秘宝館昇天堂一座1997年度特別公演「朱砂之雄」

「始まり」

 霧の流れる谷あい・・・遠い過去のようでも有り、遥かな未来で有るかも知れない。

 ウータ、シジマ、アソビがこの芝居の語り部を務める。最初はみな百歳を越える老人の姿で、山間の霞のように登場する。一本の花が咲いている。背丈を超えるほどの花。三人、協力して花を傾け、その露を飲む。

 三人、見る見る若返り、若者のようにふざけたり、笑ったり、抱き合ったり、駆け回ったりする。

シジマ 「まるで、あの頃のようだ・・・・」

アソビ 「あのころ、私たちはよくこうやって・・」

ウータ 「海を見ていた。」

「物語は海からやってくる」

 海がわき上がる。逆巻き、大きく波打ち、舞台いっぱいに荒れ狂う。

 波間に声がする。生まれてまもない

赤ん坊が籠に乗って波間を滑り落ち、また、跳ね上げられる。

 沈もうとする赤ん坊を波間から救い上げる手。月の女神の如き姿の、ツクヨミの化身が赤ん坊を渚に安置する。

 朝がやってくる。浜に打ち上げられた魚を拾い上げている縄文の男、部族のリーダー、クルミ。泣き声に気がついて、赤ん坊=スサノオを抱き上げる。赤ん坊笑う。クルミ赤ん坊を頭上高くに持ち上げた。

「タイトル」/「いのちが満ちあふれている」

 巨大な木の実、キノコ、貝、などを持った縄文人と、狩りのダンスが展開される中で、スサノオは、見る見る青年へと育っていく。みんないなくなる。アマテラスが残る。

「想い」

アマテラス「スサノオ・・どうしても、ここにいなくてはいけないのか?」

スサノオ 「ああ、物見だ。夕べ、向かいの島に妖しい煙が立った。クルミの言いつけだ。」

アマテラス「とう様か・・・もう儀式が始まる。私は行くぞ。」

スサノオ 「大事な儀式だな。しっかりな。」

アマテラス「・・それだけか。知っているか?一の巫女は代替わりまで・・男と床を共にしてはならないのだ。」

スサノオ 「ツク=ヨミに聞いた。」

アマテラス「・・・よいのか?」

スサノオ 「何がじゃ?」

アマテラス「・・知らぬ!スサノオはモグラムチじゃ!人の心が判らぬ!お前なぞ鰐鮫にでも喰われてしまえばよい!」

 アマテラス、駆け去って行く。浜に近い丘の上。スサノオが踊る。スサノオの心が歌う。禁じられた恋の想いを・・・。

  狭霧に濡れる汝が黒髪 吾が指に漉かん 地平を染めし夕日の色 汝が唇にひかん

  花野の如き汝が優しさ 吾が指に触れん 母猿と小猿のように 汝が胸を抱かん・・

 恋しいものの名を呼ぶ。「アマテラス・・・・!」

「渡来人」

スサノオ 「なんだ!あの船は!」

 はっと気づくと、巨大な船が浜近くに乗り上げ、男たちが現れる!きらきらと槍の穂先が煌めく。

スサノオ 「しまった!」

 驚いたスサノオは、コタンへととって返す。男達が上陸してきた。

イカヅチ 「ナギ様、ご覧下さい!この土の黒さを!このように肥えた土地、米作りに適した土地は見たことがありません。ご覧下さい!あの森々を!この島は、山川草木に命が満ちあふれてサバエなし、五月蠅いばかりです!」

ナギ   「五月蠅い?」

イカヅチ 「命が五月の蠅のように舞い上がっております。これこそ、我らが先祖の神よりの賜り物、約束の地に相違有りません!」

 ナギ、長剣を浜に突き立てて宣言する。

ナギ「この島を高天原と名付けん!」

 

「マロウドの宴」

 ナギたち、奥地へと去る。

 スサノオの知らせを受けて客人(まろうど)を迎える宴の準備をする縄文の民たち。太鼓を叩き

笛を吹き、獲物を持ち寄り、着飾っている。

 異様な獣の雄叫びを聞いて、一同警戒する。渡来人が、仮面を被り、怪異な馬鎧をつけた馬にまたがってやってくる。

タヂカラオ「我は、お前たちの神。我に従わぬ者は首を失う。」

 戦斧が、うなりを上げて威嚇する。

アマテラス「あれは神にあらず。ただ人の見える・・・!」

クルミ  「神の声は人の耳には聞こえぬもの。ただ、心に響くという。・・・詰まらぬ座興は止めて、我らの宴の客となるか?どうしても、その物騒な道具を使いたいというのなら、こちらにも考えがある。」

