独裁者2008



【introduction】

惹句:
銀座に独裁者がやって来る!岡山の地で「担白」「従軍慰安婦KEIKO」などの意欲的な作品を制作・上演してきた岡山ピースアクトの、伝説の怪作が遂に首都来襲!事件を目撃せよ!

粗筋:
三畳一間の安アパートで、放射能障害に悩みながら原爆を作っている独裁者は、白い粉の商売でお猿のジョージに搾取されながらも、隣室に住むデリヘル嬢、レズビアンのイクラちゃんに密かな想いを寄せていた…しかし、ある日…

第2回1and2演劇祭参加
岡山ピースアクト「独裁者2008」東京公演

■MAKOTOシアター銀座 
(〒104-0031 東京都中央区京橋3-3-2 (株)誠オフィス 1F)
■2008.7.19(土) 13時/17時(開場30分前)
 同時上演:島田美菜月(極東演劇研究所)「ルピスカ物語」
■2008.7.20(日) 13時/17時(開場30分前) 
 同時上演:平岡正明VS石飛仁・浅井久仁臣トークショー「毒演会!」
独裁者2008
     浅井久仁臣          平岡正明          石飛仁 ルピスカ物語

『独裁者のこと…こうして公演が決まった』 白神貴士


 2005年も春の兆しが見えて来た頃の話でした…「クラブで反戦イベントをやる……
そこでY氏に一人芝居をやってもらうので、台本書いて」と旧知のリキさんに頼まれ、
岡山の老舗(元?)アングラ劇団『銀仮面団』の舞台において、その存在感で
不思議な情念を感じさせる演技をしていたY氏を思い浮かべながら書いたのが、
オリジナルの「独裁者」でした。

 ネタになったのは…西原理恵子「ぼくんち」の世界観と映画「太陽を盗んだ男」、
江戸川乱歩の「天井裏の散歩者」…たぶん。

 三畳一間で婆ちゃんの仕送り受けながら原爆を作っている独裁者という思いつきに、
「ぼくんち」の「こういちくん」を非道にしたようなお猿のジョージ(某国の偉い人)、
隣室に済むデリヘル嬢のイクラちゃん…と話が膨らんでいきました。

 Y氏の意向も入れて若干修正した後、渡しっきりで演出・出演も任せっきり…
所用でイベント自体にも参加できませんでたが、上演の出来自体は今少し、
満足いかない結果に終わったと聞いたのでした。

 東京の演劇祭に持って行きたい、との話を福力氏から聞いたのは2007年の事。
かつてピースアクトに書いた『担白』初演の際、主人公である故・塚越正男氏に
ついての解説の為に、東京からわざわざやって来て下さった石飛仁氏や、かつての
私の愛読書「写真時代」に書いていた(それ以前に竹中労氏・太田竜氏との三馬鹿
ゲバリスタとして、また「日本人は中国で何をしたか」「山口百恵は菩薩である」
等の著者、筒井康隆原作の映画「俗物図鑑」の主演男優として尊敬している)
平岡正明氏や上杉清文氏が一枚噛んでいる「1and2演劇祭」については実は大いに
興味が有りました……ただ、当て書きをしたY氏の参加が不可能な状況だったし、
自身も気力減退期で、その時はもう一つ煮え切らない返事をしていた私でした。

 しかし、リキさんは諦めなかったのです。年も改まり、本格インド・カレーの店
での談判でリキさんの口から出た役者さんの名前…それが遊雲氏でした…
なるほど、彼ならこの役を演じきってくれるはず!

 そこがターニング・ポイントでした。それから場面を追加し、遊雲氏に会い、
超ど級のイビキPAであるリキさんと二人、高速バスで上京という無理をして
(イビキには口をテープで閉じさせるのが効果的!)劇場を下見し、石飛さんや亀社長
(誠オフィス)とお会いし、打ち合わせて帰岡、所属劇団の公演を終えた遊雲氏に返事
をもらい…公演日が決まり…と言う訳で公演に至りました。さてその様子は…   

                       (MAKOTOシアター日記)に続きます。
■「独裁者2008」感想 『弱者だって奪い尽くされはしない』 久野一郎

 「独裁者2008」を観た。東京銀座のMAKOTOシアターで、2008年7月19日と
20日の2日にわたり、昼の部と夕方の部の二度ずつ計4回の公演だった。

 主人公は遊雲(ゆう)演ずる「独裁者」。彼は独裁者だが(自称)でしかなく貧乏なので、
携帯電話で振り込め詐欺をしようとするが「最近は全然だめ」という。名前がキムなんとか
といい、三畳一間のボロ下宿で原爆を作って「白い粉」の商売や「お札」の仕事をしている
という。「独裁者」にそうした仕事を紹介したのは、ジョージという横柄な乱暴者だ。あ゛ー、
そう聞くと、「あ」に濁点打った声を出したくなる、あのヤバイ国のヤバイ国際問題の話だ。
遊雲はコミカルな名演技で、一人何役も演ずる。

