『桃太郎SHOW-鬼ヶ島・再び-』

作:白神貴士


【登場人物】

おじいさん
おばあさん

桃太郎
イヌ
サル
キジ

備前屋・野球の鬼

鬼一判官
丹古母鬼二
西東三鬼

:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


   シルエット(映像でもOK)で大きな桃をおばあさんとおじいさんが押して出てくる。
   おじいさんが斧で桃を真っ二つにすると中から真っ二つになった赤ん坊が・・
   腰を抜かすおじいさん。
   針と糸で縫い合わせるおばあさん。
   赤ん坊はすくすく大きくなって・・

声(ちょっと悪者っぽく)
 「何者だ!?」
桃太郎
 「桃から生まれた桃太郎!」

   音楽が雪崩れ込む。
   桃太郎・イヌ・サル・キジ・・文部省唱歌「桃太郎」の歌詞に合わせて振り付けたもので踊る。
   Eくらいからおじいさんとおばあさんが加わって一緒に万歳をして踊り終わる。
   (曲はアレンジ・REMIXした方が好ましいと思います)

〜桃太郎〜 曲/文部省 詞/文部省

@ 桃太郎さん 桃太郎さん
お腰につけた きび団子
一つ私にくださいな


A やりましょう やりましょう
これから鬼の 征伐に
ついて行くなら やりましょう


B 行きましょう 行きましょう
あなたについて どこまでも
家来になって 行きましょう


C そりゃ進め そりゃ進め
一度に攻めて 攻め破り
潰してしまえ 鬼が島


D おもしろい おもしろい
残らず鬼を 攻めふせて
分捕物(ぶんどりもの)を えんやらや


E 万々歳 万々歳
お伴の犬や 猿キジは
勇んで車を えんやらや



 「めでたしめでたし・・でも物語はそれで終わりではなかったのです・・・」

   桃太郎(顔の真ん中に縦に縫い目が走っている-左右色違いも可)、
   リヤカーから2本の斧を取りだして

桃太郎
 「おじいさんが鬼に盗られたと言ってた斧はこの金の斧かあな?それともこの銀の斧かな?」
おじいさん
 「えーっと、えーっと・・どっちじゃったかのぉ・・?」
おばあさん
 「何ょー言よんで、おじいさん、あの汚ゃねー錆びた斧じゃったら、こねーだ納屋で見つかったがな。」
おじいさん
 「おーおー、そーじゃった。わしの斧はこねーだ見つかったんじゃ。」
桃太郎
 「ええ!おじいさん、斧を鬼に盗られて困ってるって言ってたじゃないか!」
おじいさん
 「この村じゃあ何か無うなったら、みんな鬼のせいにしとったからのぉ。」

   イヌ・サル・キジ、目配せして不安そうな表情。

おばあさん
 「じゃあけど鬼が悪さしょーるとこぉ実際に見たゆー人もおるんでぇ。」

   話している間にコソコソとリヤカーから宝をくすねている『鬼』?をキジが見つける。

キジ
 「ケーンケーン!オニー!」
イヌ・サル
 「何ぃ!」

  イヌ・サル、飛びかかって『鬼』を捕まえる。

桃太郎
 「悪い鬼め、あれだけ鬼ヶ島をぶっ潰したのに、まだ懲りないのか!」

  キジ、桃太郎に耳打ちをする。

桃太郎
 「え・・お面?・・」

  キジ、男のつけた鬼のお面を剥がす。
  慌てて顔を押さえる男・・・その顔を見て

おばあさん
 「あら!あんたぁ・・余所より安い3割引、行商人の備前屋さん!」
おじいさん
 「そ、そうなんか?」
おばあさん
 「間違いねーわ!先月もこの足の細うなるストッキングを買うたばっかりじゃけぇ。」

   と、おばあさん足を出す。

桃太郎
 「備前屋さん?あんた備前屋さんなのか?
  どうして鬼のお面なんか被ってたんだ・・」

   備前屋、観念して手を下ろす。

備前屋
 「いかにも私は備前屋です・・
  これを被っとったらドロボーが見つかってもみんな怖がって逃げてくれるもんで・・
  鬼のせいにして物を盗んでは他の村で安く売ってたんです。」

   イヌ、警察の帽子を取りだして被り、
   備前屋に手錠を掛け、みんなに敬礼して連れて行く。
   (後続のセリフと同時進行。連れて行ったら帰って来る)

おじいさん
 「そうじゃったんか・・・」
桃太郎
 「・・・じゃあひょっとして鬼が悪い奴だというのは嘘だったのかな?
  これはみんな本当に鬼たちの宝物だったのかな・・・」
おばあさん
 「まあまあ、ええが。せっかく取って来たんじゃから、もろうといたら・・」
おじいさん
 「そねーな訳にゃあ行くまー。やっぱり返しに行かんとおえまーが。」
おばあさん
 「『すいません、間違いでした』言うて返しになんか行ったら、ひでー目に遭うに決まっとるが。
  ・・殺されるで。」