 吹き矢が並んで仮面の男に向く。

タヂカラオ「飛び道具か・・しかし、この鎧に歯が立つかな・・?」

 クルミが手を降ろすと、馬が棒立ちになり、仮面の男は落とされる。

イカヅチ 「タヂカラオ!そこまでだ!小奴ら、馬の目を射抜いた!」

タヂカラオ「イカヅチ!!おぬしの策略はクソの役にも立たなかったぞ!」

 仮面を脱ぎ捨てたタヂカラオに、現れたナギが声をかける。

ナギ   「我らの負けじゃ。斧を納めい。」

 タヂカラオ、戦斧の柄を力任せに叩き折る。

イカヅチ 「さても短気な奴よ・・」。

 ナギ、武器を捨てて宴の席へと向かう。

ナギ   「我に習え。」

 タヂカラオとイカヅチ、後に従う。

 笑顔で宴の座についたナギに、クルミもニコリと笑って隣に座った。宴の音楽が再開され、タヂカラオにウズメ、イカヅチにツク=ヨミ、ナギにアマテラスが酌をする。

ナギ   「これは?」

クルミ  「OOOの絞り汁だ。」

ナギ   「もっと、うまいものを飲ませてやろう」

 ナギ、イカヅチの持つ徳利から、皆の器につがせる。躊躇している皆を見て、ナギうまそうに飲んでみせる。

ナギ   「たまらぬ、たまらぬ・・・魂がとろけるようじゃ!」

 皆、顔を見合わせながらも飲む。うまい!なんだか、ほかほかするし、心が浮き立つような気がする・・宴も盛り上がって行くが、次第に縄文人たちは寝てしまう。 

タヂカラオ「何を飲ませた?」

イカヅチ 「只の酒よ。もっとも強いがな。」

ナギ   「初めて飲むくせに、大酒はいかんよなあ・・」

 と、指を鳴らすとタケルが現れて短刀でクルミの両手両足の筋を斬る。悲鳴に目覚める縄文人たち。タケルの刃が、身動きできぬクルミの咽に当てられている。 慌てて、吹き矢や棒を構えようとする縄文人たち。

ナギ   「強き者が弱き者に情けを掛けてはならぬのよ。あきらめろ・・私たちの勝ちだ!」

 棒や、吹き矢が地面に落ちる。

「米奴」

 縄文人たち、水牛を使って田を耕す、牛が暴れる。巨大な苗を植える。草を取る。暑さで倒れる。

 上記と平行して、ナギに仕えるアマテラスが、ナギに言い寄られる。タヂカラオがウズメに骨抜きにされる。イカヅチがツクヨミに冷たくされる。オオゲツヒメがクルミに食物を与えようとして拒否される。タケルが笛を吹いているのをシジマが見ているが、タケルが気配に振り返ると、もういない。などが展開される。スサノオは姿を消している。夜が来て農奴たちは酒を飲まされて眠る。

「クルミとスサノオ」

 閉じこめられているクルミのもとへ忍び込んだスサノオ。

スサノオ 「今助けるからな。」

クルミ  「無理だ。この枷は、いかにお前が強力でも外せまい。外しても、わしを背負って逃げる間に奴らの餌食じゃ・・それより、お前に頼みがある。何とかして、奴らを追い払い、この大地を元に戻して行くのじゃ。お前が駄目なら、おまえの息子、そのまた息子、何年かかってもやり遂げるのじゃ・・・さもなければこの大地は、ここに住む人の心は、滅びてしまうだろう」

スサノオ 「判ったよ」

クルミ  「よかった・・これで心おきなく・・・」

 クルミ、目を閉じ死ぬ。

スサノオ 「クルミ・・・!」

 スサノオ、声を殺して泣く。胸が張り裂けんばかりに・・・

「レジスタンス」

 黒い影が、繋いである水牛に忍び寄る。月光に刃が一閃すると牛は声もなく崩れ落ちる。水牛の頭の皮・角を被って立ち上がる影は、紛れもなくスサノオだ。続く影は三つ。

スサノオ 「急げ・・夜明けが来る前に!」

 四人闇に躍って消える。

「朝のニュース」

イカヅチ 「水牛が一頭死亡、畔が八ヶ所損壊、水路の埋め戻しが二ヶ所。種もみが焼かれて三分の二を焼失。神殿に汚物がまかれ、機織り部には皮をはがれた馬が投げ込まれました」

ナギ   「よくわかった。たった一晩でそこまでやるとはな。・・やはり、あの姿を見せぬガキの仕業か?」

イカヅチ 「更に、同調者と思われる者三名が、今朝から姿を消しております。」

ナギ   「残った奴らは?」

イカヅチ 「口を割りません。」

ナギ   「あの土蜘蛛どもめ!」

 ナギ、立ち上がって傍らに仕えていたアマテラスに、

ナギ   「立派な弟を持たれたな・・親孝行なことだ。」

イカヅチ 「ナギ様、どちらへ?」

 イカヅチ後を追う。

イカヅチ 「お待ち下さい。私に考えが御座います!」

アマテラス「ハポ・・スサノオは・・クルミは大丈夫だろうか・・」

ツク=ヨミ「・・・」

アマテラス「ハポ・・答えて」

ツク=ヨミ「・・・・きっと悲しいことが起こる・・・そんな気がしてならない・・弟の居所を知っているの?」

アマテラス「岬の洞窟(ガマ)に・」

盗み聞きをしていたイカヅチがにやりと笑う。

「浜辺にて−宴」

 音楽が聞こえてくる。優美にして軽快、心うきうき、お尻が軽くなるような音楽。

洞窟の中でそれを聴いているスサノオ・ウータ・アソビ・シジマ。

 音楽を奏でながらやってきたのはタヂカラオ・イカヅチ・オオゲツヒメ・タケル。浜辺に座り、奏で、あるいは踊り、囃す。とても、楽しそうに。笑い声・歌声が風に乗ってくる。

 遊べや 遊べ 舞え 歌え 浮き世の憂さを 売りに出し 一夜の姫と 火とならむ

 遊べや 遊べ 舞え 歌え 浜辺の風の 嬉しさに 蟹もサザエも 踊り出す

 遊べや 遊べ 舞え 歌え 盃回して 酒ついで 殿も奴隷も 輪になって

 遊べや 遊べ 舞え 歌え 踊るアンポン 見るアンポン さあさ仲良く 腕組んで

ウータ「何と不思議な調べよのう!」

アソビ「何だかとても楽しそうじゃな!」

スサノオ 「・・・」

シジマ  「・・・い、いいのう。踊りたいのう!なあ、スサノオ!」

スサノオ 「罠かも知れぬ・・」

 シジマ、つと立って出入り口から、窺う。既に腰が動いている。だんだん大きく動く。

 これは 罠では ありはせぬ 年に一度の 無礼講 浮き世の罪は 知らんぷり(知らんぷり)

 勿論 罠では ありはせぬ 大王様の 誕生日 全て忘れて 踊りましょう(踊りましょう)

