゃねえか!生きてたのか!」
小六
「話は後だ・・まあ、吸いな。」
信長
「おい、蘭丸!小六だ、小六が生きてたぞ!」
蘭丸
「小六ぅ!」

蘭丸、小六と抱き合って泣く。

蘭丸
「てっきり死んだと思ってた・・」
小六
「崩れた天守から、やっとの事で逃げ出したけど、こんな事がたびたびあっちゃ割にあわねえと思って家業に戻った
んだ。まあ、この不景気で今はこの有様だが・・ここはおいらの生まれ故郷だからさ。・・それはそうとあんたはどう
するんだ?奇蝶のとこへは戻らないのか?」
信長
「戻れねえな・・申し訳なくて。これから・・どうしようかな?」
小六
「じゃあ、故郷へ帰りな。森の中へ。しじみとって山芋掘って暮らすのが一番だ。兎だって、イノシシだって鹿だっ
て熊だってヤマイヌ様だって歓迎してくれらあ。あんたはナイトランナーだもんな。森へ帰るのが一番だ。」
信長
「そうだ・・・確かに、俺はナイトランナーだったんだ。」
小六
「今もさ・・」
信長
「今も?」

蘭丸ニッコリ笑ってうなずく。

信長
「走れるかな・・?」
小六
「走れるさ。」

信長、服を脱ぎ捨てて走り出す。

【ナイトランナー森へ帰る】

信長
「夜が更けると心の中で何かが暴れ出す。身体中に満ちあふれてくる。気が付くと全てを脱ぎ捨てて走っている。
鳥や獣や、森の木々さえ語りかけてくる・・星や月が笑いかけてくる・・梢がヒューヒュー鳴る、足の裏が大地を愛撫する。
透き通った夜が肌に染みこんできて、いつしか俺は森を吹く風になっている。俺はナイトランナー!あんたの家の扉を
蹴りつけ闇の中に去って行く後ろ姿の恋文だ・・なーいとらんなーぁっ!」
蘭丸
「あっ!」

蘭丸のはめていた"手梟"が飛び立ち、信長を追って去る。

小六「今のは・・・織田の手梟か!?目の前で羽ばたくのは初めて見たぞ!そうか、今判った・・・」
蘭丸「何を判ったと?」
小六「信長、ナイトランナーよ・・・あれは手梟だったのよ。・・・一寸先も見えぬ暗闇の中で懸命に羽ばたき、」
蘭丸「こっちだよ、こっちだよと帰り道を知らせる・・」
小六「こっちだよ、こっちだよと・・正しい道へ導こうとする・・」

闇の中仄白く無数の手梟が羽ばたく・・・その隊列が千々に乱れて・・・
声が聞こえてくる
絶叫でなく・・しかし張りつめた緊張と・・ほとばしる激情を秘めて・・穏やかに心の扉を叩く

群唱A群
「けれど手梟は手を離れ闇に消えた・・」
群唱B群
「ナイトランナーの足音も遠く去った・・」
群唱A群
「・・帰りたいよぉ・・・」
群唱B群
「帰るべき故郷もなく・・・」
群唱A群
「帰りたいよぉ・・・」
群唱B群
「冷たい雨が迷い子の群れを打つ・・・」
群唱A群
「冷たい雨がアスファルトに弾ける・・・」
群唱A・B群
「冷たい雨が屍を・・廃墟を・・コンクリートの砂漠を・・・」

群唱B群
(ささやき)「目を見張れ・・!」
群唱A群
「見えはしない・・」
群唱B群
(ささやき)「耳を澄ませ・・!」
群唱A群
「聞こえない・・」
群唱B群
(ささやき)「希望を捨てるな・・!」
群唱A群
「もうなにがきぼうなのかさえわからなくなったよぉ・・」
群唱B群
(ささやき)「おーい・・!」
群唱A群
(ささやき)「おーい・・!」
群唱B群
(ささやき)「おーい・・!」
群唱A群
(ささやき)「おーい・・!」
群唱B群
(ささやき)「おーい・・!こっちだよぉー・・」
群唱A群
(ささやき)「おーい・・!こっちだよぉー・・」

声、しだいに小さくなりながら続く・・・

【大団円】

群唱の声に雨の音が重なり「東京」2003年の都市に降る冷たい雨の中で、
登場人物たちは舞いながら消えてゆく。
原野を駆け抜けるナイトランナーの幻影が中空へと去って行き・・・幕。







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参考図書 「信長は誰か」細川廣次著、「織田信長の正体」別冊歴史読本、八切止夫先生の諸著作、
       「信長あるいは戴冠せるアンドロギュノス」宇月原晴明著、他多数。