   おじいさんとおばあさん抱き合って震える。
   一同考え込む。
   どうするかを観客に訊いてみても良い。
   サルがおじいさんおばあさんのマネをして抱きつこうと
   リヤカーの中の大きなクマの縫いぐるみを取り出すと
   クマから手紙が落ちる。

サル
 「キキィ?」

   一同注目。
   イヌが拾った手紙をおばあさんが取り、
   老眼鏡を掛けて読む。

おばあさん
 「お誕生日おめでとう。
  6年前の秋の日にあなたは私の子どもとしてこの世界にやってきました。
  他の鬼の子とは、ちょっとだけ違うところを持って生まれてきたあなたを見て
  お父さんと私は少しだけ悩みました。でも、あなたはあなた、かけがえのない私たちの子どもです。
  この世界で生きてゆくために、他の子よりも頑張らなくてはならないあなたを一生懸命愛して支えて
  生まれてきて良かった・・そう思ってもらおうと考えていました。
  でも、あれから6年たって私たちはその考えが間違っていたことを知りました。
  私たちがあなたにしてあげられた事よりもずっとずっとたくさんの素晴らしいことをあなたはくれたのです。
  あなたのおかげで私たちの人生はとっても美しいものになりました。
  今、心からこう思います。
  『生まれてきてくれてありがとう』
  その感謝を込めてこの大きなクマさんをあなたに贈ります。
  大事にしてね。

  ママより・・ 私の天使に 」

   おばあさん、老眼鏡をとって袖で涙を拭く。
   イヌ、後ろを向いている桃太郎の肩に前足を置く。

イヌ
 「ねえ・・返しに行きましょう・・僕らも行きますから・・」

   サルとキジに鋭い目線を送る。
   サルとキジうなずく。

桃太郎
 「あう〜あう〜」

  振り向くと桃太郎泣いている。
  シルエットになる。
  おじいさんとおばあさんに別れを告げリヤカーを運ぶ桃太郎一行。
  (フェリーに乗り込む映像などあっても良い)

  この間、短調にアレンジした桃太郎の曲を以下の歌詞で

〜鬼ヶ島・再び〜

行きましょう 行きましょう
せっかく獲った宝物
鬼に返しに行きましょう
鬼に返しに行きましょう

  シルエットから明かりが点くと金棒を持った4匹の鬼に囲まれている一行。

鬼一判官
 「この鬼殺し!何をしに来た!まだ殺したりないのか!」
丹古母鬼二
 「何の罪もない息子や孫たちを・・・・その敵、とらせてもらうぞ!」
西東三鬼
「水枕ガバリと寒い海がある・・許さんぞ桃太郎!」
野球の鬼(バットを持っている)
「飛雄馬、勝負だ!」

   野球の鬼、突っ込まれる。
   鬼に囲まれる一行。
   誠心誠意謝る桃太郎。

  ■さて、どう謝ったらいいのでしょう。
   沢山の鬼を殺した桃太郎はどうしたらいいのでしょうか?
   ここの桃太郎のセリフは芝居を上演する皆様に考えて欲しいのです。
   桃太郎になったつもりでよろしくお願いいたします。

鬼一
 「ふざけるな!地獄に堕ちろ!」

   と、金棒を構えた鬼一を三鬼がとどめる。

三鬼
 「待て鬼一。
  ここでせっかく謝りに来たモモタロウを殺したら
  鬼はやっぱり恐ろしい奴らだったんだと思われるだろう。
  人間たちは復讐にやってきて終わりのない戦いが続くだろう・・
  鬼の子どもたちが平和に育って恋をして、また子どもを生んで育てられるように
  鬼と人の未来のために・・私たちは涙を呑んでモモタロウを許してやろうじゃないか。」

   三鬼、桃太郎の肩を抱いて立たせる。
   
三鬼
 「わしらは君のしたことを忘れる事は出来ないだろう。
  だが、わしらは君を殺すのではなく、君とともに生きて行こう・・
  桃太郎は勇気を出して謝りに来た。
  君のおかげで鬼と人の信頼、鬼と人の平和が築けるかも知れない。
  そのことには感謝しよう。
  ありがとう・・桃太郎。」

   桃太郎、泣きじゃくり三鬼にすがりつく。

三鬼
 「鬼二、叩いてくれ。踊ろう。」

   三鬼、鬼二の叩く太鼓で踊り出す。
   踊りながら桃太郎を誘う。
   桃太郎も踊り出す。
   イヌが笛で加わり、
   鬼一判官が踊りに加わり、
   キジが踊り出し
   野球の鬼が鉦を叩く、
   サルが歌い出す・・・という風に四人が奏し、四人が踊り出す。
   (あるいは録音された音源で8人が踊る・・もOK)
   踊る中で、それぞれの葛藤なども表現できれば更に良い。

   おじいさん、おばあさんも出て踊る。

   幕。