シジマ  「ほれ、ああ云っとるで!・・・・ええい、辛抱たまらん!」

スサノオ 「シジマー!!」 

 シジマ、たまらず、マロビでる。渡来人たち、さっとシジマを向くが、その表情は溶けるような笑顔である。シジマ、笑い返す。ゆったりとした調子に曲が替わる。シジマ、踊りの輪の中にとけ込んでいく。シジマ、巧に踊る。人々、シジマの廻りに輪を作って囃し立てる。渡来人たち、シジマのふりを真似してみせる。シジマ、益々、有頂天になって踊る。渡来人たち、さっと手を繋ぎ、輪を作ってシジマに近づいていく。シジマ、益々激しく踊る。楽の音が最高潮となり人々集まって両腕を激しく天に突き上げる。静寂。輪が静かに解けると、タケルの剣で胸を貫かれたシジマが、ゆっくりと浜の砂の上に横たわる。

「浜辺にて−戦」

スサノオ 「シジマー!!」

 スサノオ・ウータ・アソビ、縄文の(争いの)武具=棒を手に、戦いを挑む。奮戦するスサノオたち。だが、金属製の武器を持った渡来人たち。タヂカラオの戦斧が棒を叩き折り、タケルの利剣が、棒を切り刻む。スサノオたち、素手でも奮闘するが、ウータがイカヅチに腕を斬られる。スサノオ、立ちはだかり、アソビにウータを連れて逃げさせる。スサノオ、イカヅチの剣を奪い見よう見まねで戦う。

タケル  「初めてにしてはよくやるが、剣も選ばねば役には立たぬ」

 タケルの剣に剣を折られた隙に背後から、タヂカラオの豪腕がスサノオの首にまくいつく。万力のような力で締め上げられ、やがて失神する。渡来人たち、スサノオを運び去る。

「再会」

 ナギとアマテラスの待つ宮へ、引き出されたスサノオ。被っていた牛の頭をはねのけられる。

ナギ   「汝が、土蜘蛛どもの親玉か?」

スサノオ 「・・・」

ナギ   「誰か、小奴の舌を切り取ったか?」

イカヅチ 「いいえ」

ナギ   「喋らせろ」

タヂカラオ「早速」

 と、タヂカラオが、鞭を取り出すのを

ナギ   「待て。わしがやる。お前は加減を知らぬからな」

 と、鞭をとるナギ。

ナギ   「背中を開けい」

 スサノオの背中を露出させるタケルとタヂカラオ。

ナギ   「そ、それは・・・・」(と、絶句)

ナギ   「その痣は・・後に出来た物か・・初めから有った物か! 」

アマテラス「赤子の時より・・」

ナギ   「おおっ!!!」

「蘇る日々」

 場面に波が出現する。波は、ナギ以外の物を消し去ってしまう。波間に浮き沈みする少女=ナミ。

ナギ   「おーい!!」

 手を振ろうとするナギ、波に呑まれる。波が一瞬空間を埋め尽くして、サーッと引いていく。浜に打ち上げられたナギを覗き込む少女。

「オノゴロ島」 

ナギ   「ここは・・・何処だ?」

ナミ   「オノゴロ島」

ナギ   「それは・・・何処だ?」

ナミ   「知らない」

ナギ   「知らない?」

ナミ   「私が名付けた・・・たった今。」

ナギ   「君が?」

ナミ   「ここは・・・私たちだけの島」

ナギ   「君と僕だけの?」

ナミ   「他には誰も居ない島」

ナギ   「君は?」

ナミ   「女・・・成り成りて成り足らない生き物」

ナギ   「僕は・・」

ナミ   「男・・・成り成りて成り余る生き物」

ナギ   「僕たちは、これからどうしよう?」

ナミ   「貴方は、尋ねてばかり・・・」

ナギ   「判らないんだ・・・誰かの書いた本のように、これまで人生は僕の前に道を開いてきた・・・・明日はいつでも約束されていた。失敗した事なんてなかった・・・」

ナミ   「でも、船は楽園には着かなかった・・・私たちは、誰でもなくなった」

ナギ   「誰でもない?」

ナミ   「この世界に、ただ二人の男と女」

ナギ   「僕たちは、これから・・」

ナミ   「二人でこの世界を作っていくの」

ナギ   「僕はナギ、イザのナギ・・・君の名は?」

 ナミ、ただ笑ってナギを抱き寄せる。波が抱き合う二人を隠す。再び現れた二人、ナミは赤ん坊をを抱えている。

ナギ   「これが、僕たちの世界?」

ナミ   「ほら、この子の背中には世界が描かれている。・・答えてあげる・・私の名はナミ」

ナギ   「ナミ・・・」

ナミ   「今・・名付けたの」

 ナミが赤ん坊を傍らの駕籠に乗せて、ナギと抱き合おうとしたとき、島を津波が襲う。

ナギ   「ナミー!!!」

ナミ   「ナギー!!!」

 二人は離ればなれになり、赤ん坊の姿も消えてしまう。

ナギ   「あー!!!」

 絶叫するナギを波が覆い尽くす。と、舞台は元に戻っている。

「審判」

 アマテラス、ナギの足下に頭をこすりつけて懇願している。

アマテラス「なにとぞ、なにとぞ弟の命ばかりはお助け下さい。この子には、まだ何も判らないのです。今度のことは私の責任です。」

 ナギ、我に返って

ナギ   「顔を起こせ。その美しい顔を・・・アマテラス、弟に代わって責任をとるというのだな・・よし・・・楽しみにしているぞ」

 アマテラスの顔が曇る。ナギ、オオゲツヒメを呼び寄せて何事か耳打ちをし、前を振り向いて宣言する。

ナギ   「スサノオの命、オオゲツヒメに預ける!」

 タケルとタヂカラオ、スサノオを連れて行く。ナギ、アマテラスを連れて行く。イカヅチも去る。

「葬送」

 シジマの遺体を運ぶ縄文人たちの葬列が近づいてくる。泣いている。嘆いている。シジマを埋葬する。花を飾る。去っていく。残るウズメ。離れようとしない。ツク=ヨミが肩を抱いて・・・