 劇は遊雲の一人芝居だが、オープニングで黒いグラサンかけた巨体が出てきてギターを
弾く。曲は「リーベンクイズ」という。カタカナで書かれると判らないけれど、漢字では「日本
鬼子」、中国人が日本軍国主義を憎しみ込めていう表現だ。この曲は演奏者福力祥晃が
作詞作曲をしたもので、日本軍国主義が奪い尽くして奪い尽くしても「♪奪い尽くせねぇ〜」
と絶叫する。彼は中国侵略戦争を語る語り部の塚越正男氏(故人)の語りを聞いて、震撼
したという。ギターの名手、福力の本質を観た思いがする迫力の曲だ。福力の演奏は、劇中
で「ボーンズ・イン・USA」も歌う。

 「独裁者」は、イラクじゃなくてイクラちゃんというデリヘル嬢を侵略する、横暴なジョージの
いうなりになり、ボコられるのが恐くて結局はイクラちゃんがヤられることに荷担してしまい
ながら、叫んでしまう(イクラちゃ〜ん)と。こんなジョージの横暴にケンカを売った者もいた。
昔、日の本組の親分が銭湯(ハワイ湯っていうんだって)に殴り込みをかけたんだけど逆に
やられてしまって、今はジョージのいうなりになっていると。しかし「独裁者」は、もう言うなり
にならない。「みんなに迷惑がかかるから原爆は使わない」で自殺すると言って、ピストルで
頭を撃ち抜き血で「ジョージの馬鹿野郎」と書くんだと引き金を引くが、「ジョージのスペルが
GだったかJだったかわからない」なんて、なさけないことを言って絶命する。悲しい「独裁者」
は、最後までみじめだ。

 ギターを持ったグラサンの巨体が現れ、絶命した悲しい「独裁者」の背中に、旭日旗の日輪
の部分が青地に白い星の、どこかの国々の国旗を合体させたような旗をかけ、「7月のムス
ターファ」を歌う。弱い者は、みんな何時だって悲しいね。くやしいね。腹立つね。だけど、弱者
の物や体を奪い尽くしても心までは奪い尽くせねぇことを強者は知るべきだ。

 この劇の脚本・監修・舞台監督は白神貴士。ホームページでは仮面を付けている画像が
見える謎のアーチストで、国際関係理解が鋭く、地球規模の大きさの難しい国際情勢の話を
横町の商店街の規模のこととしてやさしく説いてくれ、それは深い話だと判らせてくれる鬼才
だ。この劇は、その深い問題を福力が歌い、遊雲がコミカルに楽しく演出し、表現したものだ。
私は公演を4回も観て、観るたびにいろいろなことを考えさせてもらった。帰り、劇場を出ると、
すぐに東京駅八重洲南口。日本経済の勝ち組さんたちの建物が林立するが、その背景の
夏の夜の闇は深かった。

■MAKOTOシアター日記 by 白神貴士


★2008年07月18日金曜日 【場当たり→ゲネ】

木曜夜、遊雲氏と同じバスで東京へ。

LED照明3灯、ビデオカメラ3台など超過重量を詰め込んだ元ケセルンジャー装備用
トランクは目的地まで100Mのあたりで遂に車軸を固定する部分が破損、虫の息に
なりながら遊雲氏の助力もあってやっとこさMAKOTOシアターに到着。
帰りは宅急便送りが決定した。アーメン。

照明のM田さん、舞監のY永さんとプロについていただいて、場当たり・ゲネはさくさく
と進んだ。石飛氏も見て、誉めてくださってアドバイスも頂く。有難し。

浅草橋に万一用のDONクラッカーを買い足しに出向き、ついでに遅い昼食を頂く。
帰館後、場内整備等手伝い、風呂へ行く。
銀座の銭湯は首都高の高架脇にあった。さっぱりする。

受付の取り置き準備とか、ギター弦の張替えとかそれぞれの準備…窓辺なら公衆
無線LANが入ってくるという環境はありがたし。
遊雲氏が行ってみたいという築地市場内の海鮮丼屋をネットで調べる。
ビデオカメラの設置も済ませて一日を終える。

お客様が来てくださるといいなぁ…。おやすみなさい。


★2008年07月19日土曜日 【独裁者2008 公演1日目】

朝リキさんのイビキで目覚めると遊雲さんは築地に海鮮丼を喰いにでかけていた。
結局50人待ちの盛況に恐れをなして隣の店のマグロ丼で我慢したとの事。

11時に同時上演ルピスカ物語の島田美奈月さんが到着。いよいよ本番が近づいた
感が高まる。一回目のルピスカ上演を据付全景の方でビデオ撮影して欲しいとの
ご要望がありカメラのスイッチを入れる事とする。