ツク=ヨミ「泣きたいの?たっぷり泣いておあげなさい。涙が河になるくらいに。・・先に帰りますからね。」

 と、去る。ウズメ泣きに泣く。

「ウズメの決意」

 いつのまにか、タヂカラオがウズメを見ていた。

タヂカラオ「すまない・・。わしは、イカヅチのように言葉を操る術は知らない。だから、何と云って良いか判らぬが・・・お前を、そのように悲しめると判っていたら・・」

タヂカラオ、膝をついて、ポロポロ涙をこぼしている。ウズメ、タヂカラオをじっと見ている。やがて、笑顔に変わりタヂカラオの頭を抱く。 

ウズメ  「タヂカラオ、お前のせいじゃない・・・シジマとは兄弟のように育った。確かに、好いていたのかも知れない。けれど、もう、良い。私にはタヂカラオがいる。乱暴で、大馬鹿で、お人好しで、酒飲みだが、・・何より私をこんなに愛してくれている。私の悲しみを想って、子供のように泣いている。」

タヂカラオ「ウ・・ウズメ・・!許してくれるか・・わしを・・」

ウズメ  「もう、気にするな。それより、頼みがある。きいてくれるか?」

タヂカラオ「ああ、何なりと!」

ウズメ  「私をナギ様の所に連れていってはくれぬか?」

タヂカラオ「何の、それしき、お安い御用じゃ」

 ウズメとタヂカラオ、手を取り、去って行く。

「オオゲツヒメ」

 館布引く。布の間からオオゲツヒメ現れ、ごちそうを並べる。タケルに連れられたスサノオ(目隠しされ、縛られている。)が現れる。タケル、スサノオを座らせて、目隠しをとる。

オオゲツヒメ「酒は飲まぬか?」

 スサノオ首を振る。

オオゲツヒメ「少し飲んだが良い。」

 オオゲツヒメ酒を口に含みスサノオに飲ませる。スサノオ少しむせる。タケル、そっぽを向いてしまう。オオゲツヒメ、今度はかやく御飯を口に含もうとする。

スサノオ 「匙で!」

 オオゲツヒメ、小首を傾げ、もう一度、口に含もうとする。

スサノオ・タケル「だから、匙で!」

 声がぴったり重なり、二人ちょっと慌てる。オオゲツヒメ口の中の御飯を匙に移そうとする。

スサノオ・タケル「新くすくって!」

 オオゲツヒメ残念そうに新しく匙ですくってスサノオに食べさせる。スサノオ観念して食べる。

オオゲツヒメ「うまいであろう?米の飯は、うまいだけではない。・・戦に持っていって毎日食べられる。戦の途中で腹が減っても、いちいち狩りをせずに済む。年に二度穫れて、籾のままなら3・4年は腐らずに持つ。これを蓄えておけば、どんな長い戦にも、大丈夫。」

タケル   「ただいまなら、この便利な米が」

オオゲツヒメ「なんと10kg入りで2980円!」

タケル   「母上!」

オオゲツヒメ「タケル・・良い突っ込みのタイミングであった。」

タケル   「そんなことより!」

オオゲツヒメ「焦らないの、おちびちゃん。これより先は、お前に聞かせられぬ話がある。あちらへ行っていなさい。」

タケル   「・・縄を解いてはなりませぬぞ!」

オオゲツヒメ「はいはい」

 タケル、何処か憤然と出て行く。

 オオゲツヒメ、改まった顔で、スサノオの前にひれ伏す。

スサノオ  「何をしている?」

オオゲツヒメ「御子様には数々の無礼お許し下さい。」

スサノオ  「何のことだ?」

オオゲツヒメ「スサノオ様は、まごうかたなきナギ様のご長男にあらせられます。・・・いえ、にわかの事ゆえご信じになられないのも道理。今を去る事15年前、嵐の海で離ればなれになられた貴方の父上様こそあの、ナギ様に相違御座いません。かくなる上は、正式に王家の血筋であることを明らかにして、皇太子となられますよう。」

スサノオ  「皇太子とは何だ?」

オオゲツヒメ「ナギ様の後にこの国、高天原を納める国王となられる方です。」

スサノオ  「お前はナギの妻だと聞いた。お前たちの流儀が親子の血筋なら、あのタケルがナギの跡を継ぐのではないのか?」

オオゲツヒメ「・・貴方のお母様はナギ様が初めて愛し、愛されたお方。私は・・・所詮、こちらの女。夜伽をする奴隷にすぎません。それにタケルは・・・」

スサノオ  「どうした?」

オオゲツヒメ「いえ、何でも御座いません」

スサノオ  「私が、本当に、あの男の息子なのか!何か、証拠でもあるのか?」

オオゲツヒメ「そうで御座います・・・・何よりの証拠は。」

 と、スサノオの背中をはだけ

オオゲツヒメ「この痣に御座います・・・!」

 指先で撫で回す。

スサノオ  「何をする?!」

 オオゲツヒメが手に取った鏡が妖しく光る。

オオゲツヒメ「ご覧下さい!この痣こそナギ様の御子で有ることのシルシ!皇太子の証!」

 スサノオの顔をねじ曲げ鏡を見させようとする。

スサノオ  「やめろ!やめろお!」

オオゲツヒメ「くやしい!くやしい!タケルはナギ様の子ではあっても、ちっともナギ様には似ておらぬ、小そうてドングリマナコで、これは、おまえら土民の子と変わらぬと云うのじゃ・・!一度も、頬ずりさえしてくれなんだ!それでもタケルは、タケルは、とう様のためにと命を懸けてきた!何で、お前のような土蜘蛛が皇太子じゃ!!くやしいい!!」

 オオゲツヒメ、いつの間にか刀を手にさげている。

スサノオ  「落ちつけ!私には縁のない話だ!」

オオゲツヒメ「うるさい!」

 オオゲツヒメの刃をかわすスサノオ、刃が触れて縄が切れた。

スサノオ  「やめろぅ!!!」」

 奪い取った刀が闇に煌めいた。オオゲツヒメ、どうと倒れる。

スサノオ  「しまった・・・!」」

 息を確かめようと顔に近づいたスサノオにオオゲツヒメが毒霧を吹き付ける。

スサノオ  「あっ!!!」

オオゲツヒメ「土蜘蛛め・・これでお前はもう二度と太陽を見ることはない・・・」

 オオゲツヒメ息絶える。スサノオ、目を押さえて外にまろびでる。転がるように、どこかに身を隠した。

 館布が、回って交差すると、そこは、ナギの住む館。

「アマテラスの死」

 衣を合わせるアマテラスの背後からナギの腕が肩を抱く。

アマテラス「これで、弟を許して下さいますか」

ナギ   「約束しよう・・・命は取るまい。カムイに仕える巫女が掟を破り、この玉の肌を渡来人の男に許したのだ・・・その重さを考えねばなるまい。」

 タケルが外に控える。

タケル  「ナギ様、申し上げます。土蜘蛛の頭スサノオが・・・母上を危めて脱走いたしました!」

ナギ   「・・・以外と軽かったかな。・・タケル!そこに直れ!!」

 ナギ、タケルを打擲する。

ナギ   「お前がついていながら、何故逃がした!」

タケル  「お許し下さい・・」

ナギ   「もう良い・・・報告に来る前に、探し出すことを考えろ!行け!・・・どうした?」

タケル  「母がミマカリました。」

ナギ   「それは、もう聞いた・・」

 と背中を向けるナギ。タケルの右手が剣の束にかかっている。

タケル  「それだけですか。」

ナギ   「情の厚い女であった。わたしに惚れ抜き、よく尽くした・・残念に思っている。」

タケル  「有り難うございます。もう一つ、スサノオがあくまで抵抗した場合・・殺すことをお許し下さい」

ナギ  「必ず、生きて捕まえよ。」

タケル  「それが、ならぬ場合・」

 ナギ、血管を浮かせて。

ナギ   「・お前の好きにしろ。」

タケル  「承知!」

 タケル、消える。ナギが振り返ると、アマテラスがいない。

ナギ   「抜かったわ・・・何処にいる!!」

 ナギ、剣を手に館を出る。館布消える。

ナギ   「アマテラス!!」

見つかったアマテラス・・ジリジリ後退して行くのに合わせてせり上がる岩戸布。遂に追いつめられる。

ナギ   「私と帰れ。誰にも渡す気はない。お前だったら 、正式の后に迎えても良い。」 

アマテラス「嘘つき!」

ナギ   「勝手に逃げたのは吾奴だ・・王の命令に逆らう気か?」

アマテラス「二度とお前に抱かれようとは思わぬ!!」

 ナギの剣がアマテラスを斬る。アマテラスの身体が岩戸の中へ倒れ込む。

ナギ   「・・・どいつもこいつも・・・俺をなんだと思っている・・・国王だ!天命を受け、この高天原を支配する者だ!何故逆らう!!!」

 その時、一天俄に掻き曇り、太陽が消え始める。雷の音。どろどろと土地神が大気にまじって右往左往する。ナギを悩ませる。

ナギ   「イカヅチ!タヂカラオ!誰かおらぬか!」

 イカヅチとタヂカラオが現れる。その後ろに従う者が・・ウズメだ。イカヅチ、ナギの指を剣の束から引き剥がす。タヂカラオ、岩戸の中を覗いて、イカヅチに目顔で合図。イカヅチの指図で岩戸を閉める。イカヅチ、剣の血を拭う。

ナギ   「何が起きている・・。」

イカヅチ 「何も・・・心配はいりませぬ。むしろ、吉兆=良いシルシでありましょう。」

ナギ   「イカヅチは呑気でよい。・・・その女は?」

イカヅチ 「ウズメと申します。奴らのシャーマンの一人です。実は、いささか相談がございます。こんな所で立ち話も・・・館へ帰りましょう。」

 一同、去って行く。風雨が強くなる。

「天の岩戸−声明」

 風雨が収まる。イカヅチ、ナギ、タヂカラオに先導されて縄文人たちが岩戸に向かう。イカヅチ、

岩戸の前に立ち、巻物を読み上げる。

イカヅチ 「アマテラスは、弟、スサノオの犯した罪に怒って天の岩戸に隠れた。もはや、黄泉の国に旅立っているかも知れぬ。それが証拠に太陽が空に隠れてしまった。このままでは、お前たちのカムイの怒りは解けまい。アマテラスの、カムイの怒りを鎮めるために、今宵、お前たちの祭り、カムイの祭りを行う。明日の米作りは休みとする。存分に祭りをせい!!」

「天の岩戸−祭り」

 歓声が上がり、祭りの準備に散る縄文人たち。寝耳に水のツク=ヨミを差し置いて、テキパキと指図をするウズメ。岩戸の前に火を焚き、お仕着せを脱ぎ捨て、縄文の姿に戻り、或いは、片袖を脱ぎ、踊り狂う。タヂカラオとタケルが、火の中に麻をくべる。人々、酒を飲み、熱狂し、笑う。

「天の岩戸−ウズメの踊り」

 ウズメが大きな桶の上で踊る。薄物一枚となり、胸乳を掻き出し、裳紐をほとまでズリ落として踊る。人々笑いさんざめく。歓声を上げる。薄物を脱ぎ捨てたウズメ、アマテラスの衣を手に踊り出すが、人々、興奮してそれと気づかない。ウズメ突然立ち止まり、岩戸を指さす。タヂカラオが大声と共に岩戸を開ける。人々、声を上げる。岩戸の隙間から光が漏れてくる。鏡が岩戸の中に仕込んであるのだ。開ききった岩戸の鏡に、アマテラスの衣装を付けたウズメが輝いて映る。