受付を手伝ってくださるH野氏が到着。近代建築に造詣の深い方なので築80年の
誠オフィスのビルに興味を持たれ、近辺に同じく戦前から焼け残った三井ビル、また
高度成長期やバブル期のビルのデザインについてレクチャーを受けた。

昼の公演にはマイミクのノンシーさんとはるさんが来場される。ワインとお菓子を頂く。
有難し。

夜はモモさんが水族館劇場からのお酒を持ってきてくださる。有難し。

ルピスカ物語は昭和30年代の『嫌われ松子』みたいな女性の物語で嫌味なく味わい
深く面白かった。

「独裁者2008」の出来としてもリハの出来を上回り、H野氏のように大絶賛しつつ、
「この芝居で一度の動員は20人止まりだな。」と断定する方から、話のスケールの
大きさを言うノンシーさん、私らしいというはるさん、リアルなアドバイスを下さったモモ
さんと様々な反応を産む。

終演後、H野氏との4人でプチ打ち上げ、早めには帰るが、リキさんの無呼吸の長さが
気になってしまう。遊雲氏と語っていたら世が明けてしまった…寝なくては!
ラスト2ステージ!一同頑張ります!


★2008年07月20日 【千秋楽】

千秋楽終わりました!(…って二日間なのですが)かなりお客様を選ぶかも知れない
舞台で、宣伝も十分には出来なかったのですが、特に最終回はかなり席も埋まり、
魂のアソコ監督さそりさん、おもてさん&いじりさんなどmixiからお誘いした(どちらも
私の大好きな自主映画の)お客様など、予想よりも多くのお客様に見ていただけ、
意外な好評を多く賜りました。

憧れの平岡正明さんにも「シャープだね」と、また遊雲さんを「男おいどんのような哀愁
があるのが良い」と褒めて頂き、私はちょっと舞い上がってしまいました。平岡さんに
拠ると私は「中村誠一に似ている」らしいです。

浅井久仁臣さんのアラファトとのキス話、世界的スクープの実際などメディア裏話、
石飛仁さんによる花岡事件の画像満載解説、平岡さんのグレンミラーやサッチモ、
ホリディ、志ん生や快楽亭ブラックを縦横に駆使してのスーパー芸談。
……と、二部も素晴らしいプログラムでした。

こうして「独裁者2008」、そして第二回1&2演劇祭は全て終了。

平岡さん、石飛さんと久野さん(←「4回全部観たから●●字で書いてと言ってくれれば
いつでも書くよ」と言って下さいました)、石飛さんの仲間たちや、春駒一座の方、浅井
長政の子孫でもある浅井さん、おもてさん&いじりさん、劇場のスーパープロデューサー
亀さん、照明・音響の達人にしてテルミンなど操る音楽や舞台で才能を発揮している
松田さん、ゴールデン街で名前を売ってそうな陽気で楽しい舞台監督の安永さんなど、
私たち三人も加わって打ち上げがいつ果てるともなく続いたのでした…。

「またこっちに来て厳しい目の中で磨きなさい、才能と可能性があると思うから言ってる
んだ」平岡さんの有り難いお言葉でした。


★ 2008年07月21日 【墓参の月曜日】

打ち上げの後、リキさんの無呼吸の合間に聞こえるイビキをBGMに、遊雲氏と熱く語って
いたら夜が明けて月曜日の朝になってしまった。感謝を告げて遊雲氏と別れ、リキさんと
二人で上野駅から高崎線に乗り、群馬県新町で降りてタクシーへ。

力「このあたりで一番大きなお寺へ」
運「はい?…お寺はありますが、大きい小さいは、良く判りませんねぇ」
力「あ、大光寺だったかな?」
運「大光寺は埼玉になりますが?」
私「そこかどうか判らんよ…」

リキさんが場所を聞いた相手がウロ覚えで、新町駅の近くで一番大きなお寺だから直ぐ
判る…と教わっていた。出る前にgoogle mapを開いて私が近所で最初に見つけたお寺が
大光寺だった。名前が大きそう…くらいの気持ちで「ここかも」とは伝えていたが… まあ、
ウロウロ探すのは覚悟で来た訳だし、とにかく行ってもらうことにした。運転手さんも「普通
は一つ手前の駅から行くが、案外こっちからが近いかも」と言って、我々をお寺へ届けて
くれた。