「天の岩戸−宣言」

イカヅチ 「今やアマテラスは死の国より蘇り、天地をしろしめす神々の王となった!!」

 人々は歓喜の声を上げた。「アマテラスが蘇った!」「アマテラス!アマテラス!」

「天の岩戸−スサノオ」

タケル  「我、罪人スサノオを連れ戻らん!」

 タケル、盲となったスサノオを引き立てる。

スサノオ 「アマテラス・・・姉さん・・・」 

 スサノオ、縄を解かれ這うようにアマテラス=ウズメに近づく。しかし、彼の手が触れたのは・

スサノオ 「・・・!?・・お前は誰だ!」

 タヂカラオとタケルが、スサノオを押さえる。

ウズメ  「我こそはアマテラス・・・スサノオは最早我が弟に非ず。高天原に用無き者、根の国に去れ!!」

「追放の歌」

 人々、祭りの後始末をして消える。 スサノオが、手足の爪を抜かれ国境まで追い払われる。

 ウータが「追放の歌」を歌う。

砂塵の中に消えていった 後ろも見ずに去りゆく人

今でも胸に覚えている あの日唄った歌

私の胸に溢れたもの 何も言えずに別れた人

いつか私も背中に聞く あの日唄った歌

 スサノオがやってくる。杖をつき、こけつまろびつ、やって来る。遠い道をやって来る。

 やってくる間に、ウータ、イズモ族の村長ムナチへと変貌する。スサノオがやっとたどり着いた。 ムナチはオイオイと泣いている。

スサノオ 「どうしたのだ?何を泣いている」

ムナチ  「他でもありませぬ。私の娘が今宵、食われてしまうのです!」

スサノオ 「何だって・・一体、誰に食われると云うのだ!」

ムナチ  「私は村長のムナチと申します。私どもは、海を渡ってこの島へやって来ましたが元々、蛇神ナーガを祭る者です。それが・・どうも、この国の蛇神の怒りに触れたらしく、ヤマトノオロチと云われる蛇神が、度々この村を襲うようになったのです。初めは抵抗いたしましたが、その牙の固いこと、銅剣は元よりなまじの鉄剣では折られてしまいます。部族の勇者たちは枕を並べて討ち死にし、村はその乱暴にたまらず、娘を差し出しては怒りを鎮めてまいりました。ですが・・」

 と、娘を呼ぶ。アマテラスによく似ている。

ムナチ  「この私の末娘・・・近隣のミス・コンテストを総なめにし、あまりに美しいのでクシ・イナダヒメと呼ばれる末娘しか、もう、この村には残っておりません。このままでは村は過疎化の一途をたどり、タイかフィリピンあたりからお嫁さんを買ってくるしかなくなります。」

スサノオ 「事情は判った。よし、私が力を貸してあげよう。」

ムナチ  「・・そ、そうですか?いやあ、そうじゃないかとは思ってたんだ。目が見えなくて杖をついてる一人旅の人と云えば、ほかにはいらっしゃいませんよねえ。生きてたんだ。随分髪が伸びられましたね。そうですか、これが、あの仕込みヅエですか・・・あれ、抜けませんぜ?」

スサノオ 「何か勘違いをしているようだが、私はスサノオという者だ。力と云っても、むしろ智恵の力を貸そうと云っているのだ。あなたの話を聞いて思いついたことがある。」

 スサノオ、村長の家から酒樽を四つ運ばせる。真ん中にクシ=イナダヒメを縛って立たせる。スサノオとムナチ隠れる。

「ヤマトノオロチ」

 煙を巻きおどろおどろしい音楽と共にヤマトノオロチ=三つの頭と、一つのしっぽが現れる。牙の変わりに双剣など、輝く武器が生えている。ひとしきり、剣舞をして、酒樽に向かう。

トノオ  「ヤーマ、どう思う?」

ロチイ  「何のことだトノオ」

ヤーマ  「この酒樽だろロチイ」

トノオ  「気が利いてるよな」

ロチイ  「毒でも入ってるんじゃねえか?」

ヤーマ  「どうでしょ?ノシッポ親分」

ノシッポ 「んーん、いい匂いだ。こりゃいい酒だ。たまらねえな・・・いいから飲んじまえ!どうせ、相手は腰抜けばかりだ。」

 飲みに飲んで酔いつぶれた大蛇たちを引っくくったスサノオと、ムナチ。オロチたちに頭から酒をぶっかける。

トノオ  「駄目だ・・・もう飲めねえ・・」

スサノオ 「思った通りだ・・お前たちはここに住んでいた者達だな。酒に弱い。」

ノシッポ 「な、何だ!お前は?」

スサノオ 「旅の者だ。この剣はどうやって手に入れた?随分良い剣だ。」

ノシッポ 「・・・わしらは、渡来人の鉄作りに使われていた奴隷だったのよ。主が死んで自由の身になったのだが、考えた。タタラで鉄を作るには木がたくさん必要じゃ。渡来人は木の切り方を知らぬ、山を丸裸にしてしまう。わしらなら、森のカムイが怒らぬように木を切ることが出来る。季節ごとにタタラを移動しながらな。鉄を押さえ、剣を押さえれば、奴らを押さえることもできる。今では、わしらの剣にかなう剣は無い!・・なあ・・わしらを殺すともったいないぞ・・」

スサノオ 「その力、このスサノオに預けて見ないか?」

ノシッポ 「スサノオ・・・あんたが、高天原で大暴れしたというスサノオか・・!いいとも、渡来人が相手なら依存はねえさ!そうだ、この剣をやろう。アメノムラクモノツルギと名付けた名作だ。」

スサノオ 「よし、旅支度だ」

 スサノオ、オロチたちの縄を解いてやる。オロチたち、いったん去る。

「クシ・イナダ」

イナダ  「有り難うございました!!」

 と抱きつくクシ・イナダ。

スサノオ 「何だか、姉様と同じ匂いがする。」

ムナチ  「あの・・・これを」

スサノオ 「何だい、これは?」

ムナチ  「眼病の特効薬です」

スサノオ 「・・何故、戦う前に出さない?」

ムナチ  「奴らにやられて死んでしまったら、もったいない」

スサノオ 「きさまあ!!」

イナダ  「気をお鎮め下さい・・性格はゆがんでおりますが、決して悪い人間では無いのです。薬をおつけしましょう・・・」

スサノオ 「おお!」

 たちまち見えるようになる。

スサノオ 「何という薬だ?」

ムナチ  「蝦蟇の油と申します」

イナダ  「良いこの皆さんは真似しないでね。」

スサノオ 「誰と喋っている?」

 などとわいわいやっている内にオロチたちが集まってくる。

イナダ  「お別れですね。私はここでお待ちいたしております。きっと帰って下さいますね。」

スサノオ 「・・・」

ムナチ  「わしも待っております・・・。」

スサノオ 「あんたはええ。・・・イナダ、縁が有れば・・・」

イナダ  「もお絶対!もお絶対!もお絶対!・・・信じております」

スサノオ 「さらば・・・」

ムナチ  「ところで、手足には薬も付けておらぬが直ったんかいのう?」

イナダ  「とうさま・・それは云わない約束です。」

スサノオ 「さ、さらばじゃ!」

オロチたち「おーー!!」

 スサノオたち旅立つ。

「高天原再び」

タケル、タヂカラオ、イカヅチたちと戦うオロチたち・スサノオ。スサノオ、戦いをオロチたちに任せてナギの館に忍び込む。

ナギ   「大丈夫、イカヅチたちが負けるわけはない」

 とアマテラス=ウズメを抱き締めているナギの背後から忍びより、アメノムラクモノツルギを喉元に突きつけるスサノオ。

ナギ   「スサノオ・・・私を、お前の父を殺しに来たのか・・」

スサノオ 「そうだ」

ナギ   「私を殺しても無駄だ・・海を見て見ろ」

スサノオ 「何だと!・・・おお、どうしたことだ・・・あれは皆、船なのか!!」

ナギ   「そうとも・・たとえ私が死んでも、続々と海を渡ってくる。きりがないぞ。」 

ウズメ  「こちらを見て!」

 ウズメ、自らの咽に短剣を突きつけている。

ウズメ  「ナギを殺すなら、私も死ぬ。そうなったら、誰が私たちのカムイを祭る?カムイを殺せばいい。あなたの姉様もきっと喜ぶ!」

スサノオ 「クソ!」

 ナギの首飾りが破片となって飛び散る。スサノオ立ち上がる。

スサノオ 「俺はイズモに帰る。イズモをここより強大な国にしてやる!お前たちの国など歯が立たぬようにな。そして、そこで、この島中のカムイを集めて祭ってやる。お前たちに二度と利用されぬようにな!見ていろ、いつかこの大地を元の姿に戻してやる!」

 スサノオ、去る。ナギ、ウズメの短剣を降ろしてやる。

ナギ   「ミイラとりが、ミイラになったようだな・・・」

 館布翻り、ナギとウズメは消える。

「大地の挽歌」

 ウータ・アソビ・シジマが現れる。霧のように現れる。

ウータ  「それから幾年も経った」

アソビ  「渡来人の国は増え続けた」

シジマ  「縄文の民は追いつめられ」

ウータ  「最後の戦いがあった」

アソビ  「いつのことだったか」

ウ・シ  「もう誰も知らない」

ウータ  「何が敗れたのか」

シジマ  「何が失われ」

ウ・ア  「何が残されたのか」

ウ・ア・シ「もう誰も知らない」

「神々の戦い」

雷鳴が轟き、巨大な荒吐神(縄文式土偶)と兵士埴輪が登場する。ツク=ヨミと、アマテラス=ウズメが丘の上から、それぞれを操っているようだ。土偶、遂に首を斬られて崩れ落ちる。

ウズメ  「私は、ここに生まれる国の永遠のカムイに、決して沈むことのない太陽になるのだ!・・この国に、終わることのない呪い(まじない)をかけるのだ!」

 ウズメ、消える。今は、イズモの覇王となったスサノオが軍勢を率いて通りかかり、ツク=ヨミに気づいて抱き上げる。。

スサノオ 「しっかりして下さい!」

ツク=ヨミ「どなたか知らぬが・・かかわらぬが良い・・・」

スサノオ 「スサノオです。あなたの息子です!」

ツク=ヨミ「スサノオ・・・変わったね。私には渡来人と同じに見える。あの男、ナギと同じ・・人の、血の匂いがする。お前は、優しい・・子だった・・・」

スサノオ 「ツク=ヨミ!・・ハポ・・!・・・おかあさん・・イズモには稲が実っています。一面の稲穂が夕焼けの広がる地平線まで続いて、さわさわと黄金色に波うっています。

 カマドの煙が立ち昇る我が家では、妻のイナダヒメが、夕焼けに頬を染め、赤ん坊を抱いて私の帰りを待っています。・・それが、私のクニです・・・けれど、そんな幸せの中でも、私は思いだしてしまうのです・・・!寝苦しい夜の闇の中で・・明け方のまどろみの中で・・幾千、幾万の木の葉たちのささやきを・・深い森の静かな息づかい・・私のふるさとを。私は、ふるさとを守るために戦いはじめたはずなのに・・この、ギチギチ、ギュンギュンと鳴る鉄と青銅の林の中で、私は迷子になったようです。ふるさとが・・・あの優しい木漏れ陽のなかのコタンが、一体どこにあるのか、もう、私には、わからないのです。私もまた、海の彼方から渡ってくる者達と同じ病に、かかっているのでしょうか?・・・ハポ・・ハポ・・・答えて下さい!!!」