結果正解で、5分後我々はお寺の大黒さんの案内で塚越正男さんのお墓の前に居た。

線香の煙の向こうへと手を合わせ「あなたを主人公に『担白』を作らせて頂きました」と
遅まきながらのご報告。今回の公演も塚越さんと石飛さんの縁があったから…なのだ。

お寺の鐘突堂前のベンチで帰りのタクシーを待つ。
口をついたのはジャニス版の「サマータイム」。か細く裏声で歌う。
リキさんは黙って立っていた。

「精進落とし」に二人で新宿TSミュージックへ。10日ごとのプログラムの初日だったせいか、
ポラ・ショーに長蛇の列で終わらない…為もあって…踊りで唸るほどの人はいなかった…。
私が一番その気にさせられたコスプレ・ドラマ風の♀♀コンビに他の客も引くくらいの激エロ
ポーズを取らせてポラを熱写していたのがリキさんだというのは内緒に…(爆)
あ、この日デビューの女の子の恥じらいながらの…も、なかなか…

リキさんは新幹線へ、私は品川BTでシャワーを浴びて高速バスへ。
長いようで短い東京公演の旅が終わりをつげた。

【CAST & STAFF】

演出・出演:遊雲

1966九州で生まれる。
1986岡山で芝居にのめり込む。
1988自ら劇団を立ち上げる。
1995会社を辞め劇団一本で生活を始め今に至る。



制作・音楽・出演:福力祥晃-Mr.Lee

1955年岡山県生まれ。高校の頃よりバンドを始める。
その後、演劇と出会い平和を求める活動を行ってきた。
岡山ピースアクト代表として「担白」「従軍慰安婦KEIKO」などを制作。



脚本・監修・スタッフ:白神貴士

1957年生まれ。岡山で様々な演劇・映像・音楽に関わってきた。
現在は「悪の秘密結社」のBOSS。自作の戯曲はWEBでも配信中。
ピースアクトでは「担白」「従軍慰安婦KEIKO」の脚本を担当した。

【岡山ピースアクト演劇公演】

1995 「担白」岡山・西川アイプラザ/山口・はぐるま座  記録動画
1996 「担白」岡山・県総合文化センター  台本
1998 「従軍慰安婦KEIKO」 岡山・西川アイプラザ  台本・画像・感想文
2000 「従軍慰安婦KEIKO」 岡山・西川アイプラザ
2005 「独裁者」 岡山・アクトロン  旧バージョン台本
2008 「独裁者2008」 東京・MAKOTOシアター銀座  台本
2011 「9」 東京・MAKOTOシアター銀座  公式サイト
【1and2演劇祭とは?】

第2回 1and2演劇祭 2008年7月開催

    7.05-06 佐々岡美幸「萬来軒の女」改訂版
          /若宮優子プロデュース「お母さん」と言ってあげたい
              〜たまてばこ、ほらU〜
    7.12-13 縄文座「縄文のビーナス」
          /極東演劇研究所「ルピスカ物語」
    7.19 岡山ピースアクト「独裁者2008」
          /極東演劇研究所「ルピスカ物語」
    7.20 岡山ピースアクト「独裁者2008」
          /平岡正明VS石飛仁・浅井久仁臣トークショー「毒演会!」

「一人芝居、二人芝居に限定した『1and2演劇祭」が2008年夏,
 MAKOTOシアター銀座で開催されます。
 この小劇場を発信基地として、あなたの熱い思いで時代を撃ちませんか。
 また、この演劇祭は、一人の役者と一人の脚本家と一人の演出家が出会う
 場所でもあります。 演じたいが脚本がない。脚本を書きたいが演じる人がいない。
 演出したいが脚本も役者もいない。 そんな集団との縁がない人々、また、集団に
 疲れたが演劇が大好きだという人々が再び芝居を始める きっかけにして欲しいの
 です」(1and2演劇祭HPから)


第1回1and2演劇祭(2007年10月26日〜12月1日)公演リスト

佐々岡美幸      「萬来軒の女」 作・演出…多賀谷忠生

大谷蛮天門      怪談「東京戦争」パート1,パート2
             作…大谷蛮天門 演出:常田万蔵

柳沢絵美        「グッバイ・サー」 作・演出 篠崎隆雄

劇団「不死鳥」     「花岡事件」 脚本・演出・出演
(石飛 仁・金子博文)  

劇団「ギルド」      「星合いの空の下」作・演出 高谷信之
(永島 広美・駒田 忍)

外波山文明       「四畳半襖の下張り」 
               金阜山人・作/原田勤・脚色

南久松真奈       「姥猫お富の語り」 脚本・山口 昭
               演出・出演 南久松真奈

坂本大地        「まっすぐな道でさみしい」 作・演出 伊藤勝昭

島田美奈月       「ねじ式」式予告編 演出・常田万蔵

劇団イワサキマキヲ     「ゼラチン」脚本・演出 槙尾祐介
(岩崎宇内・槙尾祐介)       
             
音室亜冊弓・竹原圭祐 「カチカチ」 作・演出 湯沢公敏

宋 富子         「愛するとき奇跡は創られる」

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