 スサノオ、ツク=ヨミの死体を抱いて・・・・。

スサノオ 「一体、幾人の人が死ねば、この悪夢は終わるのだ。一体、どれだけの大地を汚せば、この狂気は満足するのだ。一体どんな薬を飲んだら、この馬鹿げた病は治るのだ!」

 スサノオの背後に迫ったオオムナチ=ムナチのせがれ。鉄剣でスサノオを貫く。

スサノオ 「オオムナチ・・・なぜ・・だ!」

オオムナチ「あなたは、国を率いるには優しすぎる。・・イズモの国はこのオオムナチが引き受けた。心安らかに眠られい。」

スサノオ 「ムナチ・・・クシ=イナダは・・・」

ムナチ  「娘はなにも知らぬ。安心せい、戦で死んだと、云うておくわ。さあ、皆の者!、これよりは、このオオムナチが、イズモの王じゃ!ヤマトに負けるでないぞ!」

皆    「・・・」

オオムナチ「どうした!!不服がある者は前へ出ろ!」

ヤーマ  「・・・オオムナチ様に我が命を!」

皆    「我が命を!!」

 オオムナチと軍勢、スサノオを残して去って行く。スサノオの眼前にツク=ヨミが現れる。

「根の国」

スサノオ 「ハポ・・かあ様・・私は死んだのですか。」

ツク=ヨミ「ここは、根の国・・・。みんな、お前に会いたがっていたようです。」

 アマテラスが、クルミが、出てくる。ナミも出てくる。

スサノオ 「あなたは?・・・」

ナミ   「あなたを生んだ女です。」

スサノオ 「・・・逢いたかった・・・!」

 ナミ、スサノオを抱く。みんなが、スサノオを取り巻く。

スサノオ 「私は、死んでも良かったのでしょうか?私の役目は終わっていたのでしょうか?・・私は間違ったのでしょうか?・・・」

アマテラス「お前は十分に戦った。一休みだスサノオ。」

クルミ  「誇りに思っているよ、スサノオ、我が息子。」

 どこからか、声(荒吐神の)が聞こえる。

声 「・・・悲しまなくとも良い。私は蘇る。何度でも蘇る。必ず、この島から、この世界から、争いのもと、悲しみのもとを絶ってみせる。私は蘇る・・・」

ツク=ヨミ「心配しなくてもいいよスサノオ。クニはいつか、必ず滅ぶ。」

スサノオ 「本当ですか・・」

ツク=ヨミ「本当さ。」

 スサノオ頭を垂れる。暗転。

「ウズメ」

 明るくなると、ウズメの膝の上でスサノオがこと切れている。

ナギ   「随分、幸せそうな顔だ。」

ウズメ  「安らかに魂を送り届けるのも、巫女の仕事。」

ナギ   「・・おまえも信じているのか?」

ウズメ  「どうだか・・・ふふふ・・」

ナギ   「とんでもない女に惚れたようだな。」

ウズメ  「安心しろ・・・三千年も先の話だ。」

ナギ   「それでも、信じるのか?」

ウズメ  「信じる。我らは皆信じて生きていくさ。この大地に生きてきた2万年からすれば、長い時間ではない。」

ナギ   「・・・わしは、お前たちに勝ったのか、負けたのか・・?」

ウズメ  「もちろん、勝てはせぬ。あきらめろ!」

「グランド・フィナーレ」

 兜、甲冑を脱いだそれぞれのキャラクター。総出でグランド・フィナーレ。カーテンコールという事にしても良い 

 

 

未 完

 

 

 物語に登場する人物

スサノオ・・・・・主人公。縄文部族のリーダーの養子。実はナギとナミの子。配役(1)

クルミ・・・・・・縄文部族のリーダー。長老。スサノオを我が子のように育てる。配役(2)

アマテラス・・・・クルミの娘。部族の第一位シャーマン。不思議な力を持っている。配役(3)

ウズメ・・・・・・部族の第二位シャーマン。アマテラスの従姉妹にあたる。配役(4)

シジマ・・・・・・踊りの好きな若者。渡来人に殺される。配役(5)

ウータ・・・・・・歌の好きな若者。スサノオの仲間。配役(6)

アソビ・・・・・・悪戯好きな若者。スサノオの仲間。配役(7)

ツク=ヨミ・・・・クルミの妻。部族の先代シャーマン。配役(8)

イザ・ナギ・・・・渡来人=ヤポネシアへの侵略者達のリーダー。配役(9)

タヂカラオ・・・・力随一の無骨な戦士。ウズメに恋をする。配役(10)

イカヅチ・・・・・軍師をかねる冷酷な戦士。祖国での戦争で両親を亡くしている。配役(11)

オオゲツヒメ・・・ナギの現地妻である女性。通訳と食糧の管理を任されている。配役(12)

タケル・・・・・・ナギの護衛を務めるジャニーズ系。配役(13)

イザ・ナミ・・・・ナギの妻。スサノオの母。最初の航海の時に溺死。配役(7)

ムナチ・・・・・・渡来人系のイズモ族の長老。配役(6)

クシ=イナダ・・・ムナチの娘。アマテラスに似ている。配役(3)

ヤーマ・・・・・・先住民系悪党(イズモ族に寄生している)の豪傑=倭の大蛇の一人。渡来人に習っ た、タタラ製鉄の技術を持っている。双剣使い。配役(2)

トノオ・・・・・・豪傑=倭の大蛇の一人。双刀使い。配役(7)

ロチイ・・・・・・豪傑=倭の大蛇の一人。双鎌使い。配役(12)

ノシッポ・・・・・豪傑=倭の大蛇のリーダー。天群雲剣を持っていた。配役